Asia education

社会人のためのアジア理解講座

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お茶を愉しむ〜日本、アジア、ヨーロッパ〜

総括

大東文化大学准教授 瀧口明子

「社会人のためのアジア理解講座お茶を愉しむ〜日本、アジア、ヨーロッパ〜」は、大東文化会館(所在地:板橋区徳丸)の講義室およびラウンジを使用し、2008年10月25日(土)から11月29日(土)まで毎週土曜日午後2時から4時、全6回にわたって開催された。

各回の講師、および題目は次の通りである。各回の講義内容や当日の状況については、講師報告書に詳細な報告があるので、そちらをご一読頂きたい。

・10月25日「ヨーロッパの茶文化」瀧口明子(大東文化大学準教授)
・11月1日「中国の茶文化」高橋忠彦(東京学芸大学教授)
・11月8日「日本の茶文化」田中仙堂(大日本茶道学会副会長)
・11月15日「紅茶と砂糖の出会い」生田滋(大東文化大学名誉教授)
・11月22日「スリランカ紅茶の楽しみ方」磯淵猛(紅茶研究家・エッセイスト)
・11月29日「西アジアの茶文化」鈴木均(アジア経済研究所・副主任研究員)

受講者の募集は学部ホームページなどで行ったが、募集開始直後から多数の応募を頂き、予定より早く締め切るほどであった。受講者は年齢層や職業こそ様々であったものの、茶文化に並みならぬ関心をお持ちの方ばかりで、毎回非常に熱心に聴講されていた。

各回講師の報告書や最終日に実施した受講者アンケートにも見られる通り、非常に充実した連続講座となり、受講者にとっても講師陣および主催者にとっても、たいへん有意義な企画だったといえよう。また、大学の地域社会への貢献という意味でも、意義深い講座であったと考えている。講座が修了した後も、国際関係学部宛てに感謝状が多く寄せられ、直接来校して下さる受講生も引き続いている。

この連続講座を通して、社会人にも開かれた大学の必要性を強く感じさせられた。大学は、意欲ある者全てに対して教育を提供する可能性を有しており、社会的ニーズに幅広く応えてゆくことが、研究・教育機関としての大学の発展にもつながるのではないかと考える。

今後、この講座で得た経験と知識を学生教育に活かし、「お茶」という最も身近な嗜好品を通した異文化理解に役立てていきたい。
 

「ヨーロッパの茶文化」 10月25日 14:00〜16:00

大東文化大学准教授 瀧口明子

社会人のためのアジア理解講座「お茶を愉しむ〜日本、アジア、そしてヨーロッパ〜」全6回の第1回は「ヨーロッパの茶文化」をテーマとし、瀧口が担当した。講義では、まず初めに、連続講座全体への導入として、印刷資料(テキスト)を参照していただきながら茶の基礎知識を概説した。次に「アジア発の世界飲料」と呼ばれるお茶がどのようにして,ヨーロッパへもたらされたのか。初期には、反対論もあったにもかかわらず、しだいに人気の飲み物となり、受け入れられていった過程について話した。講義の後半はプロジェクターを使用し、東洋の茶がヨーロッパで定着し独自の伝統文化を生む過程を絵画と工芸品の中にたどった。教室での講義90分のあと、残りの30分は教室からラウンジに移動して、実際にお茶とお菓子を味わっていただく時間をもつことができた。ヨーロッパの紅茶文化の源流である中国の紅茶2種(祁門紅茶、雲南紅茶)とインドネシアのスマトラ産紅茶の合計3種、お菓子はマドレーヌをお出しした。国際関係学部の事務職員の方と学生たちの協力により、和気藹々とした雰囲気のお茶の時間となった。このテーマに関心を持つ意欲的な受講者が多く、皆、大変熱心に聴講されていた。学ぶ意欲旺盛な社会人の方々に、茶とアジアの文化に対する理解と関心を深めていただく機会を提供できて、有意義だった。
 

「中国の茶文化」 11月1日 14:00〜16:00

東京学芸大学教授 高橋忠彦

社会人のためのアジア理解講座「お茶を愉しむ〜日本、アジア、そしてヨーロッパ」全6回の第2回は「中国の茶文化」をテーマとし、高橋が担当した。参加者は約45名で、全員熱心に聴講されていた。今回は中国の茶文化の発展と変化について、唐と宋に重点を置きながらも、現代に至るまでの概説を行った。先ずはじめは、近日調査した浙江省杭州の茶館や湖州顧渚山の古茶園の写真をパワーポイントで紹介し、現代の茶文化の姿だけでなく、古茶樹の育成環境と唐の陸羽の『茶経』の記事が一致することも、視覚的な資料で理解してもらった。次に、中国の喫茶文化の発展を、時代を追ってパワーポイントで説明した。唐代の製茶と煎茶法の詳細、宋代の製茶と点茶法の詳細を、文献資料と絵画資料を用いて解説し、過去の失われた喫茶法について、できるだけ具体的なイメージが湧くように工夫した。明代以降は現代の中国茶に直接つながるものとして、工夫茶のいれ方も含めて概説した。前半、浙江の写真紹介と唐代の話が終わったところで、休憩を挟み、鉄観音茶を参加者にふるまった。その時間を利用して、陸羽が最も評価した茶の産地である顧渚山の固形茶(これは今年復元されたものである)を粉末にして、湯の中でどのような色彩になるかを実見し、参加者に提示した。『茶経』の記事にある「青磁の茶碗は茶の色を緑に見せ、白磁の茶碗は茶の色を赤く見せる」という事実を確認するためであり、それは成功したといえる。このように、過去の中国の茶文化を多角的に実感してもらいながら、解説することで、参加者の理解が深まったと思われる。最後に質疑応答の時間もとることができた。日本の茶文化と最も関係の深い中国の茶の世界について、社会人の方々の興味と認識をます有益な機会になったものと考えられる。
 

「日本の茶文化」 11月8日 14:00〜16:00

大日本茶道学会副会長 田中仙堂

社会人のためのアジア理解講座「お茶を愉しむ〜日本、アジア、そしてヨーロッパ」全6回の第2回は「日本の茶文化」をテーマとし、田中が担当した。参加者は約45名。講義では、最近の展覧会で茶道史が書き換えられつつある現状と、日本の茶文化を抹茶で代表させた岡倉天心の『茶の本』の記述説明と時代状況を多角的に説明した。そして、天心のみならず、昭和初期の日本が、東洋文明を背負うという意識を持っていることを手がかりに、「帝国」の位置にあった国と日本の関係に注目して、平安時代から現代までの日本の茶を大きくとらえ直す試論を呈示した。やや、専門的な内容ながら、最後まで熱心に聞いてもらえたのは幸いであった。これには、国際関係学部の事務職員の方と学生たちの協力により、途中で、御菓子とお茶の休憩時間を設けてもらった効果も大きいと感謝している。「日本の茶」といっても、利休時代までの説明では不十分に感じられるようになっているのではないか、との予測が確認できたのが最大の収穫である。この成果を生かして、今後の日本の茶文化の説明を充実させていきたいと考えている。
 

「紅茶と砂糖の出会い〜オランダ東インド会社、オランダ西インド会社の果たした役割〜」 11月15日 14:00〜16:00

大東文化大学名誉教授 生田滋

この講義では「紅茶と砂糖との出会い」と題して、16〜18世紀における経済システム、いわゆる「ワールド・システム」の中で紅茶と重要な甘味料である砂糖がどのような位置を占め、それがどのような形で結びついたかを、とくにオランダ東インド会社、オランダ西インド会社の活動に重点を置いて説明してみた。聴講者にとっては目新しいテーマと内容であったようで、講義後の質疑応答でも強い反応があった。私としては「紅茶」という身近なテーマにも其相応の歴史的背景があることを理解してもらえたものと思っている。
 

「スリランカ紅茶の楽しみ方」 11月22日 14:00〜16:00

紅茶研究家・エッセイスト 磯淵猛

この講義では「スリランカ紅茶の楽しみ方」と題して、スリランカにおける紅茶生産の歴史と現状、今後の展望などについて解説した。理解を深めていただくために、スリランカの地図、統計資料、紅茶生産の工程図(写真入り)、スリランカ紅茶生みの親と呼ばれるジェイムズ・テーラー関連資料など印刷資料(テキスト)を配布し、それを参照しつつ講義をすすめた。スリランカをはじめインド、チベットなど他のアジア諸国の茶文化についても、講師自身の現地での見聞や体験に基づき、興味深いエピソードなど交えながら紹介した。後半はラウンジに移動し、スリランカの紅茶を味わっていただく時間を持った。また、このお茶の時間を利用して、講師が各テーブルをまわり、受講生の方からの質問に答えた。受講者の皆さんは、たいへん熱心に講義を聴講され、お茶の時間は非常に和やかな雰囲気で、質問も活発だった。それぞれに、スリランカ紅茶の楽しみ方をつかんで下さったものと思っている。
 

「西アジアの茶文化〜イラン・アフガニスタンを中心に〜」 11月29日 14:00〜16:00

アジア経済研究所・副主任研究員 鈴木均

社会人のためのアジア理解講座「お茶を愉しむ〜日本、アジア、そしてヨーロッパ」の第6回(最終回)は「西アジアの茶文化」をテーマとし、鈴木が担当した。参加者は約40名であった。最終回もこのテーマに関心を持つ意欲的な受講者が多く、大変熱心に聴講されていた。講義の前半では最初に日本人にとっての中東、西アジア、イスラーム世界について簡単に触れ、イランにおける喫茶の始まりの問題とカーシェフォッサルタネによる20世紀初頭の茶生産の導入について概説した。次に1930年代にアフガニスタンにおいて茶の市場調査を実施した尾崎三雄の仕事を概観し、さらに尾崎がアフガニスタン滞在の後にイランの茶の産地を訪れていることを紹介した。後半では教室からラウンジに移動し、鈴木が最近イランから持ち帰ったラーヒージャーン産のお茶とお菓子を実際に味わっていただいた。ここでは国際関係学部の学生さんらの協力を得たほか、イラン文化協会のエラヘさんご夫妻の参加・ご助言を得ることができた。以上報告者にとっても得ることが多く、また和やかな雰囲気のうちに講座を終えられたことは幸いであった。