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「大学生のための県内企業魅力発見事業」報告・企業の研究(2)

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 「企業の研究」は、細田咲江先生のご指導の下、学生が企業に自力でアポをとり、企業を訪問して、業務内容等に関するインタビューを行う、2年次生を対象とする実践型の授業。第二回目は、社会人インタビューの報告会のようすをレポートします。

 5月下旬から6月上旬にかけて、約40社の県内企業を訪問し、入社1年目から3年目の社員の方を対象に、学生の視点で、業務内容や職場環境などさまざまなトピックについてインタビューを行いました。

 開講前の準備段階において、「1人1社の訪問」というノルマに関して、「1人でアポ取りができるのだろうか」「1人1社は無理。せめて2人で1社か2社を担当させては」などと懸念していましたが、まったくの杞憂でした。すべての学生が、1社どころか、1人で2社でも3社でも難なくこなしてくれたに違いありません。不明を恥じるばかりです。

社会人インタビュー報告会

 6月10日の授業から「社会人インタビュー報告会」がはじまりました。全員がPPT資料を準備し、5分の持ち時間で、企業基本情報、インタビューの内容、企業の魅力などを盛り込んだ発表を行いました。

 学生の質問は、「入社の動機は?」から「学生時代との違いは?」「仕事のやりがい(達成感を感じるとき)」「会社の強みは?」にいたるまで多岐にわたっています。いずれの報告からも、数々の直球の質問に、社員の方々に、やさしく、しかし本音で答えていただいているようすがありありと浮かびます。

 「仕事をする上で大切にしていることは?」という質問への回答には、今日からでも実践したい有用な行動規範が散見されます。「仕事は早め早めにこなす。自分が抜けても業務に支障が出ないための配慮として記録に残すこと」「社会人としての責任を自覚すること」「言い訳をしない」「失敗を引きずらず、これからにどう生かすかを考える」「絶対にNOと言わない。NOの場合は、代替案を用意する」「一度聞いたことは二度、三度聞かないように、一回目に、わかるまで質問しながらしっかりと聞く」「自分の色を出す。自分しかできないような仕事をする」。「決まるまでは戦い、決定したら従う潔い態度も必要だ」。

 就職活動を二年後に控えている学生ならではの、「求められる人材」をめぐる多くの質問を行われたようです。「会社において『優秀な人』というのはどういう人か」「活躍している人に共通する能力や考え方は何か」「採用担当ならどんな人を採りますか」。なかには「会社説明会で印象に残るのはどんな学生ですか」といったかなり実践的な質問も。

 「企業の魅力」についても、企業の社員の皆様に、ふんだんに語っていただけました。「地域に目を向けて一人一人の顧客を大事にできるのが、大企業にない中小企業のやりがい」「アットホームな雰囲気で、上司との距離も近く、社員同士の仲がよい」「地元を大事に。地域密着地域貢献に熱心」「責任のある仕事を任せてもらえることが、やりがいにつながっている」「経営者が社員を大事にしている」「社員全員で会社をつくっている雰囲気がある」「社内が明るい」「共生ならぬ『共成』型の仕事。仕事を通じて、社員と会社がともに成長をめざしていく」「オールラウンドプレーヤーになれる」「一人一人が自分に自信をもっている」「実力があれば上にいける」「経営に直結できる挑戦できる環境がある」等々。

 学生生活で留意すること、そして就職に向けた「学生へのアドヴァイス」「人の話を聞くときに、質問を考える癖をつけること」「生き甲斐となる趣味を見つけよう」「目的意識をもち、将来なりたい自分から逆算してそれに向けて行動すること」「実用的な能力とハングリー精神を身に付けよう」「勉強第一。問題解決力を習得しておくように」「自分の考えを他人に『言葉にして』伝えられるように日本語の表現力を磨くこと」「自分がどんな人間なのか。自分にどんな魅力があるのかを知ること」「4年間のうち1年間だけでいいから、何かに必死になってもらいたい」「お金はいつでも稼げるが、時間は学生時代にしか稼げない(今の時間を大事に!)」「自分の中に一つの柱をつくれ」「短時間でできるストレス解消法をつくっておく」「昔の情報を知っておく(顧客は年輩者であることが多い)」「親友と恋人をつくれ」。

 就職に向けて。就職で人生が決まるので本気で考えること」「なぜこの業界、なぜこの会社かを、しっかりと説得的に語れるように準備すること」「業界を選択するにあたって、自己規制せずに視野を広げること」「就職先を一つに絞らず、選択肢を持つこと」。

 いずれも、日々の仕事の体験から紡ぎ出された「至言」ではないでしょうか。

 

社会人インタビューから学んだこと・気づきを得たこと

社会人インタビューの報告には、初めての企業訪問を体験した大学2年生の、初々しい「感動」と「達成感」を窺うことができます。震える指で電話番号を入力、何を言ったか覚えていないほど緊張したことや、アポ取りができたときの感動を語った学生。訪問する事務所を間違えてしまい動揺し焦ったが、社員の方のやさしいサポートのお陰で、予定のインタビューを行うことができたと嬉しそうに語る学生。遅刻しないように1時間以上も早く家を出たのに、不運にも、電車の遅延のために、約束の時間に到着できなかったと悔しさを滲ませた学生。その一方で、約束の時間より1時間以上も早く着いてしまい、まわりに時間を潰す場所もなく、入口付近で待っていたら、たまたま通りかかった社員の方から声をかけていただきほっとしたことを、当日さながらの表情で語ってくれた学生もいました。

 アポを取ること(アポ取り前には、企業側の反応を想定したシミュレーションや準備が必要だという気づき)、指定された場所に、約束の時間の10分ほど前に着くための下調べ、身だしなみから初対面の挨拶。インタビューの切り出し方。すべてが「初体験」です。インタビューはおろか、そこにたどり着くまでの一連の行動も、学生生活の“ゆるさ”からは想像もつかない社会人の行動規範への気づきを得たり、就職活動に向けての有益な体験になったのではないでしょうか。

 

 インタビューから学んだことや気づきを得たことなどが、思い思いの表現で、率直に語られました。圧倒的に多かった意見は、次の3つにまとめることができるように思います。社会人インタビューが「自分を見直すきっかけとなった」「中小企業の魅力を知ることができた」「自分が就きたい企業を選ぶ基準の多様性を実感できた」。

 学生の生の言葉をいくつか記しておきましょう。「今の自分に何が足りず、これから何を頑張らなければならないかを明確に自覚することができました」。社会人の方々が、『誇り』と『喜び』を感じながら働いていることがよくわかりました」。「自分は将来の仕事を決めていて、これまでそれ以外の仕事のことを知ろうともしなかったけれど、今回のインタビューにより、自分の狭さに気づかされました」「なんとなく中小企業よりも大企業に勤められたらいいなと考えていました。けれども、インタビューで伺ったお話や、友人たちのたくさんの報告を聞いて、中小企業に対する見方が大きく変わりました」。

 

 ほとんどの学生が、2年生の前期に「社会人インタビュー」を体験できたことについて『感謝』の言葉を口にしていたのがとても印象的でした。

まとめと今後の課題

 報告会の終了後、細田先生からは、今後の目標が、次のように力強く語られました。「社会人インタビューにより、業界や企業のこと、そこで働く社会人の考え方や行動の仕方を知ることができました。大学での学びやアルバイトの経験だけでは決して得られないきわめて有益な情報です。しかし『企業の研究』は、情報の収集で終わりではありません。「生涯、満足できる社会人生活を送るためには、何をしなければならないか」。このことを、今、真剣に考えてもらいたいと思います。「学生へのアドヴァイス」(前述)にもありましたが「目的意識をもつこと。将来なりたい自分から逆算してそれに向けて行動すること」です。そのために、みなさんには、インタビューを「よき思い出」や「感動的な体験」に解消することなく、インタビューで得た情報を、自らの残りの大学生活に落とし込んでもらいたいのです。

 残り三回の授業は、『キャリアデザインマップ』の作成が中心になります。各自が自分の目標を定め、その目標にむけてのアクションプラン(行動計画)が作成できたら、仲間の前で宣言してもらいます。

 9月からは、同じクラスで「問題解決学Ⅰ」が開講されます。企業の提示する生の経営課題に、チームで取り組む、いわば「本格派PBL」の実践です。社会人インタビューの成果が存分に発揮されることを期待したいと思います。

謝辞

 お忙しい中を、「県内企業魅力発見事業」の趣旨にご賛同いただき、インタビューにご協力いただきました40の企業の皆様に心よりお礼申し上げます。学生の報告からは、職場環境のすばらしさや地域社会への貢献のありようを知り、企業で働くことの意味を再認識させられていることがよくわかります。今回のインタビューは、学生たちの今後の成長の糧になるに違いありません。真摯にご指導を賜われましたことに、記して深く感謝の意を表する次第です。

 社会人インタビューの4月からの実施にあたっては、埼玉中小企業家同友会(代表理事久賀きよ江氏信次氏)に、全面的にご協力いただきました。学生のインタビューをうけていただける、本事業に必要な40もの企業をすべてご推薦いただきました。埼玉中小企業家同友会の事務局には、「何もかもが初めて」という学生のインタビューが順調に進捗するよう、本学のかわりになって、細心の配慮をもって、企業様との連絡調整に当たっていただきました。深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

学部長・新里孝一記)