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卒業生幕田魁心氏フランス社会功労月桂冠奨励勲章受章

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芸術分野では最高の王冠付(金)勲章

本学中国文学科卒業の幕田魁心(本名:隆)氏がフランス社会功労月桂冠奨励勲章3等を受章した。

フランス社会功労月桂冠奨励勲章とは、1920年11月6日の政令により規定されている。
専門職業分野、芸術分野に於いて人類愛、博愛の面でフランス海外フランス地域及び外国で様々な形で愛他主義を普及し発展するように努め且つ精神的物質的に優れた人物への褒章として贈られることを定めたものである。

昨年11月に受章式がパリ日本文化会館において行われ、その様子とフランスでの個展の様子を記してもらった。

以下受章者の言葉
パリでの受章と個展を終えて
幕田隆(魁心)
 昨年十一月三日、パリ日本文化会館においてフランス・アンクラジュマン ピュブリック(社会功労奨励勲章)王冠付(金)勲章(旧コマンドール・三等)を拝受致しました。
 会場の小ホールにはフランス国旗が掲げられ、大きなスクリーンには私の紹介DVDが流れ、舞台上にはフランス本部会長をはじめ委員の方々が顔を揃え、階段式客席には我が会の会員やパリの名士・関係者約百名が居並ぶ中、会長と日本部代表の立松弘臣氏の手によって首に勲章がかけられ、会長より證証が手渡されました。
 この勲章は、一九三二年の政令により制定され、今年八十五周年を迎える由緒正しきもので、芸術分野としては今回の王冠付(金)勲章が最高のもののようです。過去には画家の岡本太郎氏や俳優の三船敏郎氏が受章されていますが、書道界では初となります。
 私のこれまでの活動(書教育・書作家活動<北京・ニューヨーク・パリ・鳩居堂等での個展二十五回、著書三十六冊、ニューヨーク総領事館・中国紹興市博物館への作品収蔵>等)が評価され顕彰されることは、私にとって誠に光栄なことであり、この上ない喜びであります。しかしそれ以上に、芸術の都パリにおいて書道活動が芸術文化として評価されたということは、すなわち「書道は芸術である」と世界が認めたものであり、それは書道界にとっても喜ばしく今後の明るい展望につながるに違いありません。しかしまた同時に、私の新たに置かれた立場や重責を思うと、身の引き締まる思いが致します。
 パリ日本文化会館は、エッフェル塔のすぐ南にあり、目の前にはセーヌ川が流れ、川向こうにパッシー地区という高級住宅街が臨めます。このように立地条件の良い会館の地上階(一階)の展示スペースを借り、十一月二日から十二日まで個展を開催いたしました。玄関を入りセキュリティを抜けた正面奥に赤い紙に書いた大型作品「雲龍風虎」(175×535)をメインに据え、右側の壁面には屏風作品三点と「威風堂々」(211×203)、左側には机や台に扇面や刻字作品を乗せ、入り口右側の少し奥まったスペースには掛け軸や小品を展示しました。作品総数は三十五点。おかげさまで連日大盛況でした。やはりフランスだなと感じたのは、アーティストと称する人の多いこと。画家はもちろんタトゥーの彫師、彫刻家、刺繍家、音楽家、作曲家など様々なジャンルの人たちと出会うことができました。
 五日(土)の「和楽器と書・剣道形と書」と銘打ったイベントには、百人以上の参加者がありました。まず地上階の展覧会場で作品の解説を行い、その後五階のホールへ移動してパフォーマンス(席上揮毫)。日本から持参した二面の箏の音に合わせてゆったりとした行書体で「響」を、三絃(三味線)に合わせて強弱を強調しスッキリとした隷書の木簡調で「響」を、当地でレンタルした和太鼓のリズムに合わせて堂々と力強い楷書体で「響」を書きました。つまり、同じ「響」という字を書いたのですが、楽器の音色やリズムに合わせて三種類の異なった書風に書き分けたのです。そしてそれぞれの「響」を掲げ、各楽器の演奏を聴きながらじっくりと鑑賞していただきました。その後、ベランダで剣道の形を披露。剣士は佐久間剛七段と水林優一郎四段。もちろん模擬刀でしたが、息を飲む迫真の演技で観客を魅了しました。演技終了後再び中へ。「剣」を力強くキリッとした楷書で表現。特に最終画は、切れるような鋭い線質としました。演技の像が脳裏に残る中、誰もがその書風に納得された様子でした。
 会館での会期終了後、作品をそっくりそのまま画廊「アトリエ・ヴィスコンティ」に移し、十一月十五日から十二月十日まで展示しました。ここは、サンジェルマン・プレ地区と言ってセーヌ川の左岸にあり、パリで最も古い教会を中心に画廊が多く立ち並ぶことで知られることから、週末には観光客や画廊回りの人で溢れます。この画廊は、決して広くはありませんが、展示スペースは地上階と地下とがあり、地上階には吹き抜けのホールと小部屋のような小さなスペース。地下は洞窟のような造りで、四部屋に分かれています。石積みの壁に真っ白な漆喰が塗られているのですが、それが所々剥がれ落ちていて、それを修復もせずそのままにしてあって、それがまたいい雰囲気を醸し出し、書とピタリと合うのです。会館では広いスペースで堂々とした展示でしたが、ここでは全く違った展示となり「これはこれでいいか!」と、満足のいくものでした。
 またこの展覧会の接客係に、「元ルーブル美術館学芸員」の肩書を持つフランス紳士が当たってくれました。彼に感想を聞くと、「魁心の作品に日々接しているととても心地よい。魁心の作品には技術や表現を超えた哲学がある。筆を持って書いている姿はまさにサムライだ。持っている筆が刀のようだ。素晴らしい。」と。そして、これからどうするべきかアドバイスも貰いました。これは私にとって一番の成果だったと思います。
 今回の受章やパリ個展は世界へ向けての第一歩です。文化の違いや言葉の問題等さまざまな課題はありますが、一つずつ乗り越えて歩を進めたいと思っています。