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研究部会

日本近代文学・再読


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研究班代表
下山 孃子

当班の活動は第三期に入り、以下のように研究計画を立て、進行している。

4月25日

第一回目・今年度の研究テーマを、特に〈文学と歴史〉と設定し、文学と日本近代史との相関をめぐる諸問題について、テクスト分析を行いつつ、考察することとする。

6月26日

下山孃子が、野上弥生子『森』を対象とし、研究発表を行う。明治二十年代から三十年代にかけての、社会史、女性史、教育史、文化史、等々との相関における文学テクストのありようを分析する。作者の採用した小説方法は、歴史的に実在する人物名と、仮構によるそれとの混在であり、発表当初から問題視されてきている。磯田光一、桶谷秀昭、大岡昇平、本田和子、坂本育雄らの先行研究について論じ、日本近代の女子高等教育機関として屈指の存在であった日本女学院(明治女学校がモデル)の教育理念、その衰亡の過程と原因理由等が作中にいかに描出されているかについて論じた。
  
巌本善治をモデルとする岡野直巳の、日本女学院校長として、また当時の開明的女子教育者としての実態がいかなるものであったのか、野上弥生子は明治女学校の卒業生の一人として、巌本善治の『海舟座談』に着目し、岩本が勝海舟その人に親炙し、特に女性との関係における勝海舟の姿を模倣しようとしたとの解釈を見せる。(本発表は、2010年2月発行の大東文化大学日本文学会『日本文学研究』第49号に「野上弥生子『森』-虚実の狭間に-」と題して掲載。)

9月18日

杉井和子が、夏目漱石「趣味の遺伝」について、「枠組みとしての日露戦争と諷語としての余-」と題する研究発表を行う。語り手の「余」が日露戦争で死んだ「浩さん」を思い出し、墓参した時に出会った美女と「浩さん」との悲恋の物語について知るに至る。日露戦争と恋の話を繋いでいくことは、なにを意味するのか、結末の不自然さ等について、漱石のモチーフを探る。越智治雄、竹盛天雄、菊池弘、内田道雄、塚本利明、小林幸夫らの先行研究を分析し、漱石作品における日露戦争にも言及。更に、森外『うた日記』にも触れ、当時の新聞報道との接点をも探るという、多方面に亘る発表であった。

10月30日

小林幸夫が芥川龍之介の「将軍」について、「将軍論-N将軍受容の力学-」と題する研究発表を行う。作中人物の田口一等卒、堀尾一等卒、或亜米利加人、副官、穂積中佐、中村少将、中村少将の息子、各々についての詳細な分析をもとに、見られる自己(他者の視線を意識して死ぬという行為)に、あるヒーロー性を見ている登場人物を設定し、乃木神話(N将軍は乃木将軍がモデル)を揺すぶるテクストである、という見方を提示した。関口安義、奥野久美子らの先行研究や、外の『うた日記』中の「乃木将軍」にも触れた。

12月4日

奥出健が研究発表。(第二次世界大戦に関わるものについて発表予定であったが、勤務校における緊急理事会のため、延期となる)

1月29日

高橋真理が、井伏鱒二「漂民宇三郎」についての研究発表を行う。天保九年に起こった長者丸漂流の事件に関する実在の史料「蕃談」、「時規物語」「漂民聞書」、架空の史料「異国物語」の区分けを行い、成立事情、史料の再構成の仕方を詳細に分析。作中における宇三郎の動きを中心に追い、ウワヘ島での出来事(オイレンとの恋愛、二粒の籾からの苗代作り、カムサッカでの出来事)について検討する。次いで、「宇三郎とは誰か」という問に、刈萱(石堂丸)に託された、生涯を旅に生きねばならぬ漂泊民として捉える視点を提示、更に、「帰国しなかった(出来なかった)漂民たち」という視点から、登場人物各々を緻密に分析していき、井伏は、「書かれた歴史」を用いながら、「書かれなかったもの」までをも書いているという結論に至った。膨大な史料を読み込み、かつ、説得性のある論理展開によって、刺激的な研究発表を行った。

当班は、次年度、独自の紀要別冊(近代文学研究III)を刊行予定である。



(2010・2・7記)


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