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「中国美学研究」から
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研究班代表
河内 利治

われわれ中国美学研究班は2001年度(H13)の設立以来、今までに人文科学研究所・研究報告書として「成復旺主編・中国人民大学出版社『中国美学範疇辞典』訳注」第一冊(02年度)、第二冊(03年度)、第三冊(04年度)、第四冊(06年度)、第五冊(07年度)を刊行してきた。この刊行物はお陰さまで国内外の研究機関と個人から好評を博している。また研究所紀要「人文科学」に毎年研究班の訳稿を発表し、随時研究員が論文投稿を行っている。7号(01年度)「訳注稿」、8号(02年度)「訳注稿(二)」、9号(03年度)「訳注稿(三)」、10号(04年度)「訳注稿(四)」、12号(06年度)秋谷幸治「元 聞白楽天左降江州司馬 詩の解釈をめぐって」、13号(07年度)「訳注稿(五)―情と景」、14号(08年度)「訳注稿(六)―勢」および宮下聖俊「崔国輔詩に対する殷の評価 婉 が意味するもの」がそれである。本年度も訳注稿(七)と論文投稿の予定で進めている。この間、河内(01~02/09年度~)と門脇(03~08年度)が班長を交替しながら運営を続けてきた。研究員は当初11名であったが、現在20名のメンバーに成長した。

本年度は幸運なことに、高建平先生(中国社会科学院文学研究所研究員・文学理論研究室主任)の面識を得ることができた。大東文化大学大学院文学研究科中国学専攻主催「外国人特別講師」として招聘され、「従幾個比喩観書法対中国絵画的影響」と「現代中国美学的形成従“美学在中国”到“中国美学”」の二講義を行って頂いたことによる。高氏には次の四冊の著書がある。

  1. 『畫境探幽』香港天北図書 1995
  2. 『The Expressive Act in Chinese Art From Calligraphy to Painting』UPPSALA 1996
  3. 『全地球与中国芸術』山東教育出版社 2009.1
  4. 『全球与地方比較視野下的美学与芸術』北京大学出版社 2009.5

前者の講義は1と2の著書、後者の講義は3と4の著書に基づき行われたものである。後者のテーマは英語で言えば、“Aesthetics in China vs. Chinese Aesthetics”となり、先生の言葉を借りれば「中国美学」の「普世性(普及性)」が近年の課題であるという。歴史上、蔡元培、王国維、梁啓超は「美学」の概念を中国に紹介した先人であり、その後の重要な「中国美学」研究者として、朱光潜・宗白華・蔡儀・李沢厚の4人が居ることを報告された。稿者の興味を引いたのは、「空間」についての西洋と東洋の対比である。

西洋
幾何および三角によって構成される透視学の空間
東洋
陰陽・明暗・高下・起伏によって構成されるリズム化された空間間

来夏8月上旬に北京大学で「国際美学協会」主催の会議が開催予定と聞く。『中国美学史大綱』の著者であり、高等教育出版社2003年刊行『中国歴代美学文庫(全19冊)』総主編の葉朗先生(中国社会科学院)が開催準備を進めておられ、英語でのペーパーを用意しなければならないが、是非とも参加したいと思っている。というのも、稿者は書道学専攻院生会編「書道学論集6」08.3発行に「葉朗著『中国美学史大綱』序論訳注」を監訳掲載したからである。葉先生の『中国美学史大綱』序論には、「中国美学」に関する多くの示唆に富む提言が含まれており、冒頭に「この序論の中で、以下のいくつかの問題について述べたい。それは中国美学史を研究する意義、中国美学史の対象と範囲、中国美学史の時代区分、中国古典美学に関して広く行われている見方に対する考察である。」と述べ、次のような目次を立てて論じている。

第一節
系統的に中国美学史を研究することは、現代美学体系を確立するための切実な要求である
第二節

中国美学史の対象と範囲

第三節

中国美学史の時代区分

中国古典美学の発端
先秦・両漢
中国古典美学の展開
魏晋南北朝から明代
中国古典美学の総括
清代前期
第四節

中国古典美学に関するいくつかの流行する観念の考察

  • 西洋美学は「再現」、模倣を重視したので典型の理論に発展した。
  • 中国美学は「表現」、感情を重視したので、意境(境地)の理論に発展した。
  • 西洋美学は哲学認識論に偏り、「美」と「真」の統一に重点を置く。
  • 中国美学は倫理学に偏り、「美」と「善」の統一に重点を置く。
  • 西洋美学は理論形態に偏り、分析性と系統性を持つ。
  • 中国美学は経験形態に偏り、随感的、印象的、即興的なものが多く、直観性と経験性を持つ。

葉先生の本文を読解し、高氏の講義を聞きながら考えるのは、中国美学研究班の進むべき方向についてである。従来、漫然と中国の美学(文学芸術理論)を共同研究する班として翻訳を中心に活動して来たが、標題に「中国美学研究」から「中国美学」研究と示したとおり、「中国美学」自体を学問対象とすべき時期が到来しており、それは延いては「日本美学」の構築に繋がるからである。


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