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文学部|文学部 日本文学科
2012年07月20日
播本眞一先生
日本文学講読4
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先生の講義「日本文学講読4」とは、どのような授業ですか?

近世、つまり江戸時代の文芸を原典(複製)で読む、2年生以上が対象の授業です。1年間あるうちの前期は“笑い”をテーマに、噺本(はなしぼん)と呼ばれる、現代落語のもとになったような短編をいくつか扱います。後期は“恐怖”をテーマに、江戸時代の短編怪異小説を同じく原典で読んでいきます。この授業の一番のポイントは、原典に基づき、江戸の人がどういうことを面白がっていたのか、また怪異というものをどう捉えていたのかといった、当時の人の感性を知ることにあります。そのために、前期の授業では、まず近世の作品に使われている変体仮名(現代とは異なる字体の仮名)が読めるようになることを目標に進めていきます。できるだけ短い話を取り上げて、読解の訓練をします。変体仮名はもともと漢字からできているのですが、学生はパッと見ただけでは読めません。ですから、事前に変体仮名の一覧表を渡して、調べたり覚えたりできるようにしています。学生の多くは、初めて変体仮名に触れますし、中には高校時代に古典を十分に学んでいない学生もいます。ですから、まったく新しい言語を教えるくらいの気持ちで、丁寧に教えるよう心がけています。2年生の段階で変体仮名を読む経験をしておけば、原典を読む力がある程度はつくので、古典作品を研究する際に役立ちます。

“笑い”や“恐怖”の考察としては、どんな話をされるのですか?

前期では江戸時代の噺本に、どういう笑いのパターンがあったかということを話します。例えば、『正直咄大鑑(しょうじきばなしおおかがみ)』「ときのかねのいひなし」という笑話があります。これは、二人の登場人物が会話する形になっていて、片方がひたすらボケ続けるという“ボケとツッコミ”のパターンの小咄です。現代の、漫才やコントのやりとりを想像していただければよいでしょう。また、江戸時代に絵師や作者として活躍した、曲亭馬琴(きょくていばきん)の先生でもあった山東京傳(さんとうきょうでん)が書いた『作者胎内十月図(さくしゃたいないとつきのず)』という黄表紙(絵本)を例に話すこともします。これは江戸時代の笑いを分析した作品とも言えるものです。話としては、作家である山東京傳が作品を生むのに困って、寝込みます。そこに怪しい医者が来て、作品を生ませるための薬を調合して与える、という出産や薬の調合のパロディです。話の中ではどういう薬を与えるかが書かれていて、そこに江戸の笑いの要素が見て取れます。結局、何が一番重要な笑いの要素かというと、“地口(じぐち)”だとされています。つまり同音異義語、今で言うダジャレやオヤジギャグです。現代と違って、当時はそれが笑いの大切な要素だったというわけです。


後期に入ると、短編の怪異小説を読みます。例えば、『諸州奇事談(しょしゅうきじだん)』「相州の山鬼」という作品。これは、猟師が山中で、人の心を読んで口に出して言う怪物と遭遇し、それとどう対決して逃れるかという話です。心を読むというエスパーみたいな話も江戸時代の人は、すでに作品化していました。その発想の大本は、仏教の“六神通(ろくじんずう)”にあると考えられます。他にも現代と随分イメージが違うものに、幽霊があります。実は江戸時代の幽霊は、逆立ちして出てくるものが多いのです。それが何を意味しているのか、なぜ逆さまなのかということを話したりもします。

では近世文芸の魅力とは、どのようなところにあると思われますか?

近世文芸全般としては、さまざまな種類があるので、ひとことで述べるのは難しいです。ただ、私が研究している曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』について言うならば、作品に仕掛けられた謎を読み解く面白さは無限だと思っています。現代の文学作品には「人生とは何か」「人間とはどのような存在か」といったことを追究する側面がありますが、江戸時代の文芸は、そういう事柄を扱うことは稀でした。当時の文芸の多くは戯作(げさく)と呼ばれる、いわば“お遊び”です。人間や社会のまじめな問題は、漢詩や漢文で扱われていました。ですから江戸時代の作品は、「何を描くか」ではなく「どう描くか」に重きを置いた表現中心の文芸といえるでしょう。そんな中で『南総里見八犬伝』は、一般の戯作とは一線を画していました。当然、作品は商品ですから面白くないといけませんが、それだけでなくその背景には馬琴ならではの世界観、歴史観が描かれ、娯楽性と思想性を兼ね備えた作品になっています。なぜ馬琴はそういう作品を書いたのかと考えながら読んでいくと、思想史の問題や幕末の政治的な問題とリンクし、『南総里見八犬伝』が儒教のお題目を書いた単純な作品ではないとわかります。とはいえ学生は、近世の文芸に触れることも初めてだと思うので、まずは授業を通して近世の作品を読み、知らない世界に触れてみるところから始めてもらえればと思っています。

最後に、学生へのメッセージをお願いします。

日本文学科では、4年間の集大成として、400字詰め原稿用紙換算で100枚を標準とする卒業論文を提出することが決められています。100枚以上の卒業論文を書くには、自分でテーマを決めて、調べ、考え、書くということに真剣に取り組まなければなりません。それを経験した学生は、確実に成長します。卒業論文で身につけた力は、社会に出て、どんな仕事に就いても役立つはずです。100枚以上もの卒業論文を書けるように、本学科では、3、4年のゼミを同じ教員が教える連年ゼミにしています。加えて4年生では「卒業論文」という授業も用意しています。また、1年生には日本文学基礎演習、2年生では日本文学演習があり、どちらも15人ほどの少人数教育で基礎を固められるようになっています。日本文学科はこうした学びの柱がしっかりあるので、それを軸に古典、近現代、比較文学、日本語学と幅広く学び、興味のある分野を見つけ、実力をつけて下さい。

この内容は大東文化大学メールマガジン2012年7月号において配信した内容です。
そのため、他の授業ゼミ紹介ページと原稿テイストが異なります。

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