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【先生に聞いてみた】世界中で問題になっている「オーバーツーリズム」インバウンドが増えた日本の今と未来について知りたい!【前編】

#文学部#社会学部#授業・ゼミ

政治やカルチャーをはじめとした幅広い分野から「今注目が集まっているトピック」をピックアップし、テーマと関連の深い専門家に、それぞれの視点から考察・解説をしてもらう企画「先生に聞いてみた!」。  
今回のテーマは、日本でも問題視されている「オーバーツーリズム」。教えてくれたのは、歴史文化学の専門家である野瀬先生、財政学の専門家である塚本先生です。
本記事では、そんなふたりの先生のクロストークの様子を、前後編に分けてお伝えします。前編では、日本を訪れる外国人旅行客が増加した背景や、それによってどんな変化が生じているかをまとめました。

インタビュープロフィール

野瀬元子 先生 
文学部 歴史文化学科 教授
専門分野:観光歴史学、観光学

 

塚本正文 先生 
社会学部 社会学科 教授
専門分野:財政・公共経済、観光政策

オーバーツーリズムとは?

その地域のキャパシティを超える数の観光客が押し寄せることで、住民の生活や自然環境に支障が出たり、旅行客の満足度が下がったりする状態。
新型コロナウイルスの流行以前は、世界全体の国際観光客数が20年以上ずっと右肩上がりの状態にあり 、さまざまな観光地でオーバーツーリズムが問題になっていた。渡航制限が緩和され、再び国際観光客数が増えている今、各国で対応を迫られている。

インバウンドとは?

海外から外国人が訪れる旅行のこと。日本におけるインバウンドは、「訪日外国人旅行」「訪日旅行」と言い換えられる。反対に、自国からの海外へ旅行することは「アウトバウンド」という。

日本にたくさんの外国人旅行客が訪れるようになった理由は?

日本政府観光局(JNTO)の調査によると、2019年の訪日外国人旅行者数は、約3188万人にも上りました。その後はコロナ禍で大幅に減少するも、2023年には約2507万人まで復調しています。 2003年時点では約521万人だったことを考えると、その数は大きく増加していますが、どんな理由があるのでしょうか?

野瀬先生:今となっては信じられないかもしれませんが、日本は先進国のなかで、海外からの旅行客が少ない国でした。
一般的に、「観光大国」になるためには、以下の3つの条件を満たす必要があるといわれています。

 

① 文化の知名度が高いこと(多くの人がその国に行きたいと思えること)
② 治安がいいこと
③ 交通インフラが整っていること(旅行客が現地で好きなように移動できること)

 

 

外国人旅行客数が現在の2割ほどだった2003年当時も、日本は上記の条件を満たしていますが、なぜかその人数が伸び悩んでいたんですね。
そこで当時の首相である小泉純一郎氏は、施政方針演説に「観光立国宣言」を盛り込みました。それ以降、政府は訪日観光の推進を目的としたさまざまなプロモーションを展開。その結果として、日本の食、コンテンツ、生活、伝統文化などの発信力が増し、この20年の間に日本の「ソフトパワー(自国の価値観や文化によって相手を魅了し、味方につける力)」が大きく向上しました。これが、外国人旅行客の増加の背景にあると考えられます。

どうしてインバウンドの増加を目指したの?

政府による施策が功を奏し、インバウンドが増えたことのメリットについて教えてください。

塚本先生:インバウンドが増えるメリットを端的にいうと、地方自治体の税収が増え、地方創生(人口減少を抑止し、持続可能な発展を目指すこと)を期待できることでしょう。
外国人観光客がホテルや飲食店、土産品店などを利用すれば、地域における消費額が増加します。これは単に各施設の売上が増えるというだけでなく、「地方消費税」の増収につながるんです。実は、10%の消費税のうち2.2%は「地方消費税」。つまり、各自治体の収益になります。
さらに、地域の消費額が向上すれば、雇用が生まれ、定住人口が増えます。すると、まずは住民税の税収が増加するでしょう。そして地価も上昇し、固定資産税の税収もやや遅れて増加します。

 

「日本人旅行客」ではなく、「外国人旅行客」が増えることが重要なのでしょうか?

塚本先生:外国人旅行客には、1人あたりの「観光目的旅行支出額が高い」という特徴があるんです。日本人は1回の宿泊旅行で1人あたり6.3万円を使うのに対し、外国人旅行客は20.3万円を消費します(ともに2023年の調査結果)。これは、外国人旅行客が1回の旅行で平均約6.9泊するため。滞在期間が長い分、宿泊費だけで平均6.9万円、飲食費は平均4.6万円も消費します。

さらに、外国人旅行客の中には「高付加価値旅行者」と呼ばれる人々がいます。彼らは外国人旅行客全体の約1%の人数でありながら、インバウンド消費全体の11.5%にもあたる金額を使うんです。そうした高付加価値旅行者を多く呼び込めれば、税収は大きく増加します。

世界各地で見られるオーバーツーリズムの事例は?

インバウンドの増加にはメリットもある一方で、近年は世界各地で「オーバーツーリズム」が問題になっていますよね。

塚本先生:観光都市で生じる混雑として印象的なのは、ヴェネツィアやバルセロナの例でしょう。増えた観光客が道路、公共交通、飲食店や物販店を混雑させるだけでなく、そのマナーの悪さも問題になっています。さらに、宿泊施設の増加に伴って、賃貸の家賃が上昇する現象も生じました。
自然資源に対して生じる影響として印象的な例としては、東南アジアのビーチリゾートが有名です。タイの「ピピレイ島」は、2000年に公開された映画「ザ・ビーチ」のロケ地になったことをきっかけに、ビーチへの上陸者数が激増。結果としてゴミが増え、排泄物による汚染やサンゴ礁の死滅などが進み、政府が立ち入りを規制する事態になりました。
また、日本では富士山のオーバーツーリズムが深刻です。登頂を目指す人々が増え、安全性の維持が困難になったり、排泄物による汚染の問題が生じたりしています。

野瀬先生:また、住環境の悪化が原因で、住民がその街を離れてしまうケースも。住む人がいなくなると、その土地の歴史や伝統文化を継承する人が不足したり、維持・管理されない歴史的建造物が増えたりといったリスクが生じます。
塚本先生も触れていたヴェネチアでは、とある研究者が一市民として「この街はテーマパークではない」という重い言葉を発信しています。歴史的な街は、住民たちが時代を越えて文化を受け継ぎ、生活を送る場所です。そんな人々の営みが壊されてしまえば、やがて「ヴェネチアらしさ」は失われてしまいます。

 

インバウンドの増加は、地域に大きなメリットをもたらす反面、人の数が過剰になると深刻な問題につながるようです。
続く後編では、オーバーツーリズム解消のために、持続可能な観光地をつくるためにどんなことができるか を教えていただきます。ぜひ併せてチェックしてください。

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