政治やカルチャーをはじめとした幅広い分野から「今注目が集まっているトピック」をピックアップし、テーマと関連の深い専門家に、それぞれの視点から考察・解説をしてもらう企画「先生に聞いてみた!」。
今回のテーマは、世界中の注目を集めている「アメリカ大統領選挙」です。選挙の重要な争点やその結果に伴う経済動向の見通し、そしてアメリカ大統領選挙をとおして今考えたい「Z世代の政治・経済への関わり方」まで、法学部政治学科の坂部先生、経済学部現代経済学科の古屋先生にたっぷり語ってもらいました。
後編となる本記事では、アメリカ大統領選挙についての学びから発展して、Z世代のみなさんが政治や経済に対して担う役割や、参加にあたって意識してほしいことを伺います。
※本記事では、Z世代を1997~2012年生まれ、Y(ミレニアル)世代を1981~96年生まれ、X世代を1965~80年生まれと区分しています。
インタビュープロフィール
坂部真理 先生
法学部 政治学科 教授
専門分野:アメリカ教育政策
古屋核 先生
経済学部 現代経済学科 教授
専門分野:マクロ経済学
- INDEX
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- Z世代の存在は経済の将来動向においてどんな影響を与える?
- Z世代の政治参加において重要なポイントは?
Z世代の存在は経済の将来動向においてどんな影響を与える?
今後の経済の展開において、Z世代はどのような役割を果たしうるとお考えですか?
古屋先生:まずは、アメリカ経済においてZ世代に期待されることを見ていきましょう。
アメリカのZ世代は、気候変動対策について強い関心を示し、さらにその必要性を積極的に発信していることが各種調査で明らかになっています。ピュー・リサーチ・センター(以下PRCと略)の調査を例にとると、気候変動対策の必要性について、過去2-3週に、「会話で話題にした」と回答したZ世代の割合は67% (X世代は53%)、「SNSで賛意を示したり、コメントを投稿した」と回答したZ世代の割合は45%(X世代は27%)にのぼっています (PRC, May 26, 2021)。 また、2021年の国際比較調査(Pew Global Attitudes Survey)によると、気候変動が個人に与える影響を「とても心配」または「ある程度心配」と答えたアメリカ人の割合は、65才以上の高齢者が52%だったのに対し、Z世代を中心とする18~29才は71%にのぼっています (日経オンライン, 2021年11月17日)。
そして、「デジタル・ネイティブ」世代であるZ世代は、「YouTube」「Instagram」などを使いこなすとともに、より新しいオンライン・プラットフォームである「Snapchat(画像主体のメッセンジャー)」「TikTok(ショート動画共有)」「Roblox(3Dゲーム共有)」などを主力ユーザーとして支え、アメリカのインターネット業界を活性化していることも特徴です。AI活用(例:コールセンターでの顧客応対)に対する抵抗感も他の世代より低く(懸念を持つ割合が、全世代平均47%に対し18-29才で31%[PRC, Mar.22, 2022])、Chat-GPTの接触率も顕著に高い(全世代平均23%に対し、18-29才で43%[PRC, Mar.26, 2024])といった調査結果も出ています。
こうしたアメリカのZ世代の傾向は、間違いなく経済のトレンドを動かすでしょう。彼らの存在により、「環境問題に向き合うこと」「デジタル変革を推進すること」が、今後の経済進化におけるひとつの指針になるはずです。
日本のZ世代はいかがでしょうか?
古屋先生:日本のZ世代も、インターネットの利用頻度が高く(平日のネット利用時間の平均が、全世代平均の175分に対し、13~19才で195分、20代で265分[情報通信政策研究所, 2023年6月])、またChat-GPTの接触率も高い(全世代平均12%に対し、10代で43%、20代で27%[日本経済新聞, 2024年2月19日])という点がアメリカと共通しています。日本の場合は高齢化率が29.1%とアメリカの17.3%よりもかなり高いため(2022年時点)、いわゆる「デジタル弱者」への対応も重要な課題ですが、Z世代が経済活動の中核を担うようになれば、デジタル変革(キャッシュレス決済、自動運転、オンライン診療など)が急速に進むはず。同じく、Z世代が経済進化の原動力になることは間違いないと考えられます。
Z世代の政治参加において重要なポイントは?
日本のZ世代は政治参加に対して消極的とよくいわれますが、坂部先生はどのように感じていらっしゃいますか?
坂部先生:確かに、日本は若年層ほど投票率が低く、アメリカのように大学キャンパスでの政治活動も盛んに行われていません。
しかし、日本のZ世代が政治に無関心かというと、私は必ずしもそうではないと思っています。学生たちと話すと、彼らは日本の財政赤字や社会保障の持続可能性、安全保障などの問題について、想像以上によく知っているんですよね。漠然とはしているかもしれないけれど、強い関心と不安感を抱いているように感じます。
そうした関心や不安が行動に結びつきにくいのはなぜでしょうか?
坂部先生:理由のひとつには、日本では若者の政治活動に対して否定的な空気が強いことが挙げられると思います。学生たちの多くは「ネット上で批判されるリスク」にとても敏感です。
そしてもうひとつは、Z世代の多くが、自分たちの意見を代表する政党や政治家、つまり「代弁者」を見つけられていないことでしょう。とはいえ、この「代弁者」探しには十分な注意が必要です。「わかりやすい」メッセージを掲げる過激なポピュリストに誘引されるリスクを孕んでいますから。
その点、「政治に関心がある」という学生たちの情報源が、しばしばSNSやYouTubeにばかり偏っていることは、やや気になるところです。ネット上の情報や、選挙の候補者たちが掲げる「処方箋」が本当に正しいか。この政策を選択したらどのような結果が予想されるか……これらを自分で判断するための情報リテラシーを身につけることが重要であり、そこに大学での学びが活きてくると思っています。
SNSやネットで情報を収集するにあたっては、具体的にどんなことに気をつけるといいでしょうか?
坂部先生:今アメリカでは、保守とリベラル、それぞれの人たちが「触れる情報」に大きな偏りが生じ、認知の分断が拡大していることが問題になっています。
例えば、ネット上で「#(ハッシュタグ)」を使って同じ関心や志向性をもつ人たちばかりとつながり、似たような情報や意見を交換し続けるケースは増えていますよね。これは、人種差別意識などの偏見を強化し、考えや主張を過激化させる可能性があります(「情報の繭化」や「エコーチェンバー」などとして知られる現象です)。
そのため、私は学生たちに「情報の視野狭窄を防ぐために、普段は見ないニュース、自分とは違う“気に入らない意見”を意識的に見ることが大事」とよく伝えています。読者のみなさんにも、多様な視点から物事を捉え、バランス感覚を失わないように気をつけてほしいですね。
坂部先生、古屋先生、本日はありがとうございました!