2024年1月2、3日に行われた第100回箱根駅伝。大東文化大学は、“山の大東”といわれた走りが復活し、大学創立100周年を迎えたアニバーサリーイヤーに9年ぶりとなるシード権(※)を獲得しました。
そんな躍進の裏側を、陸上競技部の真名子圭監督、4区を走った西代雄豪選手、10区を走った佐々木真人選手にインタビュー。予選会や本選の様子について聞きました。
※予選会なしで、翌年の箱根駅伝に出場できる権利。総合成績10位以内に入ることが条件。
プロフィール
真名子 圭(まなこ きよし)監督・2022年就任
西代 雄豪(にしだい ゆうご)選手・国際関係学部国際文化学科3年生
佐々木 真人(ささき なおと)選手・経営学部経営学科3年生
※2024年2月取材時点の学年です
予選は「守りの走り」から「チャレンジの走り」へ
箱根駅伝99回大会(2022年10月)と100回大会の予選会(2023年10月)では、2年連続の1位を獲得しています。どのような戦略だったのでしょうか。
監督:99回大会の予選は本選に出場することが目標だったので、集団走に徹する「守りの走り」を選択しました。しかし、99回本選は総合16位という結果に。そこから反省し、100回大会の予選会では8㎞までは集団走で、それ以降は本選を想定した単独走で走る「チャレンジの走り」に切り替えました。
西代さん: 100回大会の予選では、本選出場は当然のこと、シード権獲得を目指していました。そのため、1位通過したことはうれしくはありましたが、驚きはなかったですね。
佐々木さん:僕自身は、日頃の成績がふるわず、予選会を走ることはできなくて。自分の弱さを感じ、人生で一番悔しかったというのが正直な気持ちです。でも、予選会後にチームメイトたちが 「佐々木のことを思いながら走った」 「まだ、箱根のメンバーに選ばれることを諦めちゃダメだ」 「一緒に箱根を走りたい」などと声をかけてくれて。やっぱり自分はこのチームが大好きで、「このメンバーと一緒に箱根を走りたい」という気持ちが強くわき上がってきました。
本選当日、4区では雨が降り気温が下がって苦しい展開に
西代さんは本選で4区を任されていますが、スタート前はどのような心境でしたか?
西代さん:駅伝のような長距離種目は、心身ともに苦しさや辛さを感じる競技なので、耐える力、我慢する力が求められます。特に今回は「我慢の往路、勝負の復路」という戦略を立てた中で4区を任されたので、どの学校からも強い選手が集まる往路でしっかりと我慢強い走りをしなければならないと考えていました。
緊張はありましたか?
西代さん:箱根駅伝を走るのは初めてだったこともあり、最初からとても緊張していました。大会後に自分が走っている映像を見返したんですが、3区の入濱(輝大・2年)選手からタスキをもらったとき、自分でも信じられないくらい表情が強ばっていて。両親からも「見たことのない顔をしていた」と言われました(笑)。
4区を任せられるのは西代しかいない
実際のレースでは総合14位、区間18位でした。
西代さん:例年、4区を走る時間帯は太陽が照りつけて暑いくらいなのですが、当日は雨が降り気温が下がった中でまったく体が動かず、本当に苦しかったです。後半にかけてペースを上げていくはずが、まったく上がらなくて。小田原中継所で待っている5区の菊地(駿介・4年)さんの姿を見たときは「やっと終わりだ」と思い、タスキをつなぐことができて心からホッとしました。同時に申し訳ないという気持ちもあり、今でも心に残っています。
佐々木さん:西代自身は納得できない結果かも知れませんが、僕は「本当に頑張ってくれてありがとう」という思いです。4区は特に「耐える選手」が求められ、うちには西代しかいない。西代が耐えてくれたおかげで5区の菊地さんへ、そしてシード権獲得へとつながったのは間違いありません。
監督:西代には、レース前に「主将として、ひと皮むけた走りをしてほしい」と声をかけました。物足りない結果にはなりましたが、その悔しさをバネに、今年1年間の走りで頑張りを見せてほしいです。
「笑ってゴールしてくれ」先輩の声かけに緊張がほぐれた
続いて10区を任された佐々木さんに伺います。当日の心境はいかがでしたか?
佐々木さん:3日前くらいまでは、すごく緊張していたんです。でも、松村(晴生・2023年度主将)さんに「どんな順位であっても誰も責めない。笑ってゴールをしてくれ」って言われて吹っ切れて。ここまで支えてくれた方々に感謝しながら、「自分が一番楽しもう」という気持ちで臨みました。
監督:真人は箱根駅伝までは主要大会に1度も出場できず、苦しい1年間だったと思います。だから、「これまで悔しい思いをしてきたんだから、この舞台で自分を変えるチャンスだ。絶対にシードを取ろう」と声をかけました。
実際のレース運びは、いかがでしたか?
佐々木さん:最初の5㎞は突っ込んで走り、それ以降はシード権とのタイム差、自分のラップタイム、余力をそれぞれ計算して考えながら走っていました。冷静にレースを運びつつ、絶対にシードを取るんだという強い気持ちが後押ししてくれたと思います。
8区でまさかの失速。それでもシード権を獲得できた理由
7区までは、「5位も狙えるのでは」と思えるほど順調だったものの、8区でピーター・ワンジル選手が失速。一転して、「シード権獲得(10位以内)も危ないかも」という状況に陥りました。
佐々木さん:ここで動揺してシード権を獲得できなかったら、今まで頑張ってきたチーム全員の努力が無駄になるので、勝つことだけに集中しました。それに9区を走った大谷(章紘・3年)が、あきらめず前を追う走りをしてくれて、確実に流れが変わったんです。その流れに沿って自分も走ろうと心に決めました。
見事、総合10位でシード権を獲得。ゴールした瞬間、泣いている松村さんと菊地さんに受け止められました。あのときの気持ちは?
佐々木さん:シード権を取れて本当に安心したし、人生で最も幸せな瞬間でした。この1年間1回も公式戦に出場できなかったので、やっとチームに貢献できた喜びがありましたね。
西代さん:自分は思ったような走りができなかった分、シード権を取ってくれた真人には本当に感謝しかありません。ゴールする前から、涙が止まらなかったです。
シード権を獲得できた要因は何だったのでしょうか。
監督:1年間、選手たちは厳しい練習に耐えて地道に頑張ってきました。その努力の集大成が強みとなり、選手に根づいた結果だと思います。
三大駅伝大会すべてで5位以内を目指す
大会後、周囲からの反響は?
西代さん:地元の友だちをはじめ、多くの祝福メッセージをいただきました。一番驚いたのは、推しの声優さんから「見ているよ、頑張れ」とレース前にポストがあったこと。僕個人の走りとしては結果が芳しくなかったので、「良い所を見せられなくて悔しい~っ」と思いました(笑)。
佐々木さん:僕は、SNSでかなり反響があったんです。10区で神奈川大学の酒井(健成・2年生)くんと競り合いながら走ったことが力になったので、感謝の気持ちを込めて、「ずっと並走してくれた神奈川大学の酒井君本当にありがとう!一緒に声かけ合ったり、引っ張り合うのすごい楽しかったです!」とポストしたら、リポスト数が4100件に! うれしいというより、反応が大きすぎて怖かった(笑)。
これからの抱負や意気込みを聞かせてください。
西代さん:今回の箱根駅伝では4年生が主要区間を走り、強い選手たちと互角に戦ってくれた姿が目に焼き付いています。2024年度の主将として、誰よりも長く、質の高い練習を積み重ねる姿を部員に見せていくことが僕の役割。そして、チームを救う走りをしたいと思っています。
佐々木さん:三大駅伝(出雲、全日本、箱根)すべて5位以内を目標に、後悔のない1年間を過ごしていきたいです。
監督:100回大会に向けては、「1へのこだわり」をスローガンに掲げて頑張ってきました。結果、「箱根駅伝100回記念大会を、大学100周年の年に、10位でゴール」と、うまく「1」にハマる結果に結びついています。
次の101回大会の目標は、5位以内です。そのためにはしっかりと5000m、10000mを走る力を定着させて、厳しく丁寧な練習を積み重ねていくだけです。来年の箱根駅伝も、ぜひ期待していてください。
第2弾記事、近日公開予定!
箱根駅伝インタビュー記事は第2弾も掲載予定です。
次回は陸上競技部長距離の寮生活や部員の皆さんについて取材。部の雰囲気や、監督、選手の素顔に迫ります!