Events

英国人研究者との国際ラウンドテーブルを開催しました!

  • Facebookでシェア
  • LINEでシェア
  • Xでシェア

2018年11月30日(金)、教職課程センター主催の教養イベントとして、国際ラウンドテーブルが開かれた。テーマは「イギリスの学校・イギリスの教師」。メインゲストとして、ケンブリッジ大学の研究員であるクリスティ・クルツ博士(Dr. Christy Kulz)をお迎えして、日英の教育状況について意見交換した。新進気鋭の研究者から最新研究に即してイングランドの実情を伺える貴重な機会ということもあり、会場には、50名を超える学内外の研究者や学生が詰めかけた。

 

靜哲人・教職課程センター所長の挨拶に続き、ゲストから「新自由主義的構造改革の時代における成果主義のポリティクス(The politics of performativity in an era of neoliberal restructuring)」と題して、テスト結果を最優先するイングランドの教育改革のリアルな実情が語られた。自身が行った調査をもとに、常時の測定によって生徒も教師も数値に還元されていること、教師や子どもたちが分断されつつあること、復古主義や権威主義が力を強めていること、さらにその中で社会的マイノリティが排除されつつあることなどについて問題提起があった。

 

日本側からは、仲田康一・教職課程センター講師と、渡辺雅之・同准教授が話題提供した。仲田講師は、「教授学習へのPDCAの影響(The Effect of ‘PDCA’ on Teaching and Learning in Japan)」と題して、新公共経営主義に基づく改革の中で流行する「PDCA」について言及した。国家の設定した教育目標が下位の主体に参酌され続けるシステムの中で、PDCAが、目標を問い直すことなく、目標実施の確実性や予測可能性を限りなく求めるしかないレジームになり、結果的に、数値による統制や、チェックリスト等による管理があらゆる側面に行き渡りつつあることを指摘した。

 

渡辺准教授は「日本における道徳教育の現状(Current state of moral education in Japan)」と題して発表した。新たに教科として位置づけられた道徳の特徴と、教科化の背景を論じた上で、具体的な教科書の内容分析を紹介した。教科書道徳の特徴を「徳目主義」・「心理主義」・「偏狭なナショナリズム」に整理したうえで、異なる他者と共に生きる術をクラスの中で学ぶとともに、共生を阻んだり、破壊するものとたたかう市民的な力を育てるオルタナティブな道徳が必要であることを訴えた。

 

総合討議の時間には、ゲストに対する質問が多数あった。ゼロ・トレランスの実情、学校からドロップアウトした生徒のその後、政府の改革に対する保護者・教師・野党の対応、ナショナル・カリキュラムの拘束性などについて質疑がなされ、イングランドの状況を鏡として日本の教育についても再考する機会となった。閉会後も質疑や意見交換のためゲストと交流する参加者が絶えず、熱気を帯びた有意義な会となった。

 

なお、本研究会は、大東文化大学教職課程センター主催の「教員養成コロキアム」(通算第5回)として開催された。また、科学研究費補助金「イングランドにおける公立学校の民営化の動態と日本への示唆」(研究代表:仲田康一、17K14001)による研究との共同企画として実施された。