Report

研究報告会

令和4年度秋季「研究班報告会」

日時

令和4(2022)年11月26日(土)13:00~

会場

板橋校舎2号館 2階 2-0220 会議室 オンライン( Zoom 併用) 開催

報告1 13:05~13:35

題目

太宰治「女生徒」と豊田正子『綴方教室』―戦時下における女生徒と女工
「日本文学における歴史的事象の研究」研究班

報告者

滝口 明祥

太宰治の「女生徒」について、同時代のベストセラーである『綴方教室』との関連から報告を行なった。「女生徒」は、1939年に発表され、文壇における太宰治に対する評価を一変させた作品である。この作品は、太宰の愛読者である有明淑から送られてきた日記をもとにしているが、同時期にスターとなっていたのは『綴方教室』の豊田正子であった。実は有明淑と豊田正子は同世代と言っていいが、両者の境遇は全く異なる。そして、戦時体制が構築されていくなかにおいては、豊田のような貧しくても健気に生きている人々に賞賛が集まったのである。有明のような階層の人たちの悩みというのは、同時代的には表象されがたいものとなっていた。「女生徒」は、そのような時代の流れに逆行しつつ、経済的には恵まれている者たちの、それでも尽きせぬ悩みを描いた作品であったのである。

報告2 13:35~14:05

題目

地域の実践共同体へ参加する総合的な学習の時間の理念と評価
~子ども達の対話をもとに学びを深める教育方法の実践~

「地域文化と教育実践」研究班

報告者

田尻 敦子

総合的な学習の時間は、2000年から段階的に導入され、2017年に学習指導要領が改訂された。今回の改定の趣旨のひとつが「探究的な学習の過程を一層重視」している点である。文部科学省(2018)によれば、「特に、探究的な学習を実現するため、『①課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現』の探求のプロセスを明示し、学習活動を発展的に繰り返していくことを重視してきた[文部科学省,2018,p5]」。
この探求的な学習は、大学での論文執筆等にもつながる実践である。OECD等による総合的な学習の時間に対する評価や課題を整理した上で、インタビューや実践事例等をもとに、状況的学習論の視点を用いて地域に参加する学びのあり方を考察した。

 

報告3 14:05~14:40

題目

〈⿲彳人亍〉字の研究

「東アジアの美学」研究班

報告者

亀澤 孝幸

十字路をあらわす〈行〉と〈人〉とを組み合わせた〈𧗟〉という構成の字が殷の甲骨文に多数見える。同字は春秋戦国時代の秦の《石鼓文》に二例あることが古くから知られていたが、なぜか西周金文には見えない。この字をどう釈すべきか、歴代学者のあいだで見解が分かれてきた。近年、戦国時代から秦漢にいたる簡牘(竹簡・木牘)があいついで出土し、戦国時代の楚簡などに〈𧗟〉字が多数見られることがあきらかになった。また、近出の春秋時代の秦の金文に一例あることがわかった。本発表では、歴代の文字資料に見える〈𧗟〉字例を通観し、同字の消長と用語法の通時的な変遷を跡づけた。
*〈𧗟〉字のユニコードはU+275DF。フリーフォント「花園明朝B」で表示可能。

 

報告4 14:40~15:10

題目

「ウェルシュ・エール」(Welsh Ale)とは何か

―アングロサクソン人社会の中で継続したブリトン人文化についての試論

「言語学・文献学」研究班

報告者

小池 剛史

アングロサクソン社会の中でどのようにブリトン人社会が存続したのか?この問題を考察する試論として、古英語のWilisc aloð(Welsh ale)が、「ブリトン人文化に由来するエール」なのか、単にエールの一種なのか、と問題提起し、「ピーターバラ修道院長とウルフレッドの同意書」(852年)の中のWelsh aleの用法を検証した。成立地域がアングル人、ブリトン人二民族が融合したマーシア国で特にブリトン人が存続したとされるThe Fenlandsであること、また中世ウェールズの法律文書や宮廷文学からWelsh aleが古代ウェールズのbragod(エールに蜂蜜を混ぜた飲料)に相当することが伺える(Breeze (2004))ことから、Welsh aleが「ブリトン人のエール」の意味で取ることが可能ではないかと結論した。

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