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歴史文化学科

2018年12月18日(金)に歴史文化学会の秋季大会が大東文化大学東松山校舎の11号館0201教室にて開催されました。

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 歴史文化学会秋季大会が2018年12月18日(火)に東松山キャンパス11号館0201教室で開催されました。秋季大会は一期生の学生委員の司会進行により、第一部は歴史文化学科専任教員の久住真也先生によるご講演『歴史のなかの「問い」―明治維新史研究を事例に―』、第二部は学生代表による発表の構成で行われました。

 

 第一部では、明治維新150年となる節目の年に日本近世・近代史, 明治維新史がご専門の本学歴史文化学科の久住真也先生による『歴史のなかの「問い」―明治維新史研究を事例に―』と題したご講演が行われました。はじめに歴史学研究において大切にしている視点、「問い」を探し、その「問い」を自らに課すことによって研究は展開されるということについて、ご専門の明治維新史研究から4つの「問い」を挙げて、重要な「問い」というものが、どのように重層的な「問い」を導いているか例示していただきました。 

 

 改めて問われると難しい「問い」の事例

  1. なぜ、幕末になると天皇が出てくるのか? 「問い」の派生→明治維新は天皇中心でなければならなかったのか? そもそもこの「問い」の前提は成り立つのか? 江戸時代の天皇のポジションとは? 

  2. なぜ、幕府はアメリカとの条約調印(年)を単独で決められなかったのか?なぜ、朝廷の許可を得ようとしたのか? 外交決定権はなかったのか? ペリーが来航したときに、幕府が全大名に意見を諮問したのはなぜなのか? 

  3. 江戸時代が「鎖国」でなかったとしたら、なぜ「開国」に反対する勢力が出てきたのか

  4. なぜ、西南雄藩が幕末史をリードするのか? かつての見解では、天保期(近世後期)の西南雄藩は藩政改革に成功し、幕府は失敗したとされていたが、近年の見解では、西南雄藩(長州藩など)の改革が成功したとはいえないとされている。ではどう説明するのか?

 このなかで例④については、西南雄藩にとって安全保障上、海の存在が大きかったこと、つまり、関門海峡を黒船が通ったら非常に狭いので危機感が強まることが想像できるように、蒸気船の誕生によって危機感を強く持っていたと説明することができる。また、人口歴史学の視点でその時代に着目すると、西南地域の人口が増えていることも確認できるため、多様な視点で「問い」を課して研究を展開していくことが大切であるという説明がありました。

 

 次に、2018年4月に東京大学で行われた講義「幕府はどうして倒れたのか?」について解説していただきました。これは久住先生にとって、避けていたが避けられなくなった「問い」と位置付けられるもので、「幕府は保守的で無能だったから倒された」というストーリーを疑い、「倒された」側の初めての本である福地桜痴(源一郎)著『幕府衰亡論』(明治25年)が示した「衰亡」という視点から、幕府は激しい自己改革によって「瓦解」、崩壊したという仮説を導く過程について論じていただきました。こちらの久住先生の論考は、山口輝臣編『はじめての明治史 東大連続講義』(筑摩プリマ―新書、2018年)に収録されています。是非、第一線で活躍する歴史家の歴史的思考力に触れてみてください。

 

 続いて素朴な「問い」から始まる研究のきっかけの例として、「幕末の将軍と近代の天皇は全然違うものなのか?」という問いについて解説いただきました。これまでの研究では天皇の「錦絵」に注目するものが多かったところ、この「問い」から始まった研究では将軍を描く「錦絵」に対する着目が新規性を有する点であること、また、近代天皇を生み出す政治・社会的背景をふまえ、錦絵や写真に注目した研究から、時代の枠組みに規定される君主像に共通のスタイルが見出すことができる点について論じていただきました。軍服を着た幕末の将軍、徳川慶喜の写真から19世紀には君主が外交の表舞台に立つという時代背景が映し出され、このことが近代の天皇、明治天皇の写真においても同様の船形のハットと共に画面に収まる軍服姿であるところから確認できることについて、久住先生のわかりやすい解説とスライドに映し出された写真を実際に見ることにより理解を深めることができました。ご著書『王政復古―天皇と将軍の明治維新』(講談社現代新書、2018年)ではご講演の内容をより深く論じられていますので、ご一読ください。

 

 おわりに、現代社会を考えるヒントは過去の「問い」のなかにあること、同じことは起きないが、似たパターンが生じることがあることから、よりよい社会をつくっていくため、歴史を学ぶ必要性、歴史を参照することの重要性について、久住先生からの力強いメッセージをいただき、ご講演が締めくくられました。

 

 質疑応答も活発に行われ、終了後は「とてもおもしろいご講演ありがとうございました。」「史料は文献だけでなく絵画も史料となるということの意味がよくわかりました。私も先生のおっしゃるように楽しく歴史を学べたらと思います。」など歴史研究に対する関心の深まりを示す感想が参加者から多数寄せられ、大変有意義な時間となりました。

 

 第二部の学生発表は大学での学びの導入として、研究テーマの検討、調査、テーマ決定、研究計画書の作成、中間報告、論文執筆という一連のグループ研究をおこなった成果報告が行われました。これは「日本人と○○」という共通テーマのもと、歴史文化学科1年生全員が参加し、班に分かれて取り組んだはじめての研究活動となりました。そのなかから代表班の学生が発表を行いました(発表テーマ「日本人と間」「日本人と災害」「日本人と家族」「日本人と祭礼」「日本人と女性差別」)。講評では、本学会会長の宮瀧交二教授より「研究発表のレベルを上げていくため、資料・史料の使い方を2年次の基礎演習でしっかり学んでほしい」と研究継続の奨励と今後の学修指針が示されました。初めて学会の司会進行、成果発表を学生が担った秋季大会はよい緊張感に満ち、歴史文化学会に参加する学生にとって、主体性、責任意識、目指すべき研究の高い目標について考えを深める場となりました。

 

 次回は歴史文化学会春季大会(6月予定)の開催を予定しています。

 

 参加者の感想(1)

 「問い」は素人の疑問こそ答えるのが難しいとおっしゃっていたことは、幕末に関する疑問一つをとってもその通りだと思った。また、「開港」「開国」「鎖国」の違いについても、史料にどう書かれているか、またその解釈によって意味が大きく異なることを学んだ。久住先生が講演でおっしゃっていたことは定説を覆すものばかりで、非常に興味深く聞かせていただいた。また、「幕府がなぜ倒れたか」という問いは、現代の政権にも生かすことができると考える。今まで、「徳川幕府が倒れたのは保守的で無能だったから」という説を信じていたが、「実は有能で、ペリー来航時点で海外情報をよく知っていた」ということを知り、定説を信じ込まずに研究することの大切さを学んだ。

参加者の感想(2)

 授業や本から「なぜ?」と思うことを見つけることが大事だということを知った。久住先生が今回話してくださったことはすべて疑問が含まれていて、その疑問を解決するように話が展開され、そして次の話でまた疑問が生まれていた。私は、小学生の時にはいろいろな疑問を持っていたが、高校になってそれが少なくなっていたように思う。この講演を聞いて、疑問に思うことの大切さを学んだので、今後、自分でも実践していきたいと思った。とてもおもしろいご講演ありがとうございました。

参加者の感想(3)

 幕府が倒れる前に徳川慶喜が抱いていた考えなどを知る機会はあまりなかったので、とてもおもしろかったです。幕府が倒れた一因は無理な改革のやりすぎによる自己崩壊だという考えにとても驚きました。フランス革命を劇薬にたとえた本を読んだとき、これはあくまで外国の話だと他人事のように感じていたのですが、その劇薬が日本にもあったということに衝撃を受けました。幕府は何もしなければよかったという考えにも驚き、もっと知りたいと興味を持ちました。錦絵から、将軍と天皇の類似性を読み解くということもおもしろいと思いました。史料は文献だけでなく絵画も史料となるということの意味がよくわかりました。私も先生のおっしゃるように楽しく歴史を学べたらと思います。