Professor

教員紹介

大橋由治

専門分野

中国文言小説

担当講義

中国文学特別演習1( ゼミ)
中国文学特別演習2( 卒論指導)
中国文学概説1
中国文学講読2
中国文学特殊講義
中国学研究入門1

出身地

愛知県

業績

再生説話から見た『搜神記』の特徴に就いて(大東文化大学漢学会誌第34号)
『異苑』素描   (大東文化大学漢学会誌第35号)
『搜神記』と孝子説話について(大東文化大学漢学会誌第36号)
『異苑』に於ける音聲説話-銅器・墓地・山川と太常職-(日本道教学会『東方宗教』第90号)
『搜神記』編纂時における説話の改変について-『風俗通義』との比較を中心として-(無窮会『東洋文化』復刊第80号)

新入生の皆さんへ

 小説って何ですか?と尋ねられて、「わかりません」もしくは「知りません」と答える人は、きっといないと思います。これまでに、おそらく何篇もの小説を読んできたことでしょうし、好きな作家の名前も何人かあがる事でしょう。さらには「私小説」であるとか、「歴史小説」であるとか、「推理小説」などといった好みのジャンルをあげる人もいることでしょう。

 ところが、中国の古典の世界においては、少々事情が異なります。ただ単に"小説"といった場合、そこには文言(書面語)で書かれたもの、白話(口語)で書かれたもの、さらには戯曲もそのなかに含まれます。そのうえ、この3種はさらにそれぞれ数種に分類されます。文言小説は<伝奇小説・志怪小説・志人小説>の3種に、白話小説は<話本・章回小説>の2種に、戯曲は<雑劇・伝奇>(紛らわしいですが、この"伝奇"は先の"伝奇小説"とは別のもので、長編の戯曲を指します)の2種に分かれます。以上のように、ここで言う"小説"はnovelの訳語として明治期に日本人が考え出した和製漢語の"小説"を指すのではありません。

 皆さんもご存知の通り、古くから中国文学の主流は詩でした。時代とともに詩式の主流は、4言から5言へ、5言から7言へと移り変わりましたが、「何が詩であるか」といった問題は比較的明確で、分類上も大きな混乱はありません。しかし、先に広範な種類を示したように、中国古典の小説は時代ごとに大きくその様子が異なるため、「何が小説であるか」といった問題に関する答えは一様ではありません。但だ、この"小説"はもともと「瑣末で体系的ではない話」というような意味ですので、中国において、これらはどれも学者から重視されてこなかった点で共通しています。

 プロフィ-ルにも示したように、わたしの研究室では、そういった中国の小説の「文言小説」、なかでも六朝時代(3世紀から6世紀ごろ)の志怪小説を目下の中心的な研究対象としています。この時期の"小説"は、かつて「史」の一部と見做されており、内容は簡略で、伝説や遺聞を記したものです。言ってみれば当時の人々の描いていた世界観の"かけら"とも言うべきものです。この志怪とは「怪を志す」ことですので、当時の人々の世界観がよく描かれています。残念なことに、当時そうした"かけら"を集めて成った志怪小説集は完全なかたちで現在に伝わるものがありません。つまり"かけら"はさらに小さく割れてしまったのです。

 志怪小説の研究は、その微小な破片を掻き集め、より原形に近づけることから始まります。後世の、ひとを娯しませるために書かれた小説を基準にして、この"かけら"をその源流に位置付けようとすれば、これらは意味を持たない、くすんだガラクタでしかありません。しかし、現在の小説の有り様と無縁だった当時、それらは畏敬にも似た輝きを発していたのです。その輝きを垣間見るには、繁雑な作業と調査が必要となり、容易なことではありません。悪戦苦闘の毎日です。

 ゼミで皆さんにお会い出来るのを楽しみにしています。それまでに、ぜひ古典の読解力を充分にやしなっておいてください。この分野は研究史が浅いため、自ら注釈を施さなくてはなりません。