Research

2011(平成23)年度講演会

第1回 講演会

日時
平成23年7月14日(木) 13:15~14:45
場所
大東文化大学 東松山校舎 60周年記念講堂
講演者
プリュン・ヘフテル(「世界の医療団」日本支部事務局長)
演題
国際NGO「世界の医療団」(メドゥサン・デュ・モンド)からみた日本
-東日本大震災における活動を中心に-

概要

私たちはあらゆる病と闘います。不公平という名の病とも。

 

世界では、日々3万人の子どもが5歳になる前に命を落としています。 この10年間で、武力紛争による子どもの死亡は200万人を数え、負傷した子どもの数600万人、家を失い避難を余儀なくされた子どもの数は2,200万人に及びます。また、世界のHIV陽性者は4,200万人を超えるといわれ、既にエイズで2,400万人以上の命を奪っています。

 

このようなあらゆる病と闘うために世界の医療団は立ち上がりました。パリに本部を置き、世界各地に医療・保健衛生分野の専門スタッフ中心に派遣し、人道医療支援に取り組む国際NGOです。国籍、人種、民族、思想、宗教などのあらゆる壁を越えて、世界で最も弱い立場にある人々に支援の手をさしのべることが、私たちの理念です。

世界の医療団が展開している主な支援プロジェクト

 

国外では

  1. スマイル作戦
    先天的、あるいは病気・災害などにより顔面や手足などに損傷や奇形が生じた人々に、形成外科手術を行うことにより笑顔を取り戻す医療支援プロジェクト。 日本からはカンボジアやバングラデシュを中心に年4回以上医療チームを派遣し、150名以上に対し手術を実施。
  2. その他
    HIV/エイズ予防・対策 、プライマリヘルスケア(基礎的な保健医療)、母子保健、メンタルヘルス・ケア、緊急支援、人権擁護
 
日本では
  1. ニココロPROJECT
    世界の医療団は、「こころのケア」を中心とした医療支援活動を岩手県大槌町で展開しています。多くのものを失ったことによるショック。先の見えない避難生活。被災者の皆さまのストレスは想像を絶するものです。
    精神科医を中心とした世界の医療団の医療支援チームは、病や不調に対する薬の処方などの診療に加え、ストレスや緊張の緩和のための呼吸法、マッサージなど被災者ご自身でできる自己緩和法の伝授にも力を注いでいます。
    私たちの持てる力を結集し、一人でも多くの被災された方々に支援をお届することをここにお約束いたします。被災者の皆さまが、人と人との繋がりを感じ、希望の光を見ることができますように。ココロのケアによって、少しでも笑顔な時間を過ごすことができますように。 詳しくはこちら:http://www.mdm.or.jp/nicocoro/
  2. 東京プロジェクト
    2008年末に行われたホームレス状態にある人の精神に関する専門家による調査によると、調査協力したホームレスのうち60%がなんらかの精神症状があることが明らかになり、半数以上に自殺のリスク、24%が特に危険な状態、32%が過去実際に自殺を企図したことが判明しました。
    世界の医療団は、この状況をすぐにも取り組まなければならない課題であるという結論に至り、医療や福祉の専門家を始め、この問題に高い関心を寄せる市民ボランティアの協力も得て、支援活動を開始することとなりました。

東北と世界

 

2011年3月11日の大地震が起きた後、被災者の方々のために私たち世界の医療団は行動を起こす必要がある、それは、自明の理であると感じられ、地元の自治体との協議を重ね、私たちは被災者支援(特に心理的なケアのための支援)の活動計画を考案し、岩手県の大槌町を中心に1年間継続して支援を行うことを決定しました。1年間という比較的長期の支援を行うことにしましたのは、私たちの活動の成果や支援の質を確かなものにするためです。

 

被災地ではまだ厳しい状態が続いていますが、私たちのプロジェクトの成果も見えはじめており、私たち「世界の医療団が池袋でホームレス状態にある方たちの支援を通して得たノウハウは、「被災者を支援する上でも有用である」という最初の直観を確かなものとしています。

 

また、現地入りしている支援チームのメンバーは、被災された方々の慎み深さや、自らの苦しみを周囲の人に押し付けないようにしようとする態度を強く感じ取っておりますが、この活動により、苦境に置かれている人が誰であろうと、どこに住んでいようと、世界中のそういう方々に国境を越えて、私たち世界の医療団という団体が掲げております「人間への尊敬と普遍の価値観」に基づく支援実行が可能になってきている、ということが示されているのも事実です。

 

最後に、7月14日の講演会席上、学生の方々から200通に近い質問が寄せられました。語学教育研究所でそれらをQ&Aとしてフィードバックする予定と聞いていますが、その中でとても多かったのは、非営利団体の運営に関し強い関心を寄せる以下の2つの質問でした。それらに関して短くお答えしたいと思います。

 

Q:世界の医療団の日本における活動のための資金は、どこから来ているのか。
A:活動資金は、民間(個人・法人の皆様)からの寄付金から成り立っています。

 

Q:どのように活動を支援することができるか。
A:基本的には、私たちの活動を周りの人に知らせていただくことが支援へとつながります。もし可能な場合は、寄付金といった形でご支援いただければと思います。

世界の医療団(認定NPO法人)
〒106-0044東京都港区東麻布2-6-10麻布善波ビル2F
t. + 81(0) 3 35 85 64 36
f. + 81(0) 3 35 60 80 73

www.mdm.or.jp

 

第2回 講演会

日時
平成23年12月13日(火) 15:00~16:30
場所
大東文化大学 板橋校舎 30211教室
講演者
宮本 雄二 氏(前駐中国大使)
演題
中国をどう見るべきか

講演報告(要旨)

語学教育研究所主催の2011年度第2回講演会が昨年12月13日(火)に開催された。講演者はつい最近まで外交の第一戦で活躍された前中国大使の宮本雄二氏である。「中国をどう見るべきか」という時宜を得た演題が学生達の関心を強く引いたのだろう、予想上回る多数の参加を得た充実の90分であった。以下は講演の要旨である。

中国の目覚しい経済発展は、既に周知の事実である。都市部に林立する近代的な高層ビル群は、以前の景観をすっかり払拭してしまった。人々は高度成長の恩恵を享受し、生活のレベルは飛躍的な向上を続けている。しかし、それらの現象は現代中国のある一面を物語るものであり、繁栄の裏では様々問題が生じるという他の断面も見逃すことはできないない。

「貧富の格差」や「官僚の腐敗」は経済成長の悪しき副産物であり、通信手段の発展に伴う情報の氾濫は不可避である。世界最大の人口と広大な国土を抱える中国の今後には多くの課題が内包されており、我々はそのことを認識した上でより良き日中関係を築いて行かなければならない。

ニーズの拡大と警戒感がせめぎ合うアメリカの対中スタンスも、要注目である。日本外交の機軸とされる日米関係も、これからは米中関係の動きを抜きにして考えることができない。また「アジアの時代」が世界の潮流となりつつある今、日本に求められるのは複眼的な思考である。 そこから新たな理念を探って行かなければならない。そしてその方向を目指す共同作業の強化を、今後の日中関係の基盤とするべきである。

宮本氏の豊富な体験に裏打ちされた講演は90分をとても短く感じさせる高密度の内容であった。「中国をどう見るべきか」という演題の意味を、講演の終了後、改めて噛みしめた聴衆も多かったと思う。氏は外務省入省後、台湾師範大学「国語教学中心」(中国語教育センター)で中国語を履修し、流暢な中国語を身につけられた。仕事の上でも持ち前の庶民感覚で現場に溶け込み、民衆の生の声に接することが多かったようだ。講演の中で自然に出て来るエピソート等にも、生きた中国の様々な側面が伺われて、興味深いものであった。

これから何らかの形で大なり小なり中国に関わるであろう学生達にとって、極めて意義深い講演会であったと思う。

(文責 瀬戸口 律子)

 

第3回 講演会

日時
平成24年1月16日(月) 12:30~13:15
場所
大東文化大学 板橋校舎 30210教室
講演者
アンドリュー・マーティン 氏(独立行政法人理化学研究所 研究員)
演題
ロトレキシコンによる音素獲得

要旨

すべての言語において、音声音は音素ごとにカテゴリーされ編成されている。しかしながら、この音素システムが言語により異なるため我々は音素システムを独自に学習しなければならない。乳児においては、生後一年の間にこの音素システムの獲得がかなり進んでいるが、どのように獲得するかは未だ明らかになっていない。

現在までに、乳児の音素獲得について二つの仮説が提案されている。まず第一の仮説はトップダウンと呼ばれる方法である。トップダウンの学習法では、最初に語彙を学習し、そしてその語彙の知識を使用し音素を学習する。第二の仮説はボトムアップと呼ばれる学習法である。ボトムアップの学習法では語彙を意識せずに一つ一つの音素の統計的分布をもとにその言語の音素を学習する。

しかし、生後一年間の言語獲得の過程を考えれば、トップダウンの仮説は非現実的である。先行研究によると、まだ語彙をほとんど知らない月齢の乳児でさえも音素の学習がかなり進行している。また、ボトムアップの仮説においては音素システムが簡単な場合にしか適用されない。実際の言語の音素システムが複雑であり学習できないのである。これらの理由から、この二つの仮説が不十分であると言えるのではないか。

本講演では、トップダウンとボトムアップの両方の仮説の側面を組み合わせた新しい仮説を提案する。この新しい仮説では、乳児がインプットにおこる高頻度の音声列を暗記しプロトレキシコンを作成する。このプロトレキシコンは類似レキシコンに過ぎないが、正しい語彙が十分含まれているため語彙知識を抽出できる。このため語彙をまだ学習していない乳児でもトップダウンの音素学習法を使用することができる。

更に、ボトムアップのアルゴリズムよりプロトレキシコンを用いた学習法が効果的であることを証明するため、日本語とオランダ語のデータを使ったシミュレーションの結果を示す。また、乳児が実際にプロトレキシコンを作成している事を証明する実験の結果も紹介する。最後に、今後の言語獲得の研究の方向性について議論する。