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英米文学科

2019年春季英文学会が開催されました。

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菊池 かおり先生 ご講演 『英文学と建築の交差点-小説家ヴァージニア・ウルフを通して』

〈学会だより〉

○春季英文学会&英米文学科講演会

日時:2019年6月26日(水)

場所:東松山校舎 60周年記念講堂

講演題目:「英文学と建築の交差点-小説家ヴァージニア・ウルフを通して」

 

本学学部・大学院のご出身で現在は法政大学の准教授として教鞭をとられている菊池かおり先生を講師としてお招きし、ヴァージニア・ウルフの小説を建築という観点から研究するという試みについてお話ししていただきました。

 

【プログラム】

  • 開会の辞
  • 学科主任挨拶
  • 会計報告
  • 講師紹介
  • 菊池かおり先生によるご講演
  • 閉会の辞
  • 懇親会

 

【講演について】

 菊池先生は英文学を建築との関係性において読み説くという手法についてお話ししてくださいました。

 まず、文学の世界において、19世紀から20世紀にかけて取り入れられた“Stream of Consciousness”(意識の流れ)という手法について紹介してくださいました。19世紀の作品においては、登場人物の会話以外の部分では、ナレーターが登場人物の行動、思考などを説明していました。しかし、20世紀に入り、このような意識の流れの手法が取り入れられるようになると、作品において、3人称のナレーターの存在が希薄になり、代わりに登場人物が1人称のナレーターとして、意識にわきあがった事柄をあるがままに語るかのような描写が増えていくようになりました。このような文学における語りのあり方の変容について理解を深めることができました。まるでわたしたちの思考のあり方を共有しているかのような語りのおかげで、現代に生きるわたしたちもある作品の語り手について精緻に分析し、より複雑な解釈を紡ぎ出すことができるではないのでしょうか。結果として作品自体の深い読みを実践していくことが可能になると思います。

 次に、ヴァージニア・ウルフのTo The Lighthouse (『灯台へ』)という作品を題材に、小説と建築との関係性についてお話ししてくださいました。ドア、そしてドアによって区切られた空間はわたしたちの身近にも存在しています。小説のなかに描かれたドアに注目すると、驚くべきことに、当時のジェンダー観やそれが社会にどのようなかたちで浸透しているかということが分かり、加えて、ヴァージニア・ウルフが小説を通してどのようなかたちでそのようなジェンダー観に疑義を呈していたのかということも明らかになります。わたしたちが小説を読むとき、登場人物の行動や台詞だけでなく、それらの背景としての建築物の構造に目を向けると、ただ作品をあらすじに沿って読んでいたときにはとらえることが難しい、社会や文化のあり方に触れることができるというお話はとても刺激的でした。これからわたしたちが作品を読み進めていく上での斬新な切り口になることと思います。