グリーン(環境)・デジタル(IT)分野を中心とした昨今の飛躍的技術革新は、10~20年後の日本が持続可能で知識集約的な社会へと進化していく上で明るい材料となっている。一方で、2010年代に約120万人で推移していた全国の18才人口は、2018年から減少トレンドに入り、2028年に108万人(2018=100と指数化すると2028年=91)、2033年に103万人(同87)、2038年に86万人(同73)と20年間で30%近く減少すると予想されている。日本の私立大学は、直近(2024年度)でも全体の59.2%が入学定員割れ、44.8%が赤字決算(基本金組入前当年度収支ベース)の状態であり、将来の見通しは更に厳しいと見られている。本学は、2025年度は定員を上回る入学者を確保し、2024年度決算(学園計, 基本金組入前当年度収支ベース)では黒字を計上しているが、先行きは決して楽観できないと思われる。
次節で中長期計画の具体的内容(各論)を議論する前に、本学が創立110周年を挟む今後10~20年間に直面すると思われる総合的課題として、以下の(1)~(5)を指摘しておきたい。
- (1)学士課程における学生募集面の課題への対処
- (2)オンライン技術の活用とデジタル変革(DX)への対応
- (3)大学院、研究所の改革
- (4)キャンパス問題の検討
- (5)財政基盤の確保
上記のうち、(1)(3)(4)(5)は『DAITO VISION 2023』でも取り上げられている懸案であるが、いま一度論点を整理しておく。
(1)学士課程における学生募集面の課題への対処
近年の入試動向をみると、2016~18年度は大規模私大に対する定員管理厳格化の影響で首都圏有力私大の入試が難化し、併願需要の増加など正の波及効果によって中堅私大の入試状況も好転することとなった。学部学科間の定員調整も相まって、本学でも2010年代前半のような定員割れは解消し、2015年度に2.12だった入試倍率も、2018年度の4.06へと上昇した。その後、少子化の加速に伴い、本学の入試倍率も、2018年度の4.06をピークに2019年度3.79、2020年度2.63、2021年度2.26と徐々に下降し、学科レベルでは、2018年度には全20学科で入試倍率が2倍を超えていたのが、2021年度には8学科で入試倍率が2倍を割り込んだ。こうした状況は2023年度入試まで続いた。2024年度から2025年度にかけて様々な入試改革を実施し、年内に実施した入試に関しては1014名増(157.0%増)、一般選抜に関しては、8249名増(142.9%増)となり、2025年度入試では定員割れは前年度9学科から2学科に減少した。ただし、入試倍率は、2025年度入試では1.9倍と前年度比では0.3ポイント改善はしているものの、依然として2倍を割っている状況である。ここ数年は18歳人口は横ばいを維持する見込みであるが、まもなく再び下降に転じることから、保護者や塾・予備校のような対象属性ごとの広報の実施など、情宣方法の見直しや強化、新しい入試方式の開発に加えて、カリキュラムの検討・更新、進路(就職)指導の拡充などを進めることが重要である。また、学科単位の対応での定員維持が困難な場合には、学部内または学部学科を超えた定員調整・再編も検討する必要がある。
(2)オンライン技術の活用とデジタル変革(DX)への対応
オンライン技術の活用とデジタル変革(DX)への対応は大学の急務でもある。同時双方向形式・オンデマンド形式などのオンライン授業は、学生が自分のペースで学習しやすい・どこでも授業を受講できるなどの利点とともに、ICT(情報通信技術)のレベルに左右されることや受講者全員の一体感が得にくいなどの多くの限界・欠点も明らかとなっている。これらの経験や知見をふまえ、今後も対面・オンライン授業双方の良さを活かした教育の可能性を追求していく必要がある。具体的には、履修制限が不要という利点を生かした学生の学ぶ機会の拡大、学生のキャンパス移動負担の軽減、補充教育や障がい学生対応等も含んだ学生の多様な学びへの支援、自主的な学修への拡大、高校生の先取り履修の促進、社会人への学びの機会提供などが考えられる。
また、授業以外でも、履修などの教務、学生支援、職業意識の啓発や情宣・ダブルスクールなどのキャリア支援、入試・高大連携・入学前教育などの学生受け入れなどの多様な場面でオンライン技術が有用となる場面が多数存在している。その他、FD・SD活動、研究、地域連携・社会貢献、国際交流など、教育以外の様々な分野においてのオンライン活用による大学全体の便益増加により大学教育の高度化を追求すべきである。
また、今や普遍的になったウェブ会議・動画配信等は、ICTの応用の一部に過ぎない。高速大容量通信が普及するなかで、商取引、金融・保険、医療・福祉、行政手続など幅広い分野にICTが浸透しており、新しい価値を創造していくデジタル変革が今後の日本の重要課題となっており、それに対応した人材の養成が社会的に要求されている。本学においても、初等中等教育での情報教育内容に配慮しつつ、学生がデジタル社会において求められる基本的情報知識、データリテラシー、批判的思考力などの能力・知識を着実に身につけることにより、高等教育での学修成果を高めるためには学修成果を可視化しつつ、教育内容を随時更新していく必要がある。あわせて、デジタル社会に合わせた教育環境の更なる整備、教員への研修・FD等の拡充なども検討・推進していく必要がある。
(3)大学院、研究所の改革
大学院は、教育および研究の質の向上に貢献するとともに、本学の特色や社会的役割を体現する機関であり、その重要性は本学においても極めて高い。
人文・社会科学系の大学院が担う役割への関心は近年高まりを見せているが、一方で、進学率の低迷は依然として課題となっている。2025年2月の中央教育審議会「知の総和」答申や、2022年の教育未来創造会議「第一次提言」では、大学院における高度人材育成への期待が高まるとされている。さらに2023年12月の中央教育審議会「審議まとめ」では、人文科学・社会科学系大学院の重要性が強調された。
しかし、これらの分野における学士課程修了者の大学院進学率は依然として低く(文部科学省「令和4年度学校基本調査」:人文科学4.5%、社会科学2.7%、全体11.3%)、本学においても大学院の定員未充足が課題となっている。2016年度の認証評価では、4研究科7課程(前期課程3、後期課程4)において「収容定員に対する在籍学生比率が低い」との指摘を受けた。以降、入学定員の削減などの改善策を講じてきたが、コロナ禍による留学生の減少も影響し、2023年度の認証評価においても4研究科6課程(前期課程3、後期課程3)に改善が求められた。
さらに、文科省が2023年に実施した「人文科学・社会科学系の学部学生における大学院進学の意向調査」調査では、大学院進学を躊躇する理由として大学院や大学院進学に対する理解不足や、経済的・キャリア面での不安が明らかとなっている。これを受け、上述の「審議まとめ」では、大学院の価値認知の向上と進学意欲を高める環境整備の必要性が指摘されている。
これらの課題改善には、中長期的な視点から、大学院生へのキャリア支援や経済的支援の充実、教育・研究環境の整備・改善に努めるとともに、これらの取り組みを広報にも反映させ、大学生や留学生に進路の選択肢としての大学院の位置づけを高めてもらうことが必要である。この実現には、学内関連部局との連携による体系的な支援体制の強化が不可欠である。
具体的には、キャリアセンターとの連携により、大学院生向けのキャリアサポートを実質化し、「大学院生が研究しながら就職活動ができる」体制を整えるとともに、その就職実績を広報にて発信する。また、学習成果の可視化を通じて「大学院での学びが成長に結び付き、キャリアが開ける」ことを学内外に発信する。さらに、入学センターとの連携のもと、大学院の質を維持する入試選抜制度を堅持しつつ、進学を促進する入試施策についても検討していく。
また、学部と大学院の接続は課題視されており、上述の「知の総和」答申においても学士修士5年一貫教育が提案されている。本学では、2024年度より法学研究科法律学専攻(博士課程前期課程)にて「短縮修了コース」を開始しており、今後、他学部・大学院においても学部・大学院接続の在り方について検討を進める必要がある。
以上のような中長期的な取り組みに加えて、短期的施策としては、入試広報の戦略の一つとして、留学生の獲得を意識した広報活動、大学院説明会の充実、各研究科による学部への広報活動を実施している。その結果、2024~2025年度実施の大学院入試の志願者数は、2022~2023年度に比して、新型コロナ禍による外国人志願者減少状態からの回復もあり、40%近く増加している。
大学附置研究所、学部附置研究所については、所蔵資料の相互利用、研究所間の交流促進など連携強化により、研究機能の拡充や特色ある研究の創出を図る。予算細分化を防ぐため、複数の研究所による予算執行の協調(<例>プロジェクトの共同実施、シンポジウムの輪番開催等)も推進し、必要に応じて研究所の再編についても検討を行う。これらの取り組みについては、2024年度より研究所課題検討部会を設置し、大学院改革とは別枠で対応を進めていく。
(4)キャンパス問題の検討
卒業時の学生アンケート(2014年3月~18年3月)によれば、4年同一キャンパスである国際関係、スポーツ・健康科学(以下国際、スポ健と略)を除く6学部の卒業生の約6割が「1・2年次と3・4年次で勉学環境が変わるのが負担でしたか?」との設問に「そう思う」又は「少しそう思う」と回答している。また、国際・スポ健を含む全卒業生の約7割が「入学から卒業までを同一キャンパスで学ぶ方がよいと思いますか?」との設問に「そう思う」又は「少しそう思う」と回答している。同一キャンパスでの4年制一貫教育は、学年を超えた縦のつながりを維持しやすく、学生指導・キャリア支援などの観点からも利点が多い。これらの理由から、「4年制一貫教育(同一学部同一キャンパス)の追求」という目標については、『DAITOVISION2023』に引き続き、新たな中長期計画でも維持する。
東京23区内のキャンパスにおける収容定員増の制限は、現時点では2027年度をもって終了する予定とされている。今後の見通しは不透明だが、本学としてはこの規制が終了した場合を想定し、「4年制一貫教育(同一学部同一キャンパス)の追求」を実現させるために、板橋キャンパスと東松山キャンパスの学部再配置も視野に入れた両キャンパスの定員の見直し及び、板橋キャンパスの収容定員増を実施する。また、現行キャンパス内で十分な定員増が果たせないと判断した場合は、板橋キャンパス周辺の校地拡張も視野に入れた計画を検討する。
その他、新たなキャンパス開設を実現するため、現在検討を進めている新キャンパス候補地について、具体的な構想計画の立案を推進する。
一方、校地・校舎の面積や施設のあり方に関しては、時代の変化(とくにオンライン技術の進歩)に即した形での大学設置基準の見直しが行われ、必要とされる教育施設の規模や機能については各大学の教育・研究の実情に応じた柔軟な取り扱いが可能となった点にも留意しておく必要がある。
板橋・東松山ともに、今後10~20年のうちに大規模改修(建替え)が必要となる校舎・施設が存在している。キャンパス整備の将来構想は、4年制一貫教育や両キャンパス間の定員配分の問題とも密接に関係するため、高等教育政策及び学生募集環境などの外的動向と、学内における学部学科再編の検討状況を見極めつつ、板橋と東松山の両キャンパスの定員最適化と有効活用の観点から、予断を持たず検討を続けていく。
(5)財政基盤の確保
上記(1)で述べたように、少子化の影響により、本学の学生募集環境は年々厳しさを増している。18歳人口の減少は今後さらに加速する見通しであり、地域間・大学間の競争は一層激化する。加えて、定員超過率に関する規制の厳格化も相まって、学納金収入の増加は容易に見込むことが難しくなっている。
一方で、デジタル変革への対応、教育研究環境の高度化、施設補修・整備など、長期的かつ継続的な支出が不可避であり、大学財政は構造的に支出超過へ傾きやすい状況にある。
本学が教育・研究の質を維持し、社会的責任を果たし続けるためには、安定的な財政基盤の確立が不可欠である。そうした財政基盤の健全化を図るうえで、教育活動収支における安定的な収入超過の維持は欠かすことのできない視点であり、そのためには、志願者を確保し収容定員を安定的に維持していくことが大前提となる。
このような環境下において、学部学科再編や定員配分の見直し、教員定数や基幹教員制度の導入といった教学・組織構造に関わる改革は、大学の将来像を左右する重要な経営課題である。
また同時に、18歳人口の減少や今後の補助金政策の動向など外部環境の不確実性も高まる中、学納金収入に依存しすぎない多角的な財務構造の確立も大学にとって重要である。
大学が直面する課題は、教学改革と経営改革が密接に絡み合う複合的なものであり、いずれも喫緊の対応が必要である。大学としては、これらの課題を総合的かつ戦略的に解決し、持続可能な教育研究体制と財政基盤を確立していくことが求められる。