Report

2019年度 研究班活動報告

「言語学・文献学」研究班

代表者
猪股 謙二

今期の研究班の研究活動は3名の研究員は言語変化に関わる諸問題を各研究員が専門とする個別言語の諸相を研究し合いより普遍的な言語変化の在り様を探り言語変化の本質を探ることである。

研究員の活動内容

文法範疇の数はいったいどれだけあると考えるべきであろうか。この問に答える時の基準となる言語、時代、言語領域はどのように設定すべきであろうか。ひとつの言語の範疇、例えば、動詞類、名詞類の範疇はどんな数から成り立っているのであろうか。これらの問題は、形式(form)と意味(meaning)の対立を軸として考察することになる。しかし、これは簡単なことではなく、特に、意味的な概念が関与するものとなると広範囲に関連する事象に踏み込むことになる。例えば、名詞の可算性(countability)は未だに興味ある課題である。名詞のみに関わる言語的範疇とすべきか、文化論的に捉えた意味的な事象とすべきか、名詞固有というより文脈依存の文法概念とするか。この可算性の文法的概念を持たない言語との相対、名詞の他の範疇、性、数、格、極性、有生性、総称性等との文法概念間での相対に因る広範囲の課題がある。今年度の活動は、可算性の区別の問題点を伝統的な文法書を読みながら整理して冠詞類との共起性を中心課題とし言語間での相違点に注目して意味論者、統語論者の主張を検討した。詳しくは次の拙論を参照して頂きたい。
参考文献
Aarts, Bas, Jill Bowie and Popava, (eds.) The Oxford Handbook of English Grammar: Oxford University Press,2020.
Massam,Diane, Count and Mass Across languages. Oxford University Press,2012.

【活動の日程】

  • 「夏季研究会」2019年7月30日(火)、18:00~19:30 於2号館8階会議室
    研究員の研究課題の確認と年間研究計画の提示
  • 「春季研究会」2020年3月16日(火)、14:00~18:30 遠隔通話会議
    研究員の研究活動報告会及び今年度の活動内容の検討と予算執行状況の確認

コミュニティの学びと学校

代表者
仲田 康一 (報告者 田尻 敦子)

本研究班は、「こども像の変遷」という大テーマのもとで、「コミュニティの学びと学校」というテーマを設定し、2017年度から3年間の研究を行った。2019年度は最終年度であり、多様な分野の研究交流をもとに、それぞれの研究に生かす実践を行った。
本研究では、2017年度から2019年度にかけて、WEB会議システム(ZOOM)を用いて、世界各地に拠点をもち研究を行う研究員と共に、研究交流を深め、新たなアイディアや問いを発見し、お互いの研究に生かしてきた。教育学の実践的な領域のひとつである情報教育や協働学習の手法を生かして、WEB会議システムを活用し、新たな共同研究のあり方へのチャレンジも行ってきた。本研究班のテーマのひとつである「コミュニティにおける学び」を共同研究班というコミュニティにおいても実践することができた。お互いに異なるフィールドに根差す研究員たちがお互いに学びあうコミュニティを生成させるために、WEB会議システムをどのように実践で用いるのか?という問いは、教育学における情報教育や教育方法、教育哲学、協働学習、教育心理学等の領域だけでなく、多様な学問領域や学校、企業、NPO等でも大切な問いであると考えられる。その意味では、本研究班は、研究テーマである「コミュニティにおける学び」を自分たち自身で実践し、「コミュニティ」を生成させ、そこに「学び」を生み出す探究を行ったと言える。
例えば、マレーシアやインドネシアなどの海外から日本に研究者の招聘をしたり、現地にフィールドワークに出かけたりして、対面で研究協議することも非常に大切であると考えられる。実際に、世界各地でのフィールドワークを研究班のメンバーは行っている。その一方で、多様な国や地域で研究を行っている多忙な研究者が一同に会する機会をつくるには、予算的にも時間的にも制限がある。ZOOM等のWEB会議システムなどを用いることで、予算的、時間的制約を超えて、研究協議をすることができた。国際的で、超域的な分野の研究者たちで、協働的で対話的な研究方法の模索をし、共に実践をするコミュニティを生成し、「コミュニティにおける学び」に関する理論的、実践的な研究を行うことができたと言える。

【活動の日程】

  • 第1回 5月18日 於 各自のオフィス
    web会議システム(zoom)を用いた年間計画と方向性の確認
  • 第2回 6月22日 於 各自のオフィス
    web会議システム(zoom)を利用した研究協議
  • 第3回 8月31日 於 各自のオフィス
    web会議システム(zoom)を利用した研究協議
  • 第4回 10月26日 於 各自のオフィス
    web会議システム(zoom)を利用した研究協議
  • 第5回 1月25日 於 各自のオフィス
    研究の省察と総括

出土資料による中国古代文化の研究

代表者
吉田 篤志

当研究班のメンバーは、吉田篤志(研究班代表者)と成家徹郎(研究所兼任研究員)の2名である。吉田の研究分野は主に中国古代思想であり、成家の研究分野は中国古代天文学である。両名とも出土資料を利用した中国古代文化の研究を行っている。ほかに成家は江戸時代の天文学や近現代中国にも関心を示し、足利学校の天球儀や文革中の活動家の動向を調べている。
吉田は12月に『中国古代思想の考察』(明徳出版社、2019年12月)を公刊した。内容は、神話と歴史との問題や出土資料に拠る『詩経』・『尚書』の考察、また青銅器銘文の検討や中国の学会参加報告・遺跡調査等で、中国の古代史学や考古学の研究を参考にしながら考察した思想や思想史の成果である。
成家は『史跡足利学校蔵歳差現象を反映する新天球儀=天象儀調査研究報告書』(私家版、2018年12月)を出版した。また「郭沫若の甲骨文字研究3」(『修美』No.133、2019年)、「成仿吾の欧州行(四) 成仿吾が日本に来た時期」(『郭沫若研究会報』22、2019年12月)、「成家徹郎訳『柴玲の回想』:天安門事件1989〉―天安門広場の真実―」(『人文科学』第25号、2020年3月)を執筆した。研究班報告会(11月30日)では、「山梨稲川の古代漢字研究」と題して稲川の古代漢字研究の一班について論じた。内容は、『説文解字』を音韻と原義の二方面から研究し、原義方面の著作『考声微』について紹介した(『修美』所収「説文解字の研究」に「日本人の説文研究(三)忘れられた説文学者 山梨稲川」の考察がある)。

【活動の日程】

  • 7月14日(日) 20:00~20:30 於メール会議
    『人文科学』掲載論文の内容に関する打ち合わせ会議(吉田・成家)
  • 11月23日(土) 20:00~21:00 於メール会議
    研究班報告会の準備の打ち合わせ会議(吉田・成家)
  • 11月30日(土) 13:40~15:10 於板橋校舎2-0221
    研究班報告会。発表者は成家徹郎(研究所兼任研究員)
    演題:山梨稲川の古代漢字研究
  • 12月19日(木) 20:00~20:30
    座談会の講演内容に関する打ち合わせ会議(吉田・横田)
  • 1月11日(土) 13:30~15:00 於板橋校舎2-0221
    座談会。発表者は横田恭三(跡見学園女子大学教授)
    演題:書体の変遷 ―楷書はどのようにして生まれたか―

達受所蔵過眼金石書画目録編集

代表者
澤田 雅弘

清代中期における金石書画鑑蔵傾向の考察に資することを目的に、「金石僧」の異名をとる金石書画鑑蔵家達受(1791~1858、法名六舟)について、その鑑蔵対象、鑑蔵活動、鑑蔵品目等を可視化する作業を進め、その根幹資料である達受自編年譜『宝素室金石書画編年録』について、全470項目に及ぶ『達受所蔵過眼金石書画目録-宝素室金石書画編年録篇-』を年度末に刊行した。また、『六舟集』(浙江文叢、浙江古籍出版、2015)所録のうち、南屏行篋残本・白馬神廟小志・詩文題跋及信札拾遺、及び朋友致六舟詩文鈔の各書所見の金石書画類を目録化して『人文科学』に公刊した。なお、浙江省博物館所蔵原稿を底本とする詩集『小緑天庵吟草』四冊について『宝素室金石書画編年録』所見記事との照合結果を目録に反映すべく進めていたが、これについてはいくつかの課題が生じ、作業を終えるにはいたらなかった。

【活動の日程】

初年度は、研究員それぞれが設定した研究対象に沿って研究を進めた。新型コロナウイルス感染予防の観点と海外にいる研究員2名の事情も配慮して、組織当初計画していた中間報告の集会は開催しないこととし、全てリモートワークの方法で、研究の進捗報告、『人文科学』誌投稿者の選出、次年度刊行予定の当該班研究報告書掲載の各研究員の論考仮題目の提出、その他情報交換等を行った。

  • 4月18日(木)
    『達受所蔵過眼金石書画目録-宝素室金石書画編年録篇-』編集方針の確認、『小緑天庵吟草』所見記事との照合方針の確認(於澤田研究室)
  • 6月20日(木)
    『達受所蔵過眼金石書画目録-宝素室金石書画編年録篇-』編集、『小緑天庵吟草』との照合方針の進捗報告(於澤田研究室。以下同様)
  • 7月18日(木) 同上(於澤田研究室)
  • 10月24日(木) 同上
    編集の効率化のために『達受所蔵過眼金石書画目録-宝素室金石書画編年録篇-』編集は中村を代表として進めることを合意。『六舟集』所録南屏行篋残本等所見記事については澤田が整理することを合意(於澤田研究室)
  • 12月12日(木)
    進捗報告(於澤田研究室)
  • 12月20日(金)
    mailを通じて原稿点検作業を開始
  • 3月31日(火)
    『達受所蔵過眼金石書画目録-宝素室金石書画編年録篇-』(大東文化大学人文科学研究所報告書)を公刊。A4版、総41ページ。「達受所蔵所作所見金石書画目-南屏行篋残本・白馬神廟小志・詩文題跋及信札拾遺・朋友致六舟詩文鈔による」(『人文科学』第25号、23~37ページ)を公刊。

東アジアの美学研究

代表者
河内 利治

我々の共同研究班である「東アジアの美学研究」班は、本研究班の前身である「中国美学研究」班の成果を踏まえ、研究範囲を中国から東アジアへと拡大し、より本格的な研究を行うことによって、2006年度の所報で述べた最終目標に向かっていくことを目的として2011年度に立ち上げたものである。
今年度も引き続きその目標に向かって研究を推し進めながら、加えて「平成30年度私立大学研究ブランディング事業」の研究チーム8つの中の「“道”研究」チームとして、次のような研究プログラムを昨年度から実施することとなった。
“道”と“書”をめぐる漢学・書道の知的資源の基盤整備を行い、中国美学の観点から「東洋人の“道”」思想を明らかにするための学際的研究拠点を形成することで、本学が「道」と「書」という分野のリーディング大学であるという地位の確立をめざす。このプログラムの2018年度からの五年間の研究成果として最終年度には「“道”研究論集」の発刊を目指すことになる。
よって、今年度の研究班の活動は、従来からの研究に加え、昨年度来の“道”に関する研究も加わった。毎月の研究会の内容は次の通りである。

【活動の日程】

  • 第一回 4月22日(月)(18:00~20:00)於大東文化会館K-404
    年度初めの打ち合わせ
  • 第二回 5月27日(月)(18:00~20:00)於大東文化会館K-401、402
    「朱子における「道」解釈について」(報告者・秋谷幸治)
  • 第三回 6月24日(月)(18:30~20:00)於大東文化大学板橋校舎 1-0404教室
    「『論語』の「道」―荻生徂徠『論語徴』における「道」解釈」(報告者・鈴木拓也)
  • 第四回 7月29日(月)(18:00~20:00)於大東文化会館K-404
    「伊藤仁斎『論語古義』の稿本―「道」の解釈にむけて」(報告者・葉山恭江)
  • 第五回 10月28日(月)(18:00~20:00)於大東文化会館K-404
    「〈道〉字例集2(前漢~後漢)」(報告者・川内佑毅)
  • 第六回 11月25日(月)(18:00~20:00)於大東文化会館K-404
    『研究報告書』作成のための作業
  • 第七回 12月23日(月)(18:00~20:00)於大東文化会館K-404
    「〈𧗟〉字の研究」(報告者・亀澤孝幸)

日本文学における歴史的事象の研究

代表者
美留町 義雄

本研究班では、明治以降の日本文学を題材にして、近代化にともなう歴史的な変遷に目配りをしつつ、その時代性の中で文学テクストを読み直す作業を行ってきた。基本的には、研究員の専門とする作家を扱い、研究会で口頭発表を行い、質疑を通じて多角的に批評しながら、それぞれの研究を深めるという作業を行った。以下にその成果をまとめる。

美留町義雄研究員は、論文「森鷗外とドイツ語の名前」『ドイツ語と向き合う』所収(ひつじ書房、2020年7月刊行予定)を執筆し、孫や子供に欧米風の名を付けた鷗外の特異なネーミングを多角的に考察し、古今東西の知の結節点として結論付けた。

滝口明祥研究員は、昭和文学会の研究集会(2019年5月)での発表「同人雑誌から文学賞へ―1950年代を中心に」において、作家のデビューの主な経路が 1950年代に同人雑誌から文学賞に移っていること、そしてそれが当時のジャーナリズムのあり方と結びついていることを明らかにした。また、東アジアと同時代日本語文学フォーラム(2019年10月)での発表「漂流民と物語―井伏鱒二を中心として」において、漂流民自身の経験と、漂流記やそれを基にした小説とのあいだに違いがあることを指摘しつつ、同じ漂流事件を扱った複数の漂流記に言及する井伏鱒二の『漂民宇三郎』という小説が漂流記の物語性に対する鋭い批評性を有していることを明らかにした。

中山弘明研究員は、河野喜美子・陣野英則他編『日本「文」学史 「文」から「文学」へー東アジアの文学を見直す』(勉誠出版 2019,5)担当執筆として「尹伊桑と戦争ー「音楽言語」と日本との交響」(二章 p311~321)を書いた。韓国の作曲家尹伊桑の東アジアにおける活動とその芸能との関わりに焦点をあて文学史を再検討する論旨である。他に依頼講演として演題「尾崎秀樹と雑誌『中国』ー文化大革命体験/学問史的に」(広島近代文学研究会10月5日)を行った。これは2020年度に論文化する予定である

下山孃子研究員は、2019年9月28日開催の島崎藤村学会第46回全国大会(木曽福島大会)において、「藤村のイブセン受容―「幽霊のような白い馬」(『ロスメルの家』とは?)」と題し、講演を行った。その補遺に関する発表を2019年11月23日開催の班研究会(大東文化会館)で行った。これらの発表は、『島崎藤村研究』第47号(2020年9月)に掲載予定である。

木村陽子研究員は、論文「日本文学におけるアダプテーション―歴史的背景と三島由紀夫・安部公房の先駆的実践―」(『中等日語教学研究』華東理工大学出版社、2020年5月刊行予定)において、日本の伝統的創作技法として認知されたアダプテーションの中世から近代に至る展開を整理するとともに、戦後の三島由紀夫・安部公房のアダプテーション実践の特異性を明らかにした。

山田悠介研究員は、論文「エコクリティシズムと日本古典文学研究のあいだ――石牟礼道子の〈かたり〉から」(『【アジア遊学246】和漢のコードと自然表象――十六、七世紀の日本を中心に』勉誠出版、2020年3月)において、エコクリティシズム(環境批評)と、「自然」の問題に焦点を当てる日本古典文学研究の領域横断的な研究の可能性を探るとともに、石牟礼道子のエッセイの分析を通して、テクストの表現形式に着目するという方法論の意義を検討した。

関谷由美子研究員は、2020年、4月発行の『宝塚の21世紀 -演出家とスターが描く舞台―』(共著 社会評論社)において、「〈悲劇〉を解読する」というタイトルで、2000年以降に上演された宝塚歌劇の〈悲劇〉8篇を取り上げ、脚本、演出、俳優の演技など、いくつかの相のもとに、演劇としての宝塚歌劇として論じた。

黒田俊太郎研究員は、研究発表「黒田俊太郎『「鏡」としての透谷 表象の体系/浪漫的思考の系譜』を読む」(2019年6月29日、於大東文化大学)を行い、同書が課題として残していた、日本浪曼派におけるヱルテリズムの問題を検討・整理した。

【活動の日程】

  • 2019年6月29日(土)15:00~17:00 於大東文化会館
    研究発表:黒田俊太郎:『「鏡」としての透谷 表象の体系/浪漫的思考の系譜』を読む
  • 2019年11月23日(土)15:00~17:00 於大東文化会館
    研究発表:下山孃子:藤村のイブセン受容―「幽霊のような白い馬」(『ロスメルの家』)とは?-
  • 2020年2月14日(日)15:00~17:00 於大東文化会館
    研究発表:滝口明祥:『太宰治ブームの系譜』を読む