Report

2023年度 研究班活動報告

中国三教と景教の相互交渉

代表者
髙橋 睦美

活動の内容

今年度の中国三教と景教の相互交渉研究班の研究活動は、4名の研究員と他1名によって、2006年に発見された新たな景教碑(洛陽碑)における中国三教と景教の相互交渉を探ることであった。
まず、最重要テクスト「洛陽碑」前半の「大秦景教宣元至本經」の前半部分を共同で分析した。次に、中国三教の各専門家が、それぞれの間テクスト性を指摘した。具体的には、他の景教テクストとの間テクスト性を武藤氏が主に担当した。同様に、道教テクストとのそれを高橋研究員が、仏教を宮井研究員が主に担当した。また、儒教を湯城研究員が、景教の影響作用史を新居研究員が担当した。
方法としては、「洛陽碑」の狭義の文脈と広義の文脈の両方を研究する方法を採った。具体的には、まず共同でテクストの邦訳とその註釈を行って、全体のテクスト内照応を明らかにした。その際、既出の翻訳や先行研究についても調査を行い、参考にすべきものを注記した。次に、テクストの各々の部分の背景として、三教の多くのテクストとの照応関係を広く辿っていった。最後に、相互に発見したテクスト外照応関係のある可能性があるテクストを持ち寄り、それぞれのテクストと「洛陽碑」のテクスト内照応とを照らし合わせていった。
今年度の研究成果発表としては、高橋研究員が、2023年12月2日に、人文科学研究所研究報告会で、「唐代における『老子』解釈の概況について」と題して報告を行った。

活動の日程

  • 第1回 2023年6月16日(金) 17:00~19:00 今年度の研究会の打ち合わせ、研究報告(武藤) (zoom開催)
  • 第2回 2023年8月26日(金) 10:30~12:00 研究発表(武藤)(対面開催 於板橋キャンパス歴史文化学科会議室)
  • 第3回 2023年10月9日(月) 17:00~19:00 「洛陽碑」前半の前半部分読み合わせ (対面開催 於板橋キャンパス歴史文化学科会議室)
  • 第4回 2023年12月15日(金) 17:00~19:30 「洛陽碑」前半の前半部分読み合わせ (Zoom開催)
  • 第5回 2023年3月5日(火) 15:30~18:00 「洛陽碑」前半の前半部分の読み合わせ、今年度のまとめ (対面開催 於板橋キャンパス歴史文化学科会議室)

学びと育ちの共同体

代表者
田尻 敦子

活動の内容

本研究班では、「学びと育ちの共同体」に焦点を当てて研究を行った。状況的学習論や関係論における学びの共同体、学習共同体、実践共同体などの概念をもとに、学校だけではなく、保育所や社会教育施設、地域などにおける学びと育ちの共同体に関する研究を行った。教育、福祉、医療、保育、建築、芸術など多様な領域の研究班のメンバーと共同研究を行った。地域的にも、アフリカやマレーシア、インドネシア、ブラジル等、多様な地域に根差したメンバーで研究を行っている。
今年度は、ミーティングや研究打ち合わせなどにおいて、多様な地域のメンバーと交流を深めるため、可能な範囲でオンラインを活用して行った。研究代表者が、現地で直接、インドネシアの国立芸術大学デンパサール校のカルジャ氏と、どの論文を紀要に載せるか検討し、掲載を行った。また新たなメンバーであるヨガ氏がインドネシアから参加し、共同研究者であるブディアナ氏に関する著作を執筆するための協力関係を結んだ。人文科学研究所の報告書などに掲載したイ・クトゥット・ブディアナ氏の絵画や文章などの著作権許諾の書類を英語と日本語で作成し、今後の国際的な共同研究に向けた土台を築いた。

研究活動日程

  • 4月22日(土) 13:00-15:00 Zoomミーティング
    今年度の研究計画やミーティングスケジュールの打ち合わせ
  • 7月1日(土) 13:00-15:00 Zoomミーティング
    研究の進捗状況の確認や予定などの打ち合わせ
  • 8月9日(水)~26日(土) インドネシアにて研究代表者田尻、ブディアナ氏、カルジャ氏、ヨガ氏で共同研究と研究打ち合わせ、論文作成、著作権の許諾書類作成、インドネシアでの著作出版などの準備を行った。
  • 10月7日(土)13:00-15:00
    研究打ち合わせ
  • 11月11日(土)13:00~15:00
    研究報告書刊行に向けた打ち合わせ
  • 12月16日(土)13:00-15:00・1月6日(土)、1月13日(土)
    研究報告書の編集会議

中国書跡の鐫刻鉤摹研究

代表者
澤田 雅弘

本年度は、前年度に結成した研究班の研究最終年度である。本研究班は先の研究班「中国鐫刻基盤研究班」を多角的に発展させるべく、「鉤摹」の領域を加えて、石刻・刻款金文・古璽・篆刻・刻帖・拓本等々まで視野に入れた。すなわち、刻するまでの諸過程、刻する行為、刻されたもの、刻を拓出したもの、拓紙上の加工など、鐫刻を核として広がるさまざまな文化事象を研究対象として、安藤喜紀・小西優輝・権田舜一・中村薫・栗躍崇の5氏と代表者澤田の6名が、それぞれの関心にしたがって自由に研究を進めた。安藤は黄腸石の刻を発端に同時代の石刻全般の刻に対象を拡大し、小西は一貫して骨簽に執心しつつも刻から字体に視野を拡大し、権田は河井荃廬の篆刻とその学識の研究に専念し、中村は趙宋の題名摩崖を通じた文人交流の研究に向かい、栗は古璽・陶文から印論にまで対象を拡大し、澤田は絶対的な学書対象として著名な碑版拓に施されたさまざまな加工に関心を寄せた。
今年度も昨年度刊行の安藤・権田・栗の各成果を収めた研究報告書『碑刻題記・璽印陶文・印人学殖の基礎研究』(A4版全136頁)に次いで、『石刻文化研究小綴―題刻・刻刀・伝拓―』(A4版全62頁)を刊行したが、諸般の事情から今年度の研究報告書に収録できたのは、栗「『中国印論類編(修訂版)』所見篆刻刀の別称と分類について」、中村「「浯渓題名」考-宋代文人達の交流の例として-」、澤田「翁方綱孔子廟堂碑考総覧」の三篇に止まった。また、紀要『人文科学』には、栗が「印論にみられる昆吾刀―それに関する問題をめぐって―」を執筆した。研究班に課される研究報告会には、澤田が「 虞世南「孔子廟堂碑」三井本中の〈描〉の内容」をzoomにより口頭で研究報告をおこなった。
新型コロナウイルス感染予防の観点と海外研究員の事情も配慮して、昨年度同様、対面による例会は開催せず、情報交換や研究進捗報告、意見交換等は、研究班代表を起点にEメール等のリモートワークで進めた。

活動の日程

  • 2月7日(火)  新年度研究班計画の確認
  • 5月12日(金) 相談を経て紀要『人文科学』投稿者を栗に決定
  • 5月15日(月)  『人文科学』及び研究報告書執筆の申込
  • 6月17日(土)  研究進捗の報告、研究情報の交換1
  • 8月27日(日)  研究進捗の報告、研究情報の交換2
  • 9月9日(土)   研究進捗の報告、研究情報の交換3
  • 10月22日(日)相談を経て研究報告書執筆要領を決定
  • 12月2(土)  人文科学研究所研究報告会に澤田が報告
  • 12月30日(土) 研究報告書編集を完了
  • 1月11日(木)  研究報告書原稿一式(3月末発行)を提出
  • 2月19日(日) 本研究班終了後の研究継続に関する相談

東アジア美学史研究

代表者
河内 利治

活動の内容

2022年度末、すなわち2023年3月、われわれ東アジア美学史研究班は、5年間にわたる私立大学研究ブランディング事業の成果として『“道”研究論集』を刊行した。同論集の刊行をもって当班が取り組んだ“道”研究は一応の区切りを迎えることになった。そこで2023 年度は、当班の掲げる本来の研究課題、すなわち中国美学の諸範疇やその歴史の研究に立ち返り、班員がそれぞれの興味関心に応じた研究成果を発表することとした。月例研究会では、下記の通りさまざまなテーマの研究発表が行われ、活発な議論が交わされた。。

活動の日程

  • 第1回 4月24日(月)(19:30~21:30)オンライン
    年度初めの打ち合わせ
  • 第2回 6月26日(月)(19:30~21:30)オンライン
    研究発表「中国書字思想の探究」(亀澤孝幸)
  • 第3回 7月31日(月)(19:30~21:30)オンライン
    研究発表「明末清初の〈道〉字例について」(承春先)
  • 第4回 9月25日(月)(19:30~21:30)オンライン
    研究発表「「無絃琴」考」(秋谷幸治)
  • 第5回 10月30日(月)(19:30~21:30)オンライン
    研究発表「河井荃盧の渡清における中国人士との交流
    ̶̶西泠印社関係者を中心として」(川内佑毅)
  • 第6回 11月27日(月)(19:30~21:30)オンライン
    研究発表「道人について」(陳達明)
  • 第7回 12月18日(月)(19:30~21:30)オンライン
    研究発表「李商隠詩に見える「哭~」詩」(鈴木拓也)

『中国美学範疇研究論集』(第十一集)には、美学に関する翻訳一篇(秋谷幸治訳「成復旺著「審美、異化と実践美学」)と、「〈道〉字例集5(清)(亀澤孝幸・川内佑毅・承春先・陳達明編)」が収められている。後者は、5年間のブランディング事業では完了できなかった資料集の完結編である。われわれが5年かけて取り組んだ“道”研究は、純粋な意味での美学研究ではなかったが、決して美学研究と無関係ではない。むしろそれは、美学の基礎となるものである。中国における「美学」とは、純粋に「感性」の領域に限定されるものではなく、つねに“道”という理念に包摂されてきた政治や倫理、自然の問題と複雑に絡み合っているからである。古典中国において、美の問題は、つねに“道”とつながっていると考えられてきた。すなわち、中国において、“道”を離れた美学は存在しないといってよい。したがって、“道”研究の成果をベースにして、これからあらたな美学研究がはじめられなければならない。

日本文学における歴史的事象の研究-近代文学の再検討

代表者
美留町 義雄

活動の内容

本研究班では、明治以降の日本文学を題材にして、近代化にともなう歴史的な変遷に目配りをしつつ、その時代性の中で文学テクストを読み直す作業を行ってきた。基本的には、研究員の専門とする作家を扱い、研究会で口頭発表を行い、質疑を通じて多角的に批評しながら、それぞれの研究を深めるという作業を行った。以下にその成果をまとめる。

5月3日に、中山弘明研究員が委員長をつとめる特別展覧会「島崎藤村の世紀」(於日本近代文学館:4月1日~6月10日)を訪れ、編集者としての藤村の活動について理解を深めた。特に、当日の記念イベント「藤村と蓊助―政治、美術そして文学」に参加し、藤村の三男で画家の島崎蓊助について、その画業や思索について多くを学んだ。
11月18日に、杉山若菜研究員による口頭発表、「大江健三郎『キルプの軍団』考察」をテーマにして、研究会を実施した。おもに、作中における「・」など記号の使用や「罪の許し」の問題、さらに題名について、特に聖書との関連で議論された。
2月18日に催された今年度最後の研究会では、木村陽子研究員による口頭発表「三島由紀夫『白蟻の巣』論」が行われた。三島由紀夫の戯曲における「構成」の問題が話し合われ、さらに「白蟻」という昆虫がもたらす表象について、三島が南米特有の動植物の生態や知識を巧妙に作品に落とし込んでいた事実が指摘された。

活動の日程

  • 2023年5月3日(水)13:30~15:40 日本近代文学館
    中山弘明:「藤村と蓊助―政治、美術そして文学」
  • 2023年11月18日(土)15:00~17:00 Zoomにてオンライン開催
    杉山若菜:「大江健三郎『キルプの軍団』考察」
  • 2024年2月18日(土)15:00~17:00 Zoomにてオンライン開催
    木村陽子:「三島由紀夫『白蟻の巣』論」

近世絵入り本の研究-『絵入り徒然草』を中心に-

代表者
德植 俊之

活動の内容

本研究班は、『徒然草』の絵入本を中心に、文学作品がどのように享受されていったのかを多角的に検討し、明らかにすることを目的とする。
本年度は、江戸時代に刊行された『徒然草』の絵入版本を収集・整理しながら、その基礎的データを作成することに注力した。『徒然草』は近世に入って版本が刊行されたことに伴い、読者層を広げていった作品である。江戸時代には、多くの『徒然草』の本や注釈書類が刊行されたが、その中でも絵入本が読者層拡大に大きく寄与したことは疑いない。事実、江戸時代に出版された『絵入徒然草』の種類は、『伊勢物語』と同様に非常に多く、その全貌はいまだつかめていないのが実態である。本研究班では、可能な限り、近世出版の絵入本『徒然草』を収集し、その書誌的データを整理するよう努力した。ただ、版本の現物を入手することは困難を伴い、その全貌解明にはまだ時間がかかる見通しである。あらためて、さらにこうした地道な検討を重ねていくことが重要であると再認識した。
なお、本年度10月より、あらたに本学日本文学科講師で中世文学専門の田村正彦氏に加わっていただくことになった。田村氏は、地獄の研究をテーマとしているが、中世から近世にかけての絵画資料にも造詣が深く、今後の本研究班の研究の進展に寄与してくれるものと期待される。

活動の日程

  • 4月22日(土) 研究方針について打ち合わせ・研究方法の具体的検討
  • 6月10日(土) 研究検討会
  • 9月9日(土) 研究検討会
  • 11月18日(木) 研究検討会
  • 2月24日(土) 研究検討会