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活動報告

醸造文化研「青森酒蔵コラボレーションAQEプロジェクトに関するヒアリング調査」報告

 

今年2023年1月末に立ち上げ、4月に他学部および名誉教授の先生方がメンバーに加わり、本格的な活動を始めた「醸造文化と地域振興に関する実態調査研究」を目的とした研究プロジェクト(略称:醸造文化研)は、数回の研究会開催を経て、実態の詳細を調査研究するための現地ヒアリングを実施した。

今回の調査対象および実施スケジュールは、以下の青森県内の日本酒醸造所および酒類小売店である。

 2023年6月26日 八戸市  八戸酒造(株)   専務 駒井秀介 氏

            十和田市 鳩正宗(株)        杜氏 佐藤  企 氏

                   弘前市  三浦酒造(株)    社長 三浦剛史 氏

                     大鰐町  そうま屋米酒店    店主 相馬康穫 氏

2023年6月27日        青森市  (株)西田酒造店     杜氏 安達  香 氏

 

今回、醸造業の中でも青森県内の日本酒醸造所等を対象とした理由は、以下のような日本酒を取り巻く厳しい現状とその打開に果敢に挑む4つの酒蔵が当該地域にあるとの情報を得たことによる。

 

日本酒醸造所、いわゆる酒蔵は、昭和初期(1920年代後半〜1930年代前半頃)には7,000以上あったと言われている。平成の初め(1990年頃)でも2,500近い酒蔵があったが、直近の平成29年度(2017年度)調査結果では1,371酒蔵にまで減少した。 また、日本酒出荷量は、昭和48年(1973年)の117万klをピークに、右肩下がりに減少を続けて、令和2年(2020年)はピーク時の3割以下の41万klにまで減少してしまった。こうした状況下でも、「普通酒」以外の純米酒や純米吟醸酒といった「特定名称酒」、いわゆる「高級酒」の部類に入る日本酒の出荷量は緩やかながらも伸びを示していたのだが、最近その伸びに翳りが見えてきた。

 日本酒醸造そのものの有り様、歴史と伝統、それを取り巻く諸々の自然および社会環境、造られた日本酒の流通、それを扱う酒場や飲食店、そして日本酒を嗜む人々の存在、和食文化との関係性など、これらを総じて「日本酒醸造文化」とするならば、前述した日本酒の現状はこの固有の文化が先細っていくことに等しいとも解釈することができる。一方、こうした中で、地域振興も視野に入れた酒蔵間のコラボレーション(以下、「コラボ」とする。)をはじめとする新たな動きも確認できる。

特に、今回の調査では、2010年頃から始まったコラボ前史的な杜氏たちによる取り組みに始まり、新型コロナ感染拡大による日本酒出荷量の落ち込む中で、青森県内の4つの酒蔵が立ち上げたプロジェクトチームAQE(Aomori Quattro Esperanza /青森の4つの希望)による以下のような新企画に基づいた日本酒醸造とその社会的反響、今後のプラン等について聞き取ることができた。いずれの企画もこれまでにない「画期的な」と評することができる。各酒蔵の自社酒米の開放と技術交流を基礎に、同一の酒米を使い同じ精米度で、時には同一の県内開発の酵母で、水質の異なる各酒蔵の所在地域の仕込み水と酒蔵に棲む菌の助けを借りて、それぞれの杜氏が酒を醸す、というものである。

・青森酒蔵コラボ2021「青森酒米プロジェクト『三ツ友恵』」

・青森酒蔵コラボ2022「AQEプロジェクト第1弾『Spring Drop』」および

「AQEプロジェクト第2弾『一期二会』」

・青森酒蔵コラボ2023「AQEプロジェクト第3弾『HANAFUBUKI 70×MAHOROBA JUN』」

 

また、イベントとしては、各蔵の試飲会も都内や仙台等でも行なっている他、JR東日本の協力により、地元青森で青森酒蔵コラボイベント「あおもり地酒AQE号」の運行を昨年2022年より翌23年7月迄で3回ほど実施し、いずれも好評を博している。

4つ酒蔵には概ね2つの共通の思いがあることを確認することができた。ひとつは、「清酒業界を盛り上げ、日本酒の現状を底上げしたい」というものである。もうひとつは、「青森県産の日本酒を広く全国にアピールし、多くの人々に味わってもらい、青森のことをもっと知ってほしい」というものである。

当初われわれ(少なくとも筆者)は、青森県内4酒蔵のコラボ企画は「地域振興」を主たる目的としたものだと考えていた。しかし、想像以上に深刻な日本酒醸造業界の現状を知り、またヒアリング調査を進めていくにつれ、「日本酒醸造文化」と「地域振興」の両者を絡めて研究していくことの難しさを知らされた。

  一見すると、4酒蔵の取り組みは、1990年代から日本で盛んになった企業のメセナやフィランソロフィーにも似ているように映る。しかし、直接的にも間接的にもそうした企業の社会的評価を上げることを目的とした芸術・文化支援や社会・地域貢献とは異なり、各酒蔵の「酒造り」という本業そのものの持続的発展、さらには言えば、プロジェク名称の通り「青森の4つの希望」を包含したものであった。

(文責:植野 一芳)