Project

2012年度

プロジェクト1

テーマ

産学官連携による知識創造に関する研究

主査 髙沢 修一

 

大東文化大学は、学生数の多くを埼玉県出身者が占め、地域密着型の研究・教育機関の役割を果たしています。地域密着型の研究・教育機関が地域経済に果たすべき役割としては、第一に、地域経済の発展に貢献する人材の育成と人的資源の提供が挙げられ、第二に、地域企業に対する経営情報やビジネスアイデアの発信という知的サービスの提供が挙げられます。

 

武蔵野銀行の調査(ぶぎんレポートNo.114)に拠れば、1601年創業の伊勢屋を始めとして、埼玉県内に327社の100年企業が存在していますが、そのうち、清酒業は16社と全体の4.89%を占めています。しかし、国税庁の調査結果に拠れば、2012年度の清酒消費量の数値は20年前の約40%まで下落しており、業界全体の落ち込みは、清酒業経営者の円滑な事業承継を妨げる恐れがあります。

 

今後、老舗の清酒業者が生き残るためには、本業に囚われることなく積極的に新規ビジネスに参入することが求められており、地域密着型の大学に対しては、地域経済に根づいた100年企業が新規ビジネスに参入する際の参考となるようなアイデア提供が求められることになります。
例えば、関西経済界に有為な人材を多数輩出している関西大学は、伏見酒造組合と連携協力協定を締結して、酒造会社大手の月桂冠株式会社との共同研究の成果であるミネラルウォーター「自然の秀麗」を発売しています。
これは、関西大学が行っている地下水に関する研究を酒造りに欠かせない水資源に結びつけた成功事例です。この成功事例から学べることは、埼玉県の老舗清酒業が生き残るためには、清酒に代わる新たな商品開発という成長戦略を模索することであり、地域経済密着型の大学研究機関である大東文化大学経営研究所は地域企業が成長戦略を構築するための事業転換のアイデアを提供しなければならないという責務を負っているのです。

 

また、事業承継が困難な場合の選択肢の一つとしてM&A(merger & acquisition)が実施されていますが、M&Aに関しては地元金融機関が仲介の労を取るケースが多くみられます。しかし、将来的には、大東文化大学経営研究所が地域経済の分析予測に基づいて、地域企業同士のカップリングを進展させる役割を担うことも検討する必要があります。

 

本プロジェクトでは、埼玉県内の100年企業の事業承継と成長戦略に関する研究を行うことで社会貢献を果たすことを目指しています。

主査 松尾 敏充

 

社会貢献は研究、教育と並大学の使命とされ、また社会の要請であります。社会貢献は、今までも、様々な大学が地域向けの講座や商店街の診断など様々に展開してきています。なかでも、地域産業の振興は、これからの社会貢献として最も重要な分野となっています。大学は社会や経済と一体的な存在ですが、その社会経済が衰微の兆しがあります。大学も問題となっています。とすれば、大学が地域を手掛かりに日本の産業を振興することに汗をかくのは、当然のことといえるでしょう。

 

実際、大学の活動は大いに期待されています。政府レベルでは、近年、産学官連携という考え方が強く打ち出されてきましたが、産業振興の考え方としては間違っていません。それは、今日の産業振興は、世界的にも、企業と大学されに行政の活動の結合の開発によってもたらされる傾向が強くなってきたからであります。けれども、実のところ、それがうまくいっているという理解はあまりありません。こうした産業の創造や振興は、知的創造を核とする性質をもつようになっているのですから、大学の重要性は明白であります。ところが、その重要性とは対照的に、こうした結合は結果が乏しいのです。したがって、大学が産業振興のなかで本当に有効な存在となり、その社会的使命をはたすには、どのようなことが求められるのは、どのような行動と活動が必要なのかを解明することが重要なのです。そこで、このプロジェクトは、二つの視点から問題にとりくむことにしました。

 

一つは、産学官連携の事例を比較、検討することで、産業振興においてどのようなことが行われ、どのようにして成功が導き出されるか、あるいは、どのような理由によってしっぱいしているかを明確にすることです。

 

今一つは、地域が大学を結節点とする、ないし、大学を効果的に活用してもらう視点から、われわれ経営学部としてどのような活動と行動によって地域と産業の振興に貢献の実を生み出すかについて検討することです。これは、具体的には、板橋を中心とする地域のブランドあるいは産学官連携の板橋モデルといったものを実現するための、経営学部としての教員、学生活動の貢献のあり方を探求することです。

 

現在、関西および東北地方において、現地での実査、ヒアリングを進めています。その結果、文科系学部でありながら人材と資金を投入しながら地域の諸機関と企業を統合して産業振興の実績をあげ、社会的認知をうけるようになっている大学が生まれてきていること、その他方において、官僚の慣性の法則のもとに成果があげられない大学とが2極化し始めているのではないかという認識を得ています。この点については、さらに、地域ビジネス活動に関係する団体や諸機関とそのネットワーク形成など、調査研究をすすめて、いずれ結果をご紹介します。

 

同時に、板橋を中心とする産業振興と大学についても研究に着手しようとしています。具体的な進め方として、地域社会や経済環境の現状、課題を知悉するキーマン数名からなるアドバイザリー・ボード(仮)を設置し、外部の知を結集する中で指導を仰ぎながら、地域が本当に求めているものは何か、本学に期待するものは何かを明確にしていくことを考えています。

成功事例にみる産学官連携の活動パターン(滋賀大学)

組織間連携での成果は、キーパーソンの結合が生み出すものだということが示されている。

プロジェクト2

テーマ

経営学教育の体系化と多様性に関する研究

主査 水谷 正大

 

経営組織の広域化・国際化や異業種・異分野との共同事業の普及にともない、経営学的アプローチが必要とされる領域は拡大しています。本プロジェクトの目的は、素早い状況変化において細部を見失うことなく全体を俯瞰し、複雑に絡み合う個別問題をすくい上げ的確にしかも同時に解決しながら組織行動としての一貫性を保持できる組織経営のための新しい経営学の教育システムを探求することです。このことは必然的に経営学研究の再定義と新しい拡大をもたらすはずです。

 

たとえば、つぎの事実を説明する経営学のテキストがあるでしょうか。
「情報の収集は容易になっているのに、状況判断や意志決定は一層困難になっている」

 

経営学教育において、認識にかかわる私たちの局所性に注目することが今後極めて大切になってきます。ICTの発達は経営学だけでなく教育研究や社会活動のための中心的課題が、情報を収集・発信することではなく、さらにその先にあることを求めています。

 

twitterやSNSの日常的利用は従来のニュースシステムよりもその伝搬速度と関心度において個人の意志決定において圧倒的な影響力を持ちます。一方で、私たちが触れ得る情報はICTの進歩によって爆発的に拡大しているとしても、世界を駆け巡るわずかな断片でしかないことは昔から何ら変わるところはありません。ただし、世界に伝搬する速度がほぼリアルタイムに近づくようになると、私たちとは(遠く)全く無関係な世界の情報が瞬く間に私たち自身の問題として迫ってくるという点が従来の世界の在り方と違うのです。例えば、市場や社会で生じたニュースが秒単位・リアルタイムで伝わる今日では、週・数日・日単位かけて伝わった時代に存在した伝搬過程でなされていた取捨選択による不要末節情報の減衰がほとんどありません。虚実がすべて我々に押し寄せてくるのです。その結果、状況判断のために更なる情報を必要とし、そうしている間に世界はすでに別な局面に変化してしまっていることが少なくありません。このようにして今日では状況把握はむしろ困難になっているのです。

 

この例が示すように、私たちの認識では局所性を避けることは困難で、特に今日では世界全体の認識に至ることは希であるという事実に向き合うことが非常に大切です。当たり前のことですが、私たちは自分たちに直接関係することだけしか知り得ません。知人関係がその代表的な例です。75億人以上の全世界の人々は6次の隔たりでつながっているというのに、私たち各人は自分の知人関係を把握しているに過ぎず、世界の知人関係全体を知ることは誰にもできないという事実は重大な意味を示唆しています。いままで全体を俯瞰できなかった込み入った関係情報を(コンピュータなどを使って)収集し、コンピュータを使った莫大な計算によって関係性全体を研究対象とする複雑ネットワーク科学(science of complex networks)が1990年代後半から急速に発達してきました。今日の課題である情報収集のその先にあるものとして、非自明な関係構造を抽出する1つのアプローチとして複雑ネットワークの方法は経営情報分析に刷新をもたらすはずで、経営学の全体性を失ってはならない初期教育において特に効果的であると考えられます。

 

私たちの認識の局所性は論理的な認識にも見られます。「AならばBである」(A⇒B)という論理を活用することはたやすいのです。しかし、三段論法の帰結、A⇒BとB⇒CからA⇒Cを論理として認識していても、A,B,Cの知識から実際に活用することは容易ではありません。ましてや、A⇒B,B⇒C,…, X⇒Y,Y⇒Zを論理として知ってA⇒Zを理解しさらにこれを活用することは極めて難しいのです。「風が吹けば桶屋が儲かる」は単純な直線論理ですが、三段以上になると運用や活用は事実上不可能なのです。ある課題に対する問題解決のためのアプローチは複数あり、しかもそれらは互いに矛盾方法論である場合が少なくありません。私たちの心に浮かぶ思念全体は既に複雑ネットワークをなしており、これをエスキス(esquisse)として視覚化し、さらにそこに構造を発見することは自己認識には欠かせません。問題解決のための適切なエスキスの描画は他者に対する分かりやすく説得的なプレゼンテーションとなります。経営課題がその本質において持つ多面性を理解し、マネージメントに向けた複数のシナリオを構築するための能力開発と自己認識との関連にかかせないでしょう。

 

経営学教育の再定義を研究するこのプロジェクトでは、経営学のための複数の体系シナリオを想定して経営学における先端的課題を含みながらも分かりやすく簡素な教育過程の提示を目指しています。