多文化共生研究

2024.03.30

100周年記念シンポジウム≪ジェンダーと身体――「帝国」を再考する≫を開催しました。

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 2月17日にイギリスのケンブリッジ大学と台湾の高雄師範大学からゲストスピーカーを迎え、国際学術シンポジウム「100周年記念シンポジウム≪ジェンダーと身体――「帝国」を再考する≫」が開催された。これは2021年に100周年記念企画として結成された学部横断的な研究プロジェクトの一環である。会場となった大東文化会館とZOOMには、国内外から60名あまりが参加した。

 

開会・学長挨拶

司会:法学部法律学科 吉永圭 氏
学長挨拶:高橋進 学長

 

 司会を務める吉永圭氏による開会ののち、挨拶に立った高橋進学長は、「この100年を振り返り、歴史的な発展のなかで正しく歴史を把握し、その歴史のなかで次の100年を作り上げるうえで、それを考えていく機会になる」、とシンポジウムの意義を語った。

 

趣旨説明

社会学部社会学科 山口みどり 氏

 

 続いて山口みどり氏が、本シンポジウムの趣旨説明を行った。山口氏は、本シンポジウムが昨年の≪シンポジウム1≫に続き、ジェンダーの視角から「帝国」を再考するものであることに言及し、これは建学の歴史的文脈を踏まえたものであると同時に、現代社会においても、「帝国」的な覇権の存在がさまざまな形で問題となっているためでもあることを強調した。また、同プロジェクトは、2021年に「大東文化大学100周年記念若手奨励賞」の選考も行っており、シンポジウム2においては、若手賞受賞者である春日芳美氏の研究をもうひとつの柱として「身体」に焦点を当てたとした。

 

第1部

 第1部の2つの報告は、大東文化学院創設前後の日本帝国を舞台とし、近代日本とその植民地であった台湾の事例から、旧来の習慣と近代教育との間に起こった価値観の対立、特に「体育」導入に影響された「女性の美」に関する意識の変化を論じるものであった。

【第1報告】
スポーツ・健康科学部スポーツ科学科 春日芳美 氏
「健康的であることは美しいか? ―明治期日本の体操とスポーツ」

 第一報告は、明治期に日本の学校教育に取り入れられた「体操」が、日本人の身体改善を図る手段として期待された半面、女子教育においては、まさにその「改善」が当時の作法や価値観に照らして女学生の「美しさ」を奪い、女性の「徳目」を損なうと捉えられてしまったジレンマに注目するものであった。当時のはやりは夢二の美人画にみられるはかなげな女性であり、「強い母」や男性の代替労働に耐えうる健康な女性「衛生美人」を求める半官半民の運動は広まらなかった。「衛生美人」は「不美人」をあらわす隠語となってしまったという。知識人が提唱した「健康的な美人」像の普及には時間がかかったことが、さまざまな史料を基に説得的に論じられた。

【第2報告】
高雄師範大学 金湘斌 氏

「日本植民統治前期の台湾における学校女子体育の変容」

 これに対し、ゲストスピーカーのひとり金湘斌氏は、日本による植民地統治の初期における女子体育の導入と発展を、中国の風習である纏足の廃止に向けた努力との関係から議論した。纏足は台湾における女子体育の導入にとって足かせとなっていた。金氏は、植民地学校教員たちによって女生徒たちの足の状態に応じた遊戯・体操の方法が模索され、纏足問題が徐々に克服されていった様子を貴重な一次史料を用いて説明した。「解纏足」運動と相まって、台湾人女生徒は次第に遊戯、体操、スポーツ競技に参加できるようになった。金氏は、この展開を台湾人女性の身体解放と捉えると同時に、台湾人女性たちが植民統治者の求める「帝国」の新女性像に当てはめられるようになったと指摘した。

【コメント・討論】
コメンテーター:山口みどり 氏

 山口氏によるコメントは、イギリスでもやはり帝国主義期に女子学校教育に体育教育が導入されたとし、「日本」の帝国主義が双方の地域で「帝国の身体」の規律化・再編成に与えた影響を、より多面的に抉り出す質問を投げかけるものであった。その後フロアも加わって、「文明化」とジェンダー観の関わりや、古い価値観を克服する難しさを中心に様々な議論が行われた。

 

第2部

 第2部においては、現代(20世紀後半から21世紀)に時間軸が移り、「帝国」に翻弄され続けた東ティモールと、旧帝国に「第三世界」から集まった女性たちによるフェミニズムが論じられた。

【第3報告】
法学部政治学科 井上浩子 氏

「ネイション構築の中の女性:東ティモールにおけるDV禁止と堕胎禁止をめぐって」

 第3報告は、21世紀初めに独立した東ティモールにおいて法制化されたDV禁止と堕胎禁止をめぐる議論をとり上げた。東ティモールのジェンダー秩序、その中での女性の身体の位置づけに関わるこの議論は、「東ティモール文化」とは何か、「東ティモール人」とは誰なのかといった本質的な問題と密接に結びつくものであり、それゆえ現地の女性運動、政治指導者、インドネシア支配下で影響力を増したカトリック教会だけでなく、「慈悲深い帝国」と呼ばれた国連機関や外国NGOを含む国際アクターのそれぞれにとって重要なものであった。井上氏は複雑に絡み合った各アクターの議論を丁寧に解きほぐし、背後に潜む理念・利害を浮かび上がらせた。

【第4報告】
ケンブリッジ大学 歴史学部 ルーシー・デラップ 氏

「20世紀後半イギリスにおけるポストコロニアル・フェミニズムとグローバルサウスの女性たち」

 最後に登壇したのは、もう一人のゲストスピーカーであるルーシー・デラップ氏であった。帝国解体後のイギリスには、さまざまな色の肌を持った移民が大挙した。デラップ氏の報告は、その後に繰り広げられるポストコロニアルなフェミニズムの複雑な姿を描き出すものであった。デラップ氏は1970~80年代にフェミニスト雑誌Spare Ribに参加したエチオピアとイラン出身のフェミニストに焦点を当て、さまざまな「ブラックネス」概念の展開と緊張関係、そして「第三世界の女性」という新たな概念が受け入れられた様子を考察した。「第三世界の女性」という新たな概念は、ポストコロニアル世界の地政学的な境界を行き来していた女性活動家たちにとって、重要な意味をもつものであったのだ。デラップ氏は「私たちの課題は、第三世界の女性として語る声を、敬意をもって歴史化し、それらを黒白に整理されたパターンに当てはめることを避け、ポストコロニアル・フェミニズムが何を目指すのかについて、豊かで柔軟な感覚を持つことである」と報告を結んだ。

【コメント・討論】
コメンテーター:東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所 後藤絵美 氏

 こののち、エジプトを中心にイスラームの文化圏を研究している後藤絵美氏が、エジプトでのムスリム家族法の改正にまつわる議論を紹介しつつ、困難な状況のなかでジェンダー公正を進めるために何が必要なのかを問いかけた。会場も交えて活発な議論が展開され、議論は女性の「連帯」をめぐる問題に集約されていった。デラップ氏は、1970~80年代におけるフェミニストの経験から得た知見として、「連帯」に必要なのは「アイデンティティ」ではなく、「共通の経験や利害」だと述べ、ジェンダーやエスニシティ、性的嗜好を超えて誰もが連帯可能な共通の経験・利害として「身体の自律性」と「切迫した環境危機」の2点を挙げた。「ジェンダーと身体」をテーマとした本シンポジウムにふさわしいこの提言で、討論は締めくくられた。

 

​閉会

 司会の吉永氏による閉会の辞をもって、シンポジウムは終了した。

 

 

お問い合わせ先

大東文化大学 研究推進室

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