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国際関係学科国際文化学科

県立坂戸高校で押川典昭教授の出張講義が行われました【高大連携企画(1)】

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 6月16日、埼玉県立坂戸高等学校において、「サッカーW杯から読む現代世界」をテーマに、外国語科3年生による調査報告と押川典昭教授によるフォローアップ講義が行われました。折しも、2018 FIFA W杯ロシア・アジア二次予選の初戦(対シンガポール戦)の開催日でした(ちなみに、結果は、0対0の引き分けでした)。

 3年生には、5月下旬に、押川教授より「『サッカーW杯から読む現代世界』というテーマで話し合い、その成果を発表せよ」という課題が出されました。約3週間にわたって、福島純子先生の指導の下、6つのグループがそれぞれにリサーチを行い、テーマについての議論を深めてきました。手作りのフリップやパワーポイントを駆使したとてもわかりやすく、微笑ましいプレゼンテーションが展開されました。

 W杯の開催地の実態に着眼し、環境や経済、国民生活への影響について発表したグループ。「No to Racismキャンペーン」に注目し、選手の宣誓を英語と日本語で実演しながら「W杯はスポーツの魅力だけではなく、人間の絆を伝えるイベントでなければならない」と主張したグループ。2018年より導入される「人種差別監視員」を調べ、人種差別、性差別、民族差別について「自分たちが真剣に向き合い考えることが解決の糸口になる」と熱く訴えたグループがありました。
 W杯スタジアムのゴミ拾いを取り上げ、日本人であれば100パーセント賞賛される行動が、現地の人の批判を招いたことの意味について考え抜いたグループ。
 W杯の経済効果を調べ、W杯開催に潜む経済格差の構造を捉えたいくつかのグループがあります。「国民の半数が反対するW杯を開催しようとするのはなぜか」という視点から調査を行い、W杯の開催が、実は開催国における貧富の格差や失業率の悪化につながっていること、W杯で「経済効果を得た国は赤道の北にある国ばかりである」ことなどを発見し、W杯の開催は、必ずしも「南北問題」の解決に役立ってはいないことを指摘しました。
すべてのグループが、W杯=スポーツの祭典という表層を突き抜けて、国際経済や比較文化や差別の構造に鋭く切り込み、見事なプレゼンテーションに纏め上げてくれました。問題の発見、課題の設定、議論の構成、プレゼンテーション、いずれをとっても水準が高く、目を見張る場面も少なくありませんでした。今一度、グループごとに、3週間の体験を振り返り、今後の学習や進路に役立ててもらいたいと思います。

 後半は、押川典昭教授による講演です。世界地図や「虹の色」などを手がかりに、無意識のうちに陥っているエスノセントリズム(自民族=自文化中心主義)とその見方を相対化することの必要性が説かれました。
 W杯には「多様化と移民排斥」の視点から迫りました。人種主義(レイシズム)を封じ込めることはヨーロッパ・サッカーだけの課題ではない、他民族や多文化への寛容は、これから人口減社会に向い、外国人との共存を避けて通ることのできない日本人にとってこそ不可欠な態度であることが力説されました。

この授業に取り組んだ生徒からは、次のような感想が寄せられました。

●サッカーW杯といえば開催国はもちろん出場国など世界中で盛り上がる大きなイベントです。しかし、今回のプレゼンテーションを通して、テレビなど様々なメディアを通して得られるW杯に対する長所はわずかな破片であることを学びました。自らが受け身の状態ではなく、自発的に情報を集めてはじめて見えてくる多くの疑惑に目を向けることができ、今後の見方が変わりました。先生が、多様性を受け入れる寛容さを求められているとおっしゃっていたので、そのことについてもう一度考えてみようと思います。

●サッカーは現代世界の縮図、というお話をされていましたが、まさにそうだなと思いました。特に人種差別。ワールドカップにおいても、選手から選手に対する差別、サポーターから選手に対する差別など、スポーツにおいても、社会的背景が反映されるのだと思いました。そして、日本にも外国人選手はいます。多様性を受け入れる寛容さを身につけることが現代世界をよりよくする、私たちにできることだとわかりました。

指導にあたった福島純子先生より

 押川先生のご助言で、口出し手出しをせずに、見守るスタンスでいたため、不安もありましたが、無事に発表が終わったこと、そして、生徒たちの発表が意外とおもしろいものであったことにも、ささやかな手ごたえを感じております。改めて、このような機会を与えていただいたことに感謝している次第です。

押川典昭教授より

 サッカーは世界中に普及した、もっとも人気のあるスポーツで、W杯はひとびとを熱狂させます。それはたんなる娯楽ではなく、現在の世界を映しだす縮図です。今回の授業では、「サッカーW杯から読む現代世界」というテーマを出しましたが、坂戸高校のみなさんのプレゼンテーションは、現象をなぞるのではなく、W杯という地上最大のスポーツの祭典がもつ影の部分を含めて、よく掘り下げられたみごとなもので、私にとっても、新しい発見と驚きに満ちた発表でした。現在おこなわれている女子W杯、2018ロシア大会出場をかけたアジア予選を楽しみながら、サッカーという競技から見えてくる世界の今に、もっともっと関心をむけてほしいと思います。