Research

2022(令和4)年度の共同研究部会年間活動報告

東洋研究所は、開設以来推進してきた総合的共同研究のための研究部会を編成してきましたが、2022年度より、各班の年間活動報告をまとめ、その成果を公表することとします。

 東洋研究所共同研究部会による研究活動  2022年度年間活動報告

第1班 『中華人民共和国100年史研究-日中関係の今後を見据えて』(主任:岡﨑邦彦)

1.(年間活動)研究班研究会を4回開催した。報告者数6名(各回2人)、参加者数30余名。今年度の研究報告会の特徴は、中共中央党史和文献研究院が編纂した『中国共産党一百年大事記』などの中共党史研究によって新たな歴史事実が明らかになったこと、および歴史の改ざんとも言えるような記事内容が指摘されたことである。また報告では、長年にわたって調査、研究されていた、731部隊に関する歴史遺跡の報告、および満州における民間金融など日本の旧植民地統治に関する報告および出版が行われた。
さらに、これら研究報告の他に、中国現代史に関しては文革後期の『長征回憶録』について、地域経済に関しては「モンゴルの現状について」報告がなされた。


2.(出版物)柴田善雅著『日本帝国圏満州における民間金融』を11月にゆまに書房より刊行している。


3.この他、機関誌『東洋研究』への執筆。

第2班 『類書文化研究-『藝文類聚』を中心にして-』 (主任:田中良明)

前年度に引き続き、主任以下10名およびオブザーバー1名の参加によって活動し、(1)巻53・54を読解、(2)通算33冊目となる巻51が刊行される。


(1)毎月一回の研究会を開催し、昨年度から引き続き巻53の読解を進め、10月からは巻54の読解に入った。なお、一昨年度よりコロナ下の影響により対面での研究会が開催できず、オンライン上でチャットアプリケーションを利用した研究会が開かれている。目下、ハイブリット方式の研究会を検討中。

 

(2)『藝文類聚(巻五十一)訓読附索引』の編集を行い、2月25日に発行した。本巻封爵部には、総載封爵・親戚封・功臣封・遜譲封・外戚封・婦󠄃人封・尊󠄄賢継絶封といった爵位の授与に関する文章が収められている。中国の伝統的な爵位制度は、その淵源を周王朝の五等爵に求められるため、『周官』を初めとした経書や、『史記』の周代(春秋戦国時代を含む)の記述が比較的多く引用されている。また、爵位の授与に限らず、高位高官への叙任や恩典の下賜に対しては、三度辞退することが伝統的な謙譲の美徳である「礼」とされ、それらの文章は前巻まで続いた職官部の各官職の項目にも多く見ることができたが、本巻では遜譲封の一目が設けられている。

第3班 『アジア史のための欧文史料の研究』(主任:滝口明子)

2022年度はオンライン研究会を4回:6月、8月、9月、12月に開催した。研究会においては、各回一人の研究員が発表者となり、各自が現在最も関心を持って取り組んでいるテーマを選んで、問題提起を行う形で活発な議論が行われ、のちに論文化された。(『東洋研究 』224号、226号)テーマとしては、16世紀のポルトガルとインド、日本の関係を火器や兵力に注目しつつポルトガル語史料から読み解く。武道と日本文化、アイルランドにおける日本の絵馬、アジアとヨーロッパの酒茶論など。今後の共同研究の方向性(読むべきテキスト)についても検討。研究班員の専門領域や専攻言語・文化が一部重なりながらも多様であるために、各回とも非常に刺激的で生産的な学問的対話の場となった。

第4班 『唐・李鳳の『天文要録』の研究(訳注作業を中心として)』 (主任:小林春樹)

(研究活動)
本年度も、『天文要録』巻五「月占」の講読作業と、その成果として「『天文要録』の考察[四]」」の刊行を中心とした研究活動を行った。
そのさい、訳注という作業の特殊性と、現今のコロナ禍という現状に鑑みて、班員それぞれが在宅で訳業を行ったうえで、その成果を、あらかじめ作成された、いわばたたき台しての草稿と校合して正しい部分を取りこむ、という手順で作業を進めた。

 

(成果)
上記の「『天文要録』の考察[四]」を、2023年2月に刊行した。

第5班 『茶の湯と座の文芸』(主任:藏中しのぶ)

1, (年間活動) 研究班研究会を、基本的に月に一度開催した。院生、学部生も参加し、これに先立って、4つのグループ毎に、事前の勉強会を開催した。毎回、参加者数20余名、各回の詳細は別途報告した。
2, 水門の会神戸・東京合同例会 創立60周年記念 日仏伊共同国際シンポジウム「伝・賛と肖像の生成と出典・翻訳翻案のクロスメディア」2023年2月21日(火)・22日(水)・23日(木)パリ国際大学都市日本館(Zoom併用)、2023年3月7日(月)ナポリ東洋大学(Zoom併用)において、本研究班研究員の研究成果発表を行った。
3, 今年度の研究会では、『茶譜巻十三』の注釈研究を終了後、注釈原稿の再チェックをていねいにおこない、これと並行して、新たに『茶譜巻十四』の注釈研究を進めた。このことによって、研究会発表+補訂+原稿チェックという段階を定着することが可能となり、これまで不十分であった点が改善された。
4, コロナ禍以降、Zoomによる研究会が定着し、これによって、パリ支部のフレデリック・ジラール氏、高木ゆみ子氏によって、パリからの研究参加者が増加した。その成果は、2の国際シンポジウムで発表の予定である。
5, (出版物)『茶譜巻十三 注釈』2月25日刊行。
6, この他、機関誌『東洋研究』への執筆

第6班 『西アジア地域における社会と文化の伝統・交流・変容-イラン・アラブ・トルコ文化圏の越境-』(主任:吉村 武典)

1,(年間活動) 研究班研究会を5回開催した。報告者数合計9名、コメンテーター合計2名、参加者数合計110余名(平均約22名)。今年度の研究報告会では、班のメンバーの出版物の書評、イラン・アフガニスタンの農業と経済、西アジア地域の水利用をめぐる比較研究、西アジア地域における女性の諸相等を各回のテーマとして報告、討論を行った。このうち、西アジア地域の水利用をめぐる比較研究の報告をもととする特集号を『東洋研究』で企画した。
2,(出版物) 中村菜穂著『イラン立憲革命期の詩人たち 詩的言語の命運』を左右社より2022年6月に刊行している。
3,この他、機関誌『東洋研究』第227号において班メンバー4名により「西アジア地域をめぐる「水」の諸相」を特集したほか、個別の論文の執筆をおこなった。

第7班 『岡倉天心(覚三)にとっての「伝統と近代」』(主任:田辺 清)

今年度の「天心研究班」は依然、続くコロナ禍もあって、本格的な研究会は開催できなかったが、各研究者が岡倉天心や、その周辺を関連テーマにした著書、論文の上梓や研究会での発表が重なり充実した一年間だったといえる。内訳は研究発表二件、単著二冊(予定一冊を含む)、共編著一冊、単独論文十本(予定四本を含む)、単独書評一本となる。いずれも各研究者が「天心研究班」発足以来、探求してきた課題を深めたり、「東西比較」等の視点から再検討したりという内容で、それぞれのテーマの更なる進展が窺える。
2023年度より班代表に定年を控える田辺清に替わり宮瀧交二が就任する事で、より柔軟でフレッシュな研究班運営が期待されよう。

第8班 『南アジア社会における包摂と排除』 (主任:須田敏彦)

1.(年間活動) 当研究班では、10月に研究会をZoomおよび対面のハイブリッド形式で開催した。出席者は、7名であった。
南アジアをフィールドとする研究者からなる当班では、フィールド調査を行う研究員が多い。新型コロナウイルス感染症のため、南アジアでのフィールド調査が行えない状態が2020年から続いていたが、今年度、ようやく現地での調査を行うことが可能となった。10月の研究会では、夏休み中などにインドで現地調査を行った3人の研究員(石田研究員、篠田研究員、鈴木研究員)から、インド現代文学の作家、特定カーストの社会活動(コミュニティキッチン)、またダリトに対する残虐行為について現地調査を踏まえた報告がなされ、活発な議論が行われた。
また、片岡研究員からは、研究会開催時に翻訳中であったイギリス植民地時代の著名なムスリム詩人・政治家ムハンマド・イクバールの著「永遠の書」について、作品の意義と内容について詳細な報告がなされた。これについても多くの質問や議論がなされた。この書は、2022年12月に大同生命国際文化基金からアジアの現代文芸シリーズの一つとして出版され、電子書籍化もされている。


2. 研究成果物(刊行物等)
ムハンマド・イクバール著、片岡弘次訳『永遠の書』大同生命国際文化基金、2022年。

第10班 『インド洋が取り結ぶ東西交流の諸相に関する研究』(主任:栗山保之)

今年度は、5月、8月、12月の3回、オンラインによる研究会を開催した。各回のテーマと、その報告概要は、以下の通り。


①「13世紀のインド洋貿易品としての織物」(5月):13世紀のイエメン・ラスール朝が関わるインド洋貿易において、もっとも多く取り扱われていた織物について、同王朝が統治したアデン港税関において作成・利用された同港税関関連史料を解析することにより、とくに織物の種類・等級・税額などを検証した。この検証に対して、織物の表記や製造地に関わるアラビア語の解釈が不十分ではないかという指摘がなされた。
②「ハドラミー・サイイドの移民の歴史」(8月):南アラビアのハドラマウト地方出身者の移民の歴史が、ハブシー家とアイダルース家という同地方の二つの家系の事例をもとに詳細に論じられた。東アフリカから東南アジアに及ぶ、インド洋を挟んだ広大な移民の足跡が興味深い報告であった。報告のなかで紹介された史料の一つである伝記集の解説にとくに関心を寄せられていた。
③「ヒジャーズにおけるマリア・テレジア銀貨の流通」(12月):西アジアで広く流通していたマリア・テレジア銀貨に関して、とくにアラビア半島のヒジャーズ地方における流通を丹念に考察した。報告は、ヨーロッパと西アジアにまたがって流通したマリア・テレジア銀貨の鋳造やその変遷を丹念に追いつつ、主として旅行記などの文献史料に見いだされる同銀貨の動向を検討し、さらに古銭学的研究にも関心を向けており、大変に意欲的な報告であった。

 

上記の研究会全体を通じて、インド洋を中心として観察される人やモノの動きに関わる議論がなされた。併せて研究員の間において有用な情報(新出史料、研究動向、新刊本など)の交換がおこなわれた。