研究成果/Research
2024(令和6)年度の共同研究部会年間活動報告
東洋研究所は、開設以来推進してきた総合的共同研究のための研究部会を編成してきましたが、2022年度より、各班の年間活動報告をまとめ、その成果を公表することとします。
東洋研究所共同研究部会による研究活動 2024年度年間活動報告
第1班 『中華人民共和国100年史研究-日中関係の今後を見据えて』(主任:高田 茂臣)
1.共同研究班第1回研究会;8月3日(土)午後1時から3時まで、大東文化会館403研修室にて実施。参加者は10名。報告者は田中寛氏、報告テーマは「中国における李大釗研究―書籍・論文文献目録(1985-2004)から」であった。
なお、同日研究会後に第1班の2025年度研究活動計画について参加者において協議し、活動内容の提案と承認を得た。
2.共同研究班第2回研究会;12月21日(土)午後4時から6時まで、大東文化会館K302研修室にて実施。参加者は9名。報告者は柴田善雅氏、報告テーマは「日本占領下海南島の銀行業」であった。
3.共同研究班第3回研究会;3月15日(土)午後2時から5時半まで、大東文化会館K302研修室にて実施。参加者は6名。第1報告者は伊藤一彦氏、報告テーマは「中国と朝鮮半島 2024」、第2報告者は篠永宣孝氏、報告テーマは「コンドラチェフの波と中国経済の崩壊―経済理論・経済史的実証―」であった。
第2班 『類書文化研究-『藝文類聚』を中心にして-』 (主任:田中 良明)
前年度に引き続き、主任以下10名およびオブザーバー1名の参加によって活動し、(1)巻55・56を読解、(2)通算35冊目となる巻53を刊行する。
(1)毎月1回の研究会を開催し、昨年度から引き続き巻55の読解を進め、10月からは巻56の読解に入った。なお、昨年度1月よりハイブリット方式の研究会を開催している。
(2)『藝文類聚(巻五十三)訓読附索引』の編集を行い、2月中に刊行予定。本巻治政部下には、錫命・薦挙・奉使の三項目に、それぞれに関連する文章が「事」(事実)と「文」(詩文)に分けて収められている。錫命は、天子から有力諸侯へ特権を賜与する下命を指し、時には天子のみが使用する車馬・衣服などを賜与する九錫が行われ、歴史的には王莽以来、王朝革命で有る禅譲の前段階の儀礼として行われることが多い。本書の錫命の項は、漢魏・晋宋・宋斉革命時の九錫の賜与に関わる策命文や譲表などの「文」を載せているが、その前に『周礼』『韓詩外伝』『尚書』など、錫命の典拠となる経典類を収録し、史書は『後漢書』と『晋中興書』を一度ずつ引くのみである。『芸文類聚』は、「事」と「文」を並記することを従来の類書と異なる大きな特徴とするが、その分類上は『周礼』などの経書と『後漢書』などの史書はともに「事」とされている。上記の錫命の項における収録資料の偏り(史書の少なさ)は、同じ「事」の中でも錫命の典拠(経典)と九錫の賜与の具体例(史書)との扱いの間に、差があることを示し、後者についてはさらに、九錫の賜与に至るまでの天子と有力諸侯の間に応酬される「文」にこそ重きを置いていることを見ることができる。『芸文類聚』がその手の「文」を作成する参考書として編纂されたらしきこと(序に見える)を踏まえれば当然のこととも思われるが、一例として付記しておく。
第3班 『アジア史のための欧文史料研究』 (主任:滝口 明子)
第4班 『唐・李鳳の『天文要録』の研究(訳注作業を中心として)』 (主任:田中 良明)
今年度は、(1)『天文要録』巻5「月占」の後半部分の訳注原稿の整理を行うとともに、(2)次巻の巻10「辰星占」読解の準備を行っている。
(1)については、田中を中心として作業を進めている。原稿整理という作業の特殊性から、メールによる共有を続けていたが、作業が一定段階に至ったため1月よりオンラインの研究会を開催し、検討を重ねている。刊行は再来年度を予定している。
(2)については、髙橋を中心として、引き続きテキストの翻刻と濱氏の遺稿の整理を進めている。こちらについては、上記(1)の作業が一段落した後、班員と共有、検討していく。
次年度以降、ハイブリッド方式による研究会もの開催も予定している。
第5班 『茶の湯と座の文芸』 (主任:藏中 しのぶ)
第6班 『西アジア地域における社会と文化の伝統・交流・変容-イラン・アラブ・トルコ文化圏の越境-』 (主任:栗山 保之)
第7班 『岡倉天心(覚三)にとっての「伝統と近代」』 (主任:宮瀧 交二)
今年度は、2026年度から始まる3年計画としての書籍刊行プログラムの助走期間と位置付けており、各研究員が2026年度からの個人研究を見据えての、自身の研究テーマの研鑽に務めた。
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①研究会の開催
2024年度は、上半期に1回(諸般の事情から11月に開催)、下半期に1回(3月開催予定)の開催となった。前期は、当研究班の岡倉登志研究員の新刊書である『岡倉天心『茶の本』 の世界』(ちくま新書)の書評会を開催し、各研究員が分担してリポーターとなり、活発な議論が交わされた。残念なことに、この書評会は録音の準備をせずに開催してしまったため、この活発かつ重要な議論を公開する機会を失ってしまった。もし仮に録音していたならば、本研究所の『東洋研究』等で公開し、諸賢からの御意見も賜ることが出来たのではないかと反省している。
下半期は、3月に外部講師を招聘しての研究会を実施予定である。
②講演・執筆活動
当研究班では岡倉天心とその周辺に関する長い研究歴を有する3人の本学名誉教授が研究員として活躍されており、他の若手研究員も含め、年間を通じて、かなりの数の講演活動・原稿執筆活動が活発に行われている。もちろんこのような講演活動・原稿執筆活動のベースには、積年の当研究班の活動がることは言うまでもない。今後も、当研究班の活動の公開という1次的な目的のみならず、東洋研究所、ひいては大東文化大学の存在を広く社会にアピールするためにも、こうした講演活動・原稿執筆活動を強化していきたいと考えている。
第8班 『南アジア社会における包摂と排除』 (主任:鈴木 真弥)
第9班 『明清の文言小説と文人たち-張潮『虞初新志』訳注-』 (主任:小塚 由博)
今年度は、オンラインにて4~7月、9月、11月の6回研究会を開催し(3月も1回開催予定)、各担当者が『虞初新志』巻六の各作品について訓読・現代日本語訳・注釈等を発表し、研究班のメンバーで検討を加えた。検討した作品は以下の通り。
①宋曹「鬼孝子傳」(巻六)―死んだ幽霊の男が、母のために孝行する物語
②戴榕「黃履莊小傳」(巻六)―発明家の黄履荘の伝記と彼が制作した数々の発明品に関する物語
各話は作者も異なり内容も全く多岐にわたるため、各担当者がそれに合わせて工夫を凝らしながら訓訳を発表している。それに対して専門が異なる参加者たちより自身の見地から様々な意見や情報を寄せられ、それを参考にしながらより良い原稿作りに励んでいる。
6月以降は、2025年度2月に刊行(予定)の『『虞初新志』訳注② 巻四~巻六』の編集作業や最終チェックを行った。
11月に三社見積もりを経て12月に原稿を入校し、校正作業に入った。
2月21日に無事刊行された。
3/30の研究会において次年度以降の刊行計画(訳注③・2028年2月刊行予定)について検討し、『虞初新志』巻七「書戚三郎事」の内容に入った。
第10班 『インド洋が取り結ぶ東西交流の諸相に関する研究』 (主任:栗山 保之)
今年度は、6月、9月、2月にオンライン及び対面で研究会を開催した。
第1回:6月7日(金)19時~21時、オンライン 栗山保之「ラスール朝アデン港税関取扱貿易品名にみえる地名表記について」
第2回:9月6日(金)19時~21時、オンライン 新井和広(慶応義塾大学)「ハドラミーの知識伝達ネットワークの可視化を試みる:マナーキブ『結婚の冠』から」
第3回:2月28日(金)15時~17時、東洋文庫7階第3会議室 土肥祐子(東洋文庫)「宋代の海外貿易―輸入品の特色、乳香をめぐって-」
第11班 『集中・収縮・生成:21世紀中国の構造変動マッピングの基礎的研究』 (主任:鈴木 隆)
今年度は、本文執筆時点(2025年2月4日現在)までに、オンラインと対面の2つの形式で、計6回の研究会を開催した。オンライン研究会(計2回)では、文部科学省科学研究費補助金の申請にあたり、全体の研究テーマや研究分担者としての個別の役割、調書の文案をめぐる各種意見の提出と修正などについて議論した。
対面研究会(計4回)に関して、各回の研究報告のテーマとその概要は以下のとおり。
①「中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議の評価」(8月):20期3中全会で採択された決議文書を事例として、内容分析などに基づき、第3期習近平政権の政策決定の特徴とその変化を検討した。
②「中国の人口動態と資本蓄積」(9月):中国の経済成長の要因と今後の持続可能性について、資本蓄積や人口動態に着目して考察がなされた。併せて、将来における「第二の人口ボーナス」の実現困難が指摘された。
③「近年の三農政策と食糧供給力の強化」(11月):近年の中国農業の動向について、食糧生産の推移、2020年代のトウモロコシ輸入の拡大、飼料原料の多様化、海外調達の強化など基本的な特徴とその原因などについて多角的な分析がなされた。
④「香港ディアスポラの今」(12月):2020年の香港国家安全維持法施行後、香港から台湾に移住した知識人や表現者たちが台湾の言論空間でどのように活動しているかについて、興味深い観察報告がなされた。
今年度はほかに、2月末と3月にも研究会の開催を予定している。2月の報告テーマ・討論内容は、毛沢東思想の再考に関するものである。
第12班 『東アジアの術数研究―中国の天文思想を中心に』 (主任:髙橋 あやの)
新規研究班として、今年度より活動を開始した。4月から3月まで計10回、主にオンラインで研究会を開催した(4月は対面と併用)。今年度行った範囲は以下の通り。
①顔合わせ(4月):自己紹介ののち、研究計画・今後の活動について協議した。
②『宋書』志序の読解(5月):律暦志上冒頭の志序部分の訳注を読解・検討した。当該部分は、史書の歴史、『史記』八書にはじまる「志」の変遷について論じた上で、『宋書』の「志」の成立について述べる。
③『宋書』律暦志中の読解(6〜3月):論暦部分と、景初暦の暦法部分を読解・検討した。論暦部分は太古の暦から始まり、『漢書』律暦志や『続漢書』律暦志の論暦部分にもとづく改暦の議論、魏晋を経て劉宋までの暦の変遷などがまとめられている。景初暦の暦法部分は、「元法」や「紀法」などの定数、日蝕、二十四節気などの計算法が並ぶ。難解な内容も多いが、一つ一つ確認しながら検討を進めている。