大東文化大学は2023年9月20日に創立100周年を迎えます。
創立95周年(2018年)から始まったこの「“道”研究」デジタルアーカイブスのプロジェクトですが、専門家たちが議論を重ね、いざ始動というタイミングでコロナ禍に。コロナ禍による様々な制約の中で、当初の予定と比べ、活動が難航したそうです。その中でもプロジェクトに携わる“キーマン”たちの熱い想いがあったからこそ、現在私たちはアーカイブスを利用して普段みることのできない貴重な資料を見ることができています。
今回はデジタルアーカイブスの鍵を握る吉田篤志教授(本学文学部中国文学科教授)に学生取材班がインタビューしました。
吉田教授は和かに、かつ真摯に学生取材班に対して、本プロジェクトの意義と役割を解説してくれました。
──まずは吉田教授が中国の周代の研究を学ぶきっかけがありましたら教えてください
高校のころから東洋史に興味があり、特に中国史を知る上で、漢文資料を本格的に学ばなければいけないと思い、大東文化大学の中国文学科で漢文や中国思想を学びました。そこで出会った恩師(池田末利/本学元学長)から中国古代思想の奥深さや面白さを学び、現在もその研究に専念しています。卒業後は教員として本学の学生にその奥深さや面白さを伝えています。
──学ぶから教える立場に、心境の変化はありましたか?
漢文は中国の昔の文献に記された文章ですから、日本人にとっては外国語でありかつ古い言語でもあります。したがって、漢文を正確に読み、内容を把握することはなかなか難しいことです。しかし、これを読み解き内容を理解した時の喜びと感動は、学生の時も教員になってからも変わりはありません。この喜びと感動を今の学生にも味わってもらいたいのです。ただ、現実には漢文をスラスラと読み、内容を容易に理解できる学生はあまりいません。4年間の学びの場で、できる限り漢文に親しみを覚えてもらえるよう、工夫を凝らしながら奮闘しています。
そもそも、なぜ外国の文字(漢字)や言語(漢文)を学ぶ必要があるのでしょうか。外国の歴史・文化や言語を学び修得することは、グローバルな時代において意味のあることです。しかしそれ以上に、中国の歴史や文化を学ぶことは意味があります。遣隋使・遣唐使以前から漢字文化は日本に伝来され、日本語の70パーセントが漢語から構成されています。また明治時代以前の文化や制度はほぼ中国から伝来し、日本人によってアレンジされ、日本の文化(物質的精神的)の中に溶け込んでおり、いわば日本人のアイデンティティと言えるかもしれません。中国の歴史や文化を学ぶ意義をしっかり授業で話しています。
今の学生はインターネット世代ですから、わからない事柄はすぐに調べ理解することができます。ではスマートフォンがなかった場合に自分の頭の中から知識を引き出して活かせるのでしょうか。自身で修得してこそ本当の知識や教養を身に着けたと言えますから、しっかりと身につけてもらうためにも、学びの場で切磋琢磨し(学生対学生・学生対教員)、悔いなく過ごしてもらいたいのです。
「道」について解説する吉田教授
──今回のプロジェクトタイトルに「道」が選ばれたきっかけを教えてください
漢学(東洋的思想)や書道(東洋的芸術)は思想と芸術の違いはあっても、人間の営為からなる道の追求であり、換言すれば、人としての在り方・生き方を表していると言ってもよいかもしれません。これを一字に集約すると「道」ということになり、このプロジェクトのテーマとして「東洋人の“道(ヒューマニティー)”」というタイトルになりました。
書道・柔道・剣道・茶道・華道など全てに「道」がつきますが、これらの「道」には精神性や思想が込められていて、ただ字を書いたり、相手を負かしたり、お茶を飲んだり、花を生けたりするだけではなく、そこには書くことの意味や勝負することの意味、あるいは茶をたてることの意味や花を生けることの意味が込められ、その中に精神性や思想が見いだせるのであり、それを「道」という字に表しているわけです。
──“道”を揮毫した今井凌雪先生の作品「道」を見た時にどう感じましたか?
書道に関してあまり詳しくありませんが、近頃は、見れば見るほど味がある字だと思っており、今ではたいへん気に入っています!!
──デジタルアーカイブスで見ることができる書籍はどのくらい貴重なものがありますか?
戦前、大東文化大学の図書館に所蔵されていた漢籍の中には貴重なものが多くあったと聞いておりますが、戦時中に焼けてしまった書籍も多いようです。空襲を避けてわざわざ避難させたところに焼夷弾が落ちて焼失してしまった、というエピソードを年配の先生に聞いたことがあります。また学生の時に図書館の書庫で漢籍の端が焼け焦げた跡が残っているものを見たこともありました。大東文化大学の図書館には国宝級のものはありませんが、明代後期から清代末までの貴重な漢籍や日本で書き写されたり出版されたりした書籍(写本・版本)を所蔵しており、これらの貴重な書籍をデジタルアーカイブスで見ることができるのは大きな価値があります。
貴重な漢籍を所蔵している機関は多くありますが、研究者や専門家の紹介がないと容易に閲覧できません。しかし近年デジタル化して公開している機関が増えてきたことは歓迎すべきことです。大東文化大学図書館所蔵の漢籍がデジタルアーカイブスとして一般公開され、インターネットを利用して誰でも見ることができるのは、教育・研究の場で平等の機会が提供されることになります。これは大変意義のあることと思っています。
前回に引き続き、「“道”研究」デジタルアーカイブスについて紹介してきました。
貴重な漢籍や書跡がどんなものか見てみたくなりませんか?
是非皆さんも素晴らしく貴重な作品が無償で見ることができる大東文化大学の持ち運べる博物館“デジタルアーカイブス”をぜひご覧ください!
プロフィール:大東文化大学・中国文学科教授。研究分野は中国思想史(主に周代の思想を研究)。大東文化大学の卒業生でもある。
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※本記事は100周年記念プロジェクトを学生が取材、発信していく「学生取材企画」によるものです。