2024年6月29 日
教職課程センター主催の教員養成コロキアムが板橋校舎多目的ホールにて開催されました。
”コロキアム”とは、ラテン語のコル(一緒に)とロキアム(話す)に語源を持つ単語で、「人と人との対話を大切にする学びの場」のことです。
教職を目指す学生や教育関係者の教養を深めることを目的に、市民公開講座という形式で毎年実施され、教職課程センター発足の2016年から数えて、秋のキャリア系コロキアムを入れると今回で通算16回目となります。
今回は「子どもたちにとって学ぶとはなにか:エスニックマイノリティ・民族教育の現場から」をテーマに埼玉朝鮮初中級学校の鄭勇銖(チョン・ヨンス) 校長を講師にお招きし、ご講演のあとに学生参加のパネルディスカッションを行いました。
オープニングは、榎本いずみ実行委員長の趣旨説明に続き、高橋進学長から「本学の掲げる多文化共生について大いに学びましょう」と挨拶がありました。
小出高義教職課程センター所長の講師紹介の後、鄭勇銖さんの講演が行われました。
講演は「在日コリアンってどんな人たち、朝鮮学校はどんなところ、いま起きていること」という三つの柱にそって展開されました。歴史的背景や子どもたちの様子などのスライド写真などを交えながら、具体的で分かりやすいお話でした。話を聞きながら、熱心にメモをとったり、うなずきながら聞く学生・先生方が多く深い学びの場となりました。
後半のパネルディスカッションは、学生を代表して、山本貴太さん、神山楓大さん、榎本いずみさんの3人が登壇。渡辺雅之センター教員をコーディネーターとして前半の講演を受けて深掘りするトークセッションが行われました。
朝鮮学校に対する差別の事例やヘイトスピーチ問題にも話しは広がり、今の日本社会の現状が共有されていきました。会場からも、朝鮮学校で"反日教育"が行われているという懸念に関する質問がありました。
鄭勇銖先生からは「"反日"でいうところの"日"とは何を指すのかが重要である。1945年8月15日以前と以降で区別して考える必要があり、私は戦後の日本国を悪く言ったり反対する教育は一切していない。政府に対して人権保障を求めてはいるが、日本人拉致問題や戦後補償の問題についても友好的観点から扱っている。ただ1945年8月15日以前に大日本帝国が行った植民地支配の歴史については事実として教えないといけない」という回答がありました。講演後の参加者アンケートには、この発言に気づきを与えられたというコメントが多く寄せられました。
最後に学生実行委員の岡部礼さんから謝辞が述べられ、盛況のうちにイベントは終了しました。
参加者アンケートの紹介
当イベントの参加者は、本学の学生を中心に他大学の学生や教員、本学教職員、市民を含めて約170名。アンケートでは沢山の感想が寄せられましたが、その一部を紹介します。
- 朝鮮にルーツを持つ子どもたちが行政からの差別を受けているという言葉が印象的だった。朝鮮学校で学ぶ子どもたちは、自分たちの国について学ぶために、朝鮮学校への道を進んだだけなのに、そのような扱いを受けている現状にやるせなさを感じた。日本に住む子どもたちがよりよく暮らせるための仕組みづくりのために、自分にもできることはないか探してみようと思った。
- 国内に日本の学校と朝鮮学校がある中で、在日朝鮮人や韓国人の子どもたちが朝鮮学校を選ぶのは、朝鮮の文化など、ここでしか学べないという思いから朝鮮学校で学ぼうとしていることが一番印象に残った。在日朝鮮人、韓国人の歴史や現在置かれている状況を知ることができたので理解を深めることができた。
- 朝鮮学校が高校の教育費無償化の対象外であることが1番印象に残った。同じ地域に立地していて同じ教育を受けているのに朝鮮学校だからという理由で排除するのはおかしい。また、朝鮮学校では、給食がなかったり、常勤の保健室の先生がいなかったり普段私たちが当たり前にあるものがないことに驚いた。
- 歴史的背景は知っていてもそこで生きている当事者の方々の置かれている状況はあまり知られていなかったり、理解されていなかったりするものなので、今回の講演は非常に学びや気付きになったと思う。明確に線引き、差別といえるものがあるというご指摘については、私たちにできることを改めて考えてみたいなと感じた。
- 朝鮮学校について、全く知らなかったところから知ることができ、興味を持つことが出来た。マスクの話がとても刺さり、どうにかしたいと思えた。日本人との差を生み出しているのは行政の方で学校に通う日本や朝鮮人の子どもたちは分け隔てなく交流していることが非常に印象に残りました。
- 日本で生まれて日本で育って学んでいるのに、差別されている。給食がない、プールがない、お金も補助されない、けど私は今日話を聞くまでこの現状を知らなかった。このことをもっと色々な人が知り、問題だと感じる人が増えていけばこの状況も少しづつ変わるのかなとも感じた。
- 朝鮮学校が存在していることは知っていても、その実態は今回初めて知りました。近年のニュースで「朝鮮」という言葉に日本人は敏感になっているように思います。自分自身も、その中身が分からないままに何となく遠ざけているような気持ちがどこかにあったようにも思います。誰でも差別はいけないことだと口では言っていても、平和で戦争と無縁、宗教も民族にも疎い日本人は、その認識が曖昧なのかもしれないと感じました。特に「反日の日をあえて言うならば大日本帝国」という言葉にはなるほどと感じました。ここを間違って受け取っていたり、間違って認識している人は多いかと思います。この認識の線引きを出来るようになっていくためには、長い目で見据えて、知ったことを知ったままにしないこと、地道に伝えていくことが必要だと感じました。
- 実際の校長先生からお話を聞けたことが印象的で、自分の知識不足でお恥ずかしいですが、まず日本語を話されることに驚きました。また、朝鮮人学校がなぜ交流をたくさん行っているのか疑問でしたが、歴史的な背景や行政の線引きによる財政的な問題があると知ることができました。自分は朝鮮人学校のことをほとんど知らなかったため、ネットで差別的な発言をしている人を見かけることでしか存在を認識していませんでした。しかし、今回のコロキアムを通して知らないことによる無意識の差別に気づき深く反省しました。朝鮮人学校は、アイデンティティを大切にしたり積極的に外と交流する活動があったりして、楽しそうだし思いやりのある優しい生徒が育ちそうだと感じました。教壇に立つ際にこんな学校だったらいいなと思い、殺伐とした学校になってしまうのはなぜなのかと教育を考えるきっかけにもなりました。
- 校長先生が仰っていた、子ども達がお互い手を取り合えるようになって欲しいという願いのメッセージが最も印象に残りました。
- 鄭校長先生のお話は、本当に理論が通っていて、事柄の理解を深めてくれるものでした。人選とともに、学生が前面に出てくる運営もとても素晴らしく、今までの教養イベントの中でも最高のものだったと思います。学生は、語りづらいなかで、一生懸命言葉を探しながら、話していて、それ自体が立派だったと思います。
実行委員一覧(順不同)
加納 步美(中国文学科3年)
山本 貴太(歴史文化学科3年)
濱野 美晴(日本文学科3年)
福地 香月(政治学科3年)
榎本 いずみ(日本文学科3年)
神山 楓大(英語学科3年)
小野 隼渡(歴史文化学科3年)
岡部 礼(英米文学科3年)
松崎 染乃(日本文学科3年)