6月23日(火)に大東文化大学東松山キャンパス60周年記念講堂において、2026年度の文学部歴史文化学科の春季大会が行われました。開会挨拶として歴史文化学科主任の久住真也教授の挨拶の後、第1部として2年生の石原結衣さん・大林楓さん・梶田馨生さん・西巻義生さん・古屋尚紀さんによる「戦国期の女性と印判-大黒天印のもつ意味を探る-」という発表がありました。
この発表は、1年次の「歴史文化学入門B」の授業の一環として、学生達が自らテーマを設定し調査研究を行ったもので、統一テーマ「文字と文房具」の中から、「印判(ハンコ)」を研究対象とし、現代において廃れつつある「印判(ハンコ)文化」が中世ではどのような役割を担ってきたのかを、里見氏の大国天印を通して探究した成果でした。
里見氏は、房総半島を支配した武士の一族ですが、第6代当主里見義弘と正室の間に後継ぎが誕生せず、義弘の弟である義頼を養子として迎え入れました。その後義弘は、古河公方の足利晴氏の娘を妻に迎え、二人の間に梅王丸(後の義重)が誕生したため、梅王丸と義頼の間で後継ぎをめぐる争いが勃発してしまいました。
梅王丸の母は、古河公方足利氏出身で高い家格を持つ人物であり、梅王丸の後見人の立場として重要な立場にありました。また、家政の実務を担い、短期間とはいえ女性でありながら当主に比する存在でした。この梅王丸の母が使用した印判の形式のルーツは古河足利氏だと考えられ、印判の上部には大黒天が描かれていました。
梅王丸の母の立場を考えると、大黒天印は単なる信仰のための印判ではなく、子の成長や家の繁栄を願う母としての思いと、里見家を守ろうとする立場の両方を象徴するものであり、大黒天印は、戦国時代の女性(母親)が家の存続を支える重要な役割を担っていたと考えられ、戦国時代の女性(母親)が家を守り、次の世代へと繋いでいく重要な役割を担っていたことを表す史料であるとともに、梅王丸の母が、子の成長と里見家の存続を願い、その責任を背負っていたことを表す象徴でもあったという内容でした。
次に第2部として、歴史文化学科の宮嶋祐一特任教授による「地理学的観点からみたウクライナ・ロシア戦争」という題で講演がありました。
ウクライナは、西部ガリツィア地方、首都キーウを中心とする中部、東部から南部にあたるドンバス地方からクリミア半島の3つの地域に大別されます。特に、西部と東部・南部は歴史的経緯、住民と特質、宗教が異なり、反ロシアの傾向が強い西部ガリツィア地方と親ロシア地域である東部・南部の対立が激しく、それが今回のロシアによるウクライナ侵攻の原因の一つとなりました。
また、今回の両国の紛争の第一弾となったのが、2014年のロシアによるクリミア併合でした。クリミアは黒海に面し不凍港であるセヴァストポリがある軍事上の要衝で、もともとはロシア領でロシア系住民が多数派でした。2013年にウクライナのユーロ・マイダン革命により新欧米政権が誕生したことにより、クリミアのロシア系住民を保護する名目でロシアがクリミアを一方的に併合しました。
さらに、プーチン大統領は、自身が記した論文の中で、「ロシア、ベラルーシ、ウクライナは一体である」とし、ロシアとウクライナは歴史的のみならず今日でも一体だと考えており、これがウクライナ侵攻の理論的支柱となっています。
プーチン大統領は、2020年に憲法を改定し、国外に居住するロシア人同胞の保護、支援、さらに国際法に対するロシア憲法の優先を決定し、今回の侵攻はウクライナにいるロシア人の保護のためであると正当化しています。
ウクライナとロシアの意見の乖離が大きく、両国の紛争は解決への糸口が見得ない状況である、という内容でした。
【学生の感想】
・去年、発表で聞いた時よりさらに良いものになっていて凄いと思った。
また、プリントが分かりやすくまとまっており、発表の手助けになっていて良いと思った。
内容はもちろんだが、学生の方々の話し方がハキハキ喋っているのに加え原稿ばかり見るのではなくこちら側も見ながら発表していたのが印象に残った。自分も発表する機会があった際は参考にしたいと思った。質疑応答の際も、答えられていることがほとんどで今日までの努力が垣間見れたように字感じた。
・今回の発表を通して、歴史的事象や国際情勢を多角的に捉える面白さを実感した。里見氏の印判に関する発表では、なぜ大黒天が選ばれたのかという疑問から、当時の女性の社会的地位や財産相続のあり方まで掘り下げており、自分が抱いていた「昔の女性には権力がなかった」という思い込みを見直すきっかけになった。ウクライナ・ロシア戦争に関する発表では、地理学的な視点を取り入れることで、エーゲ海の戦術的役割やロシア憲法と国際法の関係など、これまで気づかなかった側面を知ることができた。
・踏み入った内容から考察を広げ、現代へとリンクさせ、自身の考えを伝えるだけでなく、専門的知識を持たない我々にもわかりやすいような資料を作り、発表していたため、とても今後の参考になった。資料にない質問がされても的確に答えていて、抜かりなく調査されていることにとても驚いた。
・地理と歴史は密接に関係しており、一方を理解することで他方への理解も深まると思った。特に歴史上の出来事は、地理的条件によって大きく影響を受けてきたことがわかった。最後は時間の関係で急ぎ足になってしまったが、質疑応答での国境が接している国同士は争わず、どちらかが譲歩してでも歩み寄ることが大事という話はとても興味深かった。
・学生の発表は、テーマである「文字と文房具」からハンコに注目し、また、その中から印判に着目し、それを当時の女性が使用した印判の意味についてと発展させていて、とてもユニークで面白い発表であった。他の印判では、龍や鳥、鳳凰といった力強い動物が印判として使われていた中、なぜ大黒天印が使われたのか、里見氏の家柄やその背景、そして当時の時代情勢を踏まえながら、仮説を立て、ひとつずつ論証しており、とても説得力があり、聴いていて興味が湧くような発表であった。
講演は、ロシアによるウクライナとロシアの戦争を地理学的な観点から見るというテーマで、ウクライナ国内の地域的特徴や歴史的背景、プーチン大統領側からのウクライナに対する見方など様々な視点から説明されていて、とても分かりやすい講演であった。講演の内容について衝撃的だったのが、プーチン大統領が「歴史的一体性」を掲げて侵攻を正当化する背景には、国際法よりも国内法を優先させるように憲法を改定させた点であった。今、世界で起きている戦争に対して、日本では起きていないから関係ないで終わらせるのではなく、ウクライナがなぜここまでロシアに侵攻され、厳しい状況にいるのか、歴史や地理学的観点から、また時には宗教的観点や国家の特徴から読み解き、国際情勢を知ることはとても重要だと感じた。
・身近な文房具から現代の国際情勢まで、歴史を多角的に学ぶ面白さを感じました。
前半の学生報告では、里見氏の「大黒天印」というひとつの印判から戦国時代の女性の生き方を追って行く展開が面白くて、話に引き込まれました。当時の緊迫した家督争いや、外圧の中、子供や家を守ろうとした母親の切実な願いや覚悟が、印判の文様に込められていたという考察には非常に説得力があり、女性の家の運営における重要性を学びました。現代の「脱ハンコ」の流れとも対比しており、文房具という道具に込められた当時の人々のリアルな感情を読み解く楽しさを、深く理解することができ、とても面白い発表でした。
講演では、ウクライナ・ロシア戦争を地理的・歴史的観点からわかりやすく解説していただきました。ウクライナ国内の地域による多様化や、クリミア半島が持つ意味、そしてロシア側のプーチン大統領の歴史観やNATO東方拡大への危機感など、ニュースを見るだけではわからない複雑な情勢、背景を深く理解することができました。また、歴史的な経緯や、地理的な要因がいかに現代の衝突に直結しているか、深く考えさせられました。
