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英米文学科

2025年度春季英米文学科講演会が開催されました

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2025年6月5日(木)の15時30分から、東松山校舎60周年記念講堂にて、「2025年度春季英米文学科講演会」が開催されました。

 

講演者は、慶應義塾大学法学部教授の横山千晶先生で、題目は「Who made your clothes?―ヴィクトリア朝の廉価既製服業界と21世紀の私たち」でした。

横山先生は、人が日々絶対着なくてはならない衣服をテーマに、19世紀の「ファストファッション」とも言える既製服の登場、それを取り巻く産業、文化について論じつつ、現代社会の状況も分析し、ご講演くださいました。既製服を消費し、そのことを楽しむ「消費文化」のあり方を支える女性や子どもの苦汁労働、そしてその解決方法の模索についても当時の慈善団体、廉価既製服業者反対同盟を取り上げつつ、説明してくださいました。このような取り組みはありつつも、またそれは大きな意味を持ちつつも、19世紀の後半から20世紀の前半にかけて女性が自らで活動していくことでようやく事態は解決の方向へと動き出していきます。講演の最後に、横山先生は再度現代における衣服を取り巻く状況、社会の状況に言及されました。労働における問題、衣服の廃棄を巡る問題、様々に考えるべきことがここにはあります。横山先生は、こうした状況において「19世紀の議論に耳を傾け」ていくことの必要性を述べられました。

 

 

講演後の質疑応答の時間には、多数の学生から先生への質問がなされました。横山先生は一つ一つの質問に分かり易く丁寧にお答えくださり、またその場で答えることができない質問に関しても、後ほどメールにてお答えいただくなど、この講演会に真摯に向き合ってくださりました。

衣服産業を通して、19世紀と現代の状況を横断しつつ、その向き合うべき問題点を私たちに示してくださった横山千晶先生に、この場を借りて御礼申し上げます。

 

また講演会の開催にご協力くださった先生方や事務職員の方々、ボランティアとして講演会の運営にご協力いただいた学生の方々に、感謝申し上げます。

 

 

◎講演の際、「例えば「シャツの歌」をもとにした絵画(女性の労働に関わる絵画)を紹介されていましたが、子どもたちのことを描いた絵画はあるのでしょうか」という内容の質問がなされました。そのことについて講演後にその具体例を横山先生にメールにて教えていただきました。以下にその絵画の題名と横山先生の解説を掲載しますので是非調べてみてください。

ルーク・ファイルズ(Luke Fildes)の《Applicants for Admission to a Casual Ward(救貧院臨時宿泊所入所希望者たち)》1874年

ファイルズは貧困状態にある人々に強い共感を寄せています。《Homeless and Hungry》という絵画は構図を見ると《救貧院臨時宿泊所入所希望者たち》を違う角度から描いているとも言えます。

フォード・マドックス・ブラウン(Ford Madox Brown)の《Work(労働)》1863年および1865年

フォード・マドックス・ブラウン(Ford Madox Brown)の《Work(労働)》(1863年完成と1865年完成の2バージョンがあります)も探してみてください。この絵にも子どもたち描かれています。様々な階級の人々が描かれていますが、中央にかかれた浮浪児の子供たちの連れている犬(女の子の右手にいます)と、左側からその犬を見ている犬はおそらく壁際を歩く中流階級の女性のペットなのでしょう。犬同士が見つめ合っているところから、階級の交流がほのめかされています。実は左手の壁に貼られている広告の一枚は、講演でも話した「実業学校」の募集広告なのです。この絵を描いた画家のブラウンは、インテリアデザインの会社、「モリス商会」の初期のメンバーになるのですが、そこで、ロンドンのユーストン・ロードにあった実業学校から生徒たちを雇い入れています。犬を使って、中流階級の人たちが、浮浪児に手を差し伸べようとしていることが暗示されているのかもしれません。

ジョン・ブレット(John Brett)の《The Stonebreaker(石割り)》1858年

そして最後にご紹介するのは、ジョン・ブレットの絵です。その当時、大変な労働はたくさんありましたが、石割りも苦汁労働の一つでした。

ジョン・ブレット(John Brett)の描く《The Stonebreaker(石割り)》1858年 を見ると、男の子が辛そうに石を割っている姿が描かれています。美しい田舎の景色の裏で苦汁労働が行われている、その対比が鮮やかです。

 

※雑誌の挿絵などにはたくさん出てきますし、チャールズ・ディケンズの小説の挿絵(『オリバー・ツイスト』など)にも出てきます。