Class & Seminar report

英仏対照言語学

大月実ゼミ

初めて英語を習った時に、日本語とはとらえ方がずいぶん異なっていることを感じた経験が誰でもあるかと思います。実際、同じようなこと(事態)であっても、言語が異なるとそのとらえ方(把握)は、相当に違っています。

 

例えば、池田理代子作『ベルサイユのばら』の各国語版を見てみると、(王太子妃の落馬事件の場面で)「まずここでこのオスカル・フランソワの命をたってからにされるがよい!」という原文のセリフが、英訳では「私の命を今、取り去ってください!!!」、フランス語訳では、「あなたが取るべきは、私の命であって彼の命ではありません!」、ドイツ語訳では、「あなたは彼よりもむしろ私を死刑にすべきです!」、となっていて、そこには各国語の特質がよく現われていると言えます。さらに、言語は思考や行動ともある程度連動しています。2011年の福島原発事故という同じ事態に対する日本・英米・フランス・ドイツそれぞれの対応の違いも、言語と思考・行動の連関を示すたいへん興味深い事例でした。ユーモア、ウィット、エスプリといった「笑い」にも各言語の特質が現われています。

 

このゼミは、特に英語とフランス語による思考・行動にはどのような特徴があるのか、また同時に日本語による思考・行動とはいかに異なっているのかという問いに対して、具体的な事例を対照することで明らかにしていこうとするものです。大月(2010, 2013, 他)において導入された英独仏対照言語学の方法論を参照しつつ、学生自身の選択した作品(とその各国訳)の中の場面を取り上げて、その分析を行ないます。例えば、原典が日本語の作品であれば、その仏訳版と英訳版を、原典がフランス語である場合は、その英訳版と邦訳版というように、3つの言語の版を相互に対照することにより、それぞれの特性を浮き彫りにしていきます。

 

ゼミナールの中での発表と、それに対する論評を踏まえて、改訂を加えたものを最終的に小論文の形で纏めます。取り上げる「作品」としては、小説や詩歌、また近年はコミックや映画も人気があります。このゼミには、英仏コースの学生と第二外国語でフランス語を学んだ学生が参加していますが、今までに扱った作品には、以下のようなものがあります(原題のみ示します)。

 

« Le Petit Prince »、« Fleurs du mal »、« Les Aventures de Tintin »、« Beauty and the Beast »、« Star Wars Episode V »、« Harry Potter and the Philosopher’s Stone »、« The Lord of the Rings »、「NARUTO」、「ハウルの動く城」、「ワンピース」、「名探偵コナン」、「風の谷のナウシカ」、「千と千尋の神隠し」などなど。また、個別の作品ではなく、あるテーマの下に3言語を対照する場合もあります。<オノマトペ>(擬声語・擬態語・擬情語)、<女性に関することわざ>、<音楽用語>、などです。

 

このゼミが言語と思考・行動の連関性を理解する一助となれば幸いです。

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