Asia education

「企業と雇用A」・第3セッション(金融業界の魅力と将来性)報告

  • Facebookでシェア
  • LINEでシェア
  • Twitterでシェア

 「企業と雇用A」第3セッションでは「金融業界の魅力と将来性」について考えます。講師には、埼玉県産業労働部の鈴木啓太氏をお招きしました。鈴木先生は、現在、民間の金融機関から埼玉県に出向中で、産業労働政策課において企画調査役としてご活躍されています。

1時間目(6月10日)

 授業の冒頭、「金融入門」のテキストと見まがうばかりの資料が配付されました。初学者に配慮して、経済社会における金融の機能や銀行の仕組みが簡潔にまとめられています。言うまでもなく「金融業界」や「銀行の役割」に関する知識は、企業社会で働く学生にとって不可欠のリテラシーです。

 このテキストは「保存版」として、就職活動の準備や、あるいは、将来、企業の財務部門で働くことになった際にも、ぜひ役立てて欲しいものです。

 

金融とは?

 「お金は経済社会の血液」。お金の機能(価値の保存機能、決裁機能、価値の尺度機能)を前提とした鈴木先生の「マネー・フロー(資金循環)」の説明により、お馴染みのフレーズの意味が明快になりました。

 銀行の役割を一言でいえば「間接金融」。三つの経済主体(個人・企業・国や自治体など公共活動の担い手)を「貯蓄と投資」を通じて橋渡しすることです。「金融」という言葉が「資金の融通」の略であることをはじめて知った学生も少なくなかったのでは?

銀行の業務と拡大する役割

 お金が「血液」だとすれば、銀行は「心臓のような存在」。「銀行の基本3業務(預金・貸出・為替)」「金融機関としての役割」「企業の社会的責任」の三つの観点から、銀行の役割が具体的に説明されました。

 グローバル化や規制緩和により社会経済環境が大きく変わる中で、銀行には「積極的な情報開示」「環境への配慮」「社会活動への関与」などがもとめられるようになった。その結果、従来の「金融業」から、顧客の満足度により存在価値が認められる「金融サービス業」へと業務と役割が拡大してきているとも。

 サービス的な機能として、自治体の企業誘致への協力、学校などにおける金融教育、産学連携のための「情報発信」、地域の人的資源の有効活用(人的資源循環)、社会福祉や震災被災地支援事業等が取り上げられました。

 

銀行の組織

 ほとんどの学生が、銀行といえば、駅前などにある「○○銀行○○支店」を想起するでしょう。銀行業務を遂行するために、銀行には、預金・融資・為替の業務を行う営業店のほか、営業戦略や新商品の開発、人材育成を担う「本部」、営業店に代わって大量の事務処理を担当する「事務センター」があります。

 授業では、営業店に着眼し、「営業課」「融資・外為課」「渉外課」という3つの担当部署とそれぞれの仕事内容に関する説明がありました。さらに、銀行の仕事をイメージしやすくするために、営業店の渉外課に勤務する社員の「起床から就寝までの一日の動き」が例示されました。

金融業に向く人・向かない人

 学生にとってもっとも関心のあるトピックでしょう。一般論と前置きしながら、鈴木先生が列挙した「向いている人」の条件は、次のようなものです。「人間関係の構築がうまい人」「ストレスに強い人(仕事にも遊びにも一生懸命になれ、息抜きができる人)」「物事のポイント(数字)を的確に捉えることができる人」「勉強や情報収集が苦にならず、知識を得ることに貪欲な人(インターネット・サーフィンを3時間も4時間も続けられる人は一応OK!)」「お金好きな人」。エッ? 鈴木先生は、すかさずこう付け加えます「会社や自分がお金を稼ぐことに情熱が沸く人のことです。札束を目にして欲しくなってしまうような人は、もちろん論外です!」と。

 では「向かない人」の条件は?「お金の遣い方がルーズな人」(当然!)「他人と同じことをすることが嫌いな人」(好きな人ではないので要注意)「よく考えずに行動が先走る人」「正義感が強すぎる人(銀行業務は慈善事業ではない!ことを考えてください)」「気分転換(息抜き)ができない人」。

 けれども「安心してください」。鈴木先生によれば、次の三点が意識できる人であれば、銀行人としてやっていけるとのこと。「学びたい(自分には欠けているものがあるという意識)」「教えて欲しい(自分に不足する部分を埋めてくれる先達を見つける意識)」「お願いします(素直で愛嬌があり、他人を教える気にさせる態度)」。総じて「バランス感覚を意識し、自分の軸を『移動』できる人」ならOK。鈴木先生の持論だそうです。

課題

 グループワークのテーマは「貸出審査」。銀行における「事業向け融資審査のステップ」をふまえて、鈴木先生からは、次のような課題が提示されました。

  自動車部品製造業を営む「青春工業株式会社」に、融資の希望があるとの情報を入手しました。あなたの銀行は、青春工業株式会社に融資を行うかどうか? 青春工業の申し出の内容や財務表、業界の環境や投資計画とその効果等「事前に判明している情報」をも考慮しながら、以下の手順で、融資の可否を検討してください。

 

  1.審査をするためにどのようなことが知りたいか?

  2.審査の結果、融資をするか? 断るか?

  3.融資を行うとすれば、その条件は? 断るとすればその理由は?

 

2時間目(6月17日)

 「(人の金ではなく)自分のお金を貸すつもりになって考えてみてください」。前回の授業における鈴木先生の言葉を唯一の準則として「はたして1億円を返済できる力のある会社なのかどうか?」、12の銀行とも、青春工業に関して開示されている「情報」を、まさに「収税人の眼」で備に穿鑿していました。熱心に「SWOT分析」を試みていた銀行もありました。

 青春工業の将来の労働環境や業績という、融資の方針や条件(融資額、期間、返済方法、利子等)の判断基準となる、いわば「見込み」の評価をめぐっては、どの銀行でも、さまざまな意見の対立があったに違いありません。今回のグループワークの狙いの一つは、まさにそこにあるのです。頭取を中心とした粘り強い議論の甲斐あって、12の銀行とも、行員が納得できる根拠や条件とともに、融資の可否を決断することができたわけです。

 当日は、難問に悪戦苦闘するグループワークのようすを、埼玉県産業労働部の石井悠史氏とベネッセi-キャリア(株)の末吉謙太郎氏にもご参観いただきました。

3時間目(6月24日)

 折りしも、6月24日は、英国のEU(欧州連合)からの離脱の可否を問う国民投票の開票日。EUからの離脱が確実となった直後の授業だったことから、冒頭で、幸運にも、英国のEU離脱による円高や株価の変動、今後の景気動向の見通しに関する、鈴木先生による有益な「Quick講義」を聴くことができました。

 セッション3回目の授業では、12の銀行により、青春工業株式会社への融資の可否が提案されました。回答(対応)は、三つに分かれました。

 原則「1億円」の融資を決めた銀行が、8行。4半期ごとの財務報告書の提出を義務づけたり、追加の担保をもとめたりと、きびしい条件も散見できます。融資期間は、軒並み10年。返済は、一括2行、分割6行。金利には、条件に応じて1.0%~3.5%までの幅がありました。

 2つの銀行が、担保評価への懸念(マイナス要因)と、熟練工の実績による受注増加の見込み(プラス要因)を比較考量した結果、プレス機械の購入額+αの融資額(8000万円)に決めました。金利は1.8%と2.5%。

 残りの2つの銀行は、融資を「否」としました。理由としては、機械の購入以外の資金使途が不明確であること、新規取引先の獲得情報が不確実であること、社員の高齢化により、受注が減少する可能性などをあげています。

 

講評と評価

 融資を検討する際に「資金を何に使うのか」(資金使途)を知ることが不可欠。当然のことではあるが、12銀行とも「融資の基本中の基本」が明確に意識され、確実に検討されていた点を評価したい。「100点満点も、明確なGOODもない業界」とは鈴木先生の言。12行とも「及第点」はクリアしたということでしょうか。

 12行の提案のそれぞれについて、評価できる着眼点を、以下のようにご指摘いただきました。

 企業の業績見通しに不安があるから返済を「分割」にするのは、実に正当かつ基本的な考え方(G1)。高齢の創業社長がいつまで経営に携われるのかという視点、社員の高齢化への対策を融資の条件とした点(G2)。10年後の労働環境への目配りがなされているとともに、取引先の情報の提示をもとめている点。「債権管理」への意識が明確である点(G4)。

 若手の人材の育成に着眼した点(G7)。社長の高齢化を根拠とする一括5年返済は的確な考え方(G9)。アジアの経済情勢への理解をもとに、人材確保のためにアジア地域からのリクルートを提案している点(G10)。担保の評価証明書の提出をもとめている点。「10年は長い」という的確な感覚は大事(G11)。機械の老朽化による稼働率、ひいては業績の変化を評価項目にしている点(G12)。

 

  4つの銀行が、鈴木先生によって、着眼点や考え方の的確さにおいて、とりわけ高く評価されました。「チームワーク」のなせる業(!)でしょうか。専門知識を有しないグループが、自力で、専門的な知識に匹敵するアイディアにたどり着いたこと(G6)は、その一例です。

G3

 製造や運搬における「災害可能性」に着眼した点。複数の融資パターンを用意し、しかも、(一般的なやり方とは違い)融資金額が少ない場合の金利を高く設定するというやり方は、注目に値する。

G5

 融資を、銀行の利益の最大化を軸に検討している、もっとも商業的な提案。売上計画表の提出や担保の厳格な評価なども的確な対応である。

G6

 自宅以外の追加担保をもとめている点や財務表を前提に返済期間の短縮化を検討している点。新卒の採用計画の提出をもとめている点。取引状況によって途中で金利を上げる条件を最初から付けるという「デリバティブ(金融派生商品)」の考え方を採用したことは見事!

G8

 6ヶ月ごとに金利を見直すという変動金利の考えや4半期ごとに財務表を提出させるという適正な管理の発想。ただし、きびしすぎると他行に顧客を奪われる怖れも。

 鈴木先生からは、代案として、売上げ回収金の入金口座を自銀行の口座に指定することなどが示唆されました。

まとめ

 華やかさやスマートさに目を奪われ、旅行業への憧れをたくましくしている学生とは反対の意味で、銀行はじめ金融機関の“お堅い”イメージや“数学が苦手だからダメ”といったある種の「自己規制」から、金融業界を敬遠し、就職の選択しから外してしまっている学生も少なくないように感じます。

 鈴木先生は、本セッションを、こんなさりげない言葉で締め括ってくれました。「銀行も一企業にすぎません。扱っている商品が“お金”というだけの話です」。そして「銀行の仕事」の魅力についても。「さまざまな業界と関わりをもつことで、多種多様な知識や情報を得ることができるということ。勉強する気持ちがあれば、働きながらにして、自己の興味や関心の幅、そして生き方の選択しがどんどん広がっていきます。それがやがては豊かな人生に繋がります」と。   

 「安泰」「安定」という概念は、もはや「時代遅れ」。今後、どんな職業に就いても、学び続けなければ生き残っていけないきびしい世界が展開していくことでしょう。溌剌として学び続けるためには「自分の『軸』を柔軟に移動すること」(鈴木先生)が必要。そのためには、そんな学びの原動力となる興味や関心が、仕事を通じて湧き出るような、刺激的な環境に身を晒すことも必要なのかもしれません。職業選びの有意義な基準の一つではないでしょうか。

 鈴木啓太先生には、刷新版「企業と雇用」の趣旨をご理解いただき、数ヶ月にわたって、明解な資料の作成や業界理解にふさわしい「課題」の検討にご尽力いただきました。

 とりわけ3時間目の発表においては、12銀行のそれぞれの提案の行間を共感的に読み込み、やや稚拙さが残る表現を「金融のコンテクスト」に敷衍しながら、実に巧みに褒め上げていただきました。前セッションの「課題」と較べ、やや苦手意識を感じがちな「課題」だっただけに、プレゼンの結果、なんとか及第点を頂戴できたことは、学生たちのささやかな自信に繋がっているようにも感じています。

 鈴木先生の講話が、金融業に纏わりついていた“お堅い”イメージを払拭し、その魅力や面白さに気づくチャンスになっていることを期待したいと思います。

 ありがとうございました。