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「企業と雇用A」・第4セッション(建築資材業界の魅力と将来性)報告

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 「企業と雇用A」最終セッションは「建築資材業界の魅力と将来性」がテーマです。講師には、株式会社エービーシー商会から山本みどり氏(人材開発チーム部長)をお招きしました。山本氏には、2015年度の第2回FD研修会においても「企業が大学教育に期待すること」を率直に語っていただきました。

1時間目(7月1日)

(株)エービーシー商会について

 

 「エービーシー商会の商品の上を歩いたことのない人はいない」。インパクトのある摑みからスタートです。エービーシー商会は、「建築資材・ファッションインテリア資材の卸売・輸出入・製造を行う専門商社・メーカー」。300アイテム10,000種類以上の「豊富な商品群」を扱う、まさに「建築資材のデパート」。高品質・本物志向の姿勢と安定した財務状況が最大の強みだといいます。

「建築業界」と「建築資材業界」

 

 「まずは『建築業界』のお話から」。建築業界を、橋梁や道路やダム建設に携わる「土木業界」とビルや住宅等を手がける「建築業界」に分けた上で、「建築業界」の詳しい説明がなされました。「建築資材業界」は、施主(建築主)、設計者、ゼネコン、サブコン、ハウスメーカーと並ぶ「建築業界」を構成する不可欠のアクターの一つ。建物ができるまでの流れの中で、それぞれの役割分担と関連を具体的に確認した後は、いよいよ「建築資材業界」です。

 建築資材業界には、建材を製造・販売する「メーカー」と、卸売を主要業務とする「商社」、そして「商社兼メーカー」から構成されます。TOTOやLIXILグループ、積水化学工業やカネカなどが「メーカー」。三谷商事や山善といった企業は「商社」。エービーシー商会は「商社兼メーカー」といえます。

 300アイテム10,000種類以上の豊富な商品群」。どれだけの建築資材を思い浮かべることができるでしょうか。建築資材は、建物の躯体に用いられる「構造材」と、建物の保護や美観用の「仕上材」(天井材、壁材、床材など)に大きく分類でき、さらに「仕上材」は内装材と外装材に。床材を例に、材質(合成樹脂系・無機系)や施工場所に応じて多種多様な床材が存在していることがわかりやすく説明されました。床材一つとっても、状況に適した床材の選択には、施主、設計者、建設業者(ゼネコン)との密接な連携と、それに見合った豊富な知識と経験が必要とされるようです。

営業職の魅力と求められる能力

 

 「自分の仕事の成果がカタチになって街に残る」。建築資材業に携わる営業職の最大の魅力を、山本先生はこう表現しました。ただし、その魅力を感じることができるようになるためには、次の三つの能力が不可欠だと言います。第一は「対人受容力」。誰とでも、どんな怖そうな人とでも話ができること。第二の「対峙力」は、切羽詰ったギリギリの状況で緊張感に打ち勝って問題を解決できる力。建設現場(工事現場)で働く、ときに無骨な職人をも恐れずに、きちんと仕事の話ができるということです。「どんな状況でも、後ろにさがるな(ふみとどまれ)」。新入社員への教訓だといいます。今日日の学生にもっとも足りないと言われている能力ですね! 第三は「段取り力とも課題調整力を維持するための責任感」。一つのビルを建設は、28業種の人の連係プレーからなる共同作業だといいます。一人の不注意が、工事を全面的にストップさせてしまうことも。とりわけ建設業界には、もっとも必要とされる能力かもしれません。

 

 山本先生は「建設(建築資材)業界の現状」をふまえながら、建設業への若年層の入職者数の減少が取り沙汰される一方で、離職率が相対的に高くないことに着眼し、こう強調しました。「建設(建築資材)業界」は、人を育てる意識のある業界だと言うことができます。若い社員の成長を期待しつつ、長い目で人材として見守れる業界だということです」

 建築資材業界の「もうひとつの大きな魅力」に違いありません。

課題

 グループワークのテーマは、ズバリ「建築資材業界の魅力」。山本先生からは、以下のような課題が提示されました。

   A 建築資材業界の魅力を若者に伝えるために何を重要視しますか。

   B  それはなぜ(WHY)ですか。

   C それをどのように(HOW)伝えていきますか。

  業界の魅力の発見とその発信方法の検討は、学生たちの業界理解を深める格好の課題といえるでしょう。山本先生からは、最終回のプレゼンの評価には、提案内容のアイディアのみならず「プレゼン力」も重視することが予告されました。

2時間目(7月8日)

 

 課題出しの直後の質問で、「若者」とは「大学生」ということになりました。ほとんどの学生が、建築資材業界に魅力を感じていないどころか、そもそも一週間前までは業界を知らなかったわけです。前回の山本先生の講話に学び、さて、大学生に建築資材業界の魅力をどう伝えるか。12の建築資材会社が人事部長を中心に、智恵を絞りました。

 魅力を伝える具体的な方法と同時に、業界の魅力を売り込むための大学生向けのコピーを提案してもらうことにしました。

3時間目(7月15日)

 12の建築資材会社の人事部が、およそ次のようなトピックでプレゼンを行いました。「建築資材業界の魅力(強み)とは?」「建築資材業界の『負のイメージ』とは?」「魅力が学生に伝わらないとすれば、伝わらない要因は何か?」(「負のイメージがなかなか払拭されないとすれば、その要因は?」「建築資材業界の魅力を伝える方法は?」「魅力を売り込むための大学生向けのコピー」。

 

 「建築資材業界の強み」。「仕事が目に見える形で残る」「自分がかかわった仕事を自慢できる」「経営が安定している」「東京五輪等の特殊需要という環境のために失業の心配があまりない」「建物がなくならない限り仕事もなくならない」「ライバル企業が少ない」「離職率が低い」「多種多様な業界の人とかかわれる」等、山本先生の講話をふまえ、建築資材業界の安定性や堅実性を「魅力」とした会社が多かったようです。

 

 「建築資材業界の『負のイメージ』。「ガテン系の怖いイメージ」「屋外での力仕事が多い」「男の職場」「生活感がない」「土木建設」「勤務時間が不規則」「納期に厳しい」「夜の工事が多い」等。土木業界と建築資材業界のイメージが混同されていることが原因だと鋭い分析をした会社も。

 

 「魅力が伝わらない要因は何か?」=「負のイメージが強い要因」。「そもそも業界を知らない」という分析が圧倒的。「自分たちが購入するものではないから関心が向かない」「理系のイメージがあり視野に入らない」「メディアに取り上げられることが少なすぎる」等。

 

 「建築資材業界の魅力を伝える方法」。「大学祭などにおける企業主催イベント」「DIYブームの活用」「おしゃれ度をアップする」「女性でもできることを宣伝する」「HPに女性社員の写真を載せる」「Webに『スーツ着用のビジネスマンの写真』を使う」「山本先生のように女性が講演会を行う」「工場見学などにより資材サンプルを触るチャンスをつくる」「建築資材業界アイドルやドラマの制作」。

 

 「魅力を売り込むための大学生向けのコピー」。さて、建築資材業界の印象を一新するような斬新なコピーはありますか?

◆「つくります、あなたの安らぎの家を、あなたの街を、あなたの愛せる日本を」(G1)

◆「滑らない床材、滑らない人生」(G2)

◆「あなたの街に忘れられない景色を」(G3)

◆「あなたが青春した母校の床、それ、エービーシー商会ですよ」(G4)

◆「周りをみてください。支えているのは建築資材業界。」(G5)

◆「過去の自分が、今君の土台になる」(G6)

◆「カベドンするなら『うちの壁』」(G7)

◆「ABC-あなたの夢のBuildingをクリエイトしよう」(G8)

◆「スカイツリーのココ 私たちです」(G9・写真参照)

◆「次に日本を支えるのは君たちだ!!!」(G10)

◆「今どきは『合成樹脂系男子でしょ』」(G11)

◆「未来を創る建築資材業界」(G12)

講評と評価

 

 12の学生建築資材企業の発表ごとに、山本先生からは「学生向けコピー」に込めた思いや意味、そして、魅力を発信するための具体案に対するご感想など、有益な講評と激励を頂戴しました。さらに、今回の報告の評価基準にもなっているプレゼンの「コツ」までもご教示いただきました。「日本語は述部に意志が宿ります。文章は短く、そのために『句点』を意識すること。『です』『ます』という語尾を、他者の顔をみて、しっかり明確に言い切ること」。確かに「切れ目のないダラダラ語り」も少なくなかったように思います。

 

 

 講評の最後に、審査結果が発表されました。「業界理解度賞」G6に。建築資材業界の負のイメージの原因が、土木業界と建築資材業界のイメージが混同されている点にあることを見抜き、その峻別のためにWebに「スーツ着用のビジネスマンの写真を使う」などの有効な提案をしたことが高く評価されました。「アイディア・クリエイティブ賞」「滑らない床材、滑らない人生」というコピーを考えたG2。建築資材業界の将来的な安定性を見事に表現したコピーとなっています。「理解度+プレゼン賞」は、メリハリの利いた説得的な発表を行うとともに、ポスターを準備して学生向けコピーをアピールしたG9に。

まとめ

 

 もはや『大企業』や『一流企業』が、生活や人生の安定を保証する時代は終わりを告げ、社員数や営業利益の規模の他には何も意味しないアナクロな語彙に成り下がっている時代なのかもしれません。私たちの社会には、グローバル経済の必然性を喧伝しながら、業績悪化を理由に、1000人規模の大リストラを躊躇なくやってのける一握りの「大企業」の経営陣がいる一方で、その五百倍の数の中小企業の経営者は「人を生かす経営」に智恵を絞っています。

 こうした中で、人生をかけるに値する企業の選択をめぐって、日夜、悩み苦しむ夥しい数の学生がいるわけです。20代の自分をかけられるような会社をどうやって選んだらよいか? 就活を目前に控えた学生たちにとって最大の悩みどころでしょう。山本先生の語る「建築資材業界の魅力」にも、確かな「企業を選びのヒント」が潜んでいたように思います。「自分の仕事の成果に誇りをもてる企業なのかどうか?」「人を育てる意識のある企業なのか。若い社員の成長を期待しつつ、長い目で『人材』として見守ってくれる会社なのかどうか?」。いずれも、企業選びの有意義な基準として銘記してもらいたいものです。

 

 山本みどり先生には、刷新版「企業と雇用」の趣旨をご理解いただき、業界理解にふさわしいPPTの作成や「課題」の検討にご尽力いただきました。とりわけ3時間目の発表においては、提案内容ばかりか、プレゼンテーションにも留意した講評をいただくことができ、「企業と雇用A」のまとめにふさわしい印象深いセッションになりました。

 複数の学生人事部が提案したように、社会をささえる建築(資材)業界の魅力の創出と発信は、山本先生のような女性企業人の活躍にかかっているといえそうです。ありがとうございました。

予告

 山本みどり先生には、「企業と雇用B」の最終回(2017年1月20日)「特別講演Ⅲ」にもご登壇いただくことになっています。就職活動のスタートダッシュに向けた講演になります。乞う、ご期待。