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「大学生のための県内企業魅力発見事業」報告・問題解決学Ⅰ(2)

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 「問題解決学Ⅰ」(キャリア特殊講義)は「埼玉県内の企業参加によるPBL型授業」の2年生版。細田咲江先生(株式会社ベネッセi-キャリア担当講師)の指導の下で、企業の経営課題に取り組むプロジェクト。10月7日には、学生全員が、サンメンバーズ株式会社の高橋祐介社長より「新規事業開発プロジェクトチーム」に配属されました。

 第二回報告では、第一次提案と第二次提案のようすをレポートします。

 

第一次提案

 高橋社長から提示された「課題(Mission)」を確認しておきましょう。埼玉県本庄市を拠点とする「トータルライフサポート」のサンメンバーズが、新たに東松山市に営業所を出します。少子高齢化という観点で、比企地域の人々が何に困っているかを発見し、10年後にビジネスとしてしっかり成り立ち、しかも、地域社会の問題の解決に貢献できるような新規事業を提案せよ。

 

提案

 11月11日、第一次提案が行われました。ほとんどのチームが、老人ホームやグループホーム、日本スリーデーマーチの会場等に足を運び、高齢者へのアンケート調査を試みたようです。はたして、その解決がビジネスに繋がるような「高齢者の『困ったこと』」を発見することができたのでしょうか?

 高齢者の交流や生きがいの創出に着眼した提案として「健康に気遣いながら楽しめる憩いの場所(コミュニティカフェ)」(Big Up)や、ジムや図書室を備えた「老人版幼稚園」(情熱きびだんご)、「農作業を通じた都市の若者と農村の高齢者の交流事業」(Nougat de Montelimar)がありました。また、個人の写真を整理し「メモリアルストーリー」を作成する事業(鳳梨黒暗大法師)や「カタログによる食の宅配サービス」(GUTS)や「家事代行サービス」(Nougat de Montelimar)等の諸事業も提案されました。

 

講評

 高橋祐介社長からは、それぞれの提案について、数々の質問や指摘がなされました。「集客の方法が不明確!」「どんな人々を笑顔にしたいのか、事業の具体的な対象が不明確」「売上げの見込みは?」「継続的なビジネスとして成り立つかどうか疑問?」「他社がやっている事業を提案するのであれば、サンメンバーズだからこそやれる『何か』がなければならない。差別化を意識せよ!」。

 「諸君は『2025年問題』を、本当に真剣に考えているのか?」――解決すべき問題の捉え方や調査のやり方も、手厳しく批判されました。「何名の高齢者にアンケートをしたのか?」「アンケートをした高齢者の年齢層は? スリーデーマーチには多くの高齢者が参加していているが、大半は60代までの元気な高齢者ではないのか」『10年後を見据える』ということは、現在65歳以上の団塊世代が後期高齢者(75歳以上)になる時代を想定すること! まだまだ元気な60代の話を聴いたところで、後期高齢者が感じる不安や『困った』を摑むことはできない。70以上の高齢者は誰のために金を使うのか? 子? 孫? 自分? そのあたりをしっかりと調べてみるべきだ」。

 さらに、次のような指摘も。すべての提案が「高齢者を『顧客』としてしか見ていない。働きたいと思っている高齢者を新規事業にどう取り込むかという視点もあるはず」「サンメンバーズには数万人におよぶ会員がいる。会員制という資源を活用することを考えてもよいのではないか」。

 講評は、激励を込めた指示で結ばれました。新規事業には「絶対にサンメンバーズに行かなければ『損だ』という気にさせるような、顧客をワクワクさせるような『魅力』が欲しい」。「75歳の高齢者から『ありがとう』といわれる商品や事業」を真剣に考えてもらいたい。

 

 学生社員は、高橋社長から、事実上の「仕切りなおし」を指示されたわけです。10年後には日本の人口のボリュームゾーンとなる後期高齢者。75歳を超えた高齢者の「笑顔」や「ありがとう」のために、揃って「再出発」といったところでしょうか。12月2日の第二次提案に期待したいと思います。

 

 第1次提案は、埼玉中小企業家同友会理事(株式会社KSP代表取締役)の三角武一郎氏と事務局の田ノ上哲美氏、株式会社KSPのグェン・ティリ氏、埼玉県産業労働部の石井悠史氏にご参観いただきました。

 

振り返り

 11月18日の授業は、第1次提案の振り返り。細田先生から指摘された、次の5つの視点に沿って、第一次提案を再点検しました。すなわち「①課題の本質を的確に捉えていたか」「②ターゲットが明確に設定できていたか」。どの年齢層のどんな生活状態の人に照準を合わせたサービスなのか。高齢者といっても「アクティブ・シニア」なのか介護や支援が必要な高齢者なのか?「③高齢者のニーズ(困ったこと)を把握した上での提案となっていたか」。アンケートの対象や質問項目は適切だっただろうか。「④サンメンバーズの『資源』や『強み』を活かせていたかどうか」。先行企業や同業他社との差別化を意識していたか。「⑤事業としての継続性があるかどうか」。新規事業を絶えず開拓するのは現実的ではない以上、継続性(将来性)の見込めない事業は成り立たないということですね。

 

 はじめのうちは、振り出しに引き戻された落胆からなのか、少々深刻な表情が目立ちました。けれども、点検作業が進むにつれて、話し合いも活発になり、発想も多方面に拡がってきたように見えました。学生たちは、課題出しの際に聴いた、高橋社長の、たとえばこんな言葉を想起し、新規事業の難しさを実感していたかもしれません。「ネットで調べて、新規ビジネスが出るほど、世の中は甘くない」。

 学生の前には大きな壁が立ちはだかっているようです。さて、どうやってこの壁を乗り越えるのか。第二次提案は、12月2日。時間はまだあります。「本当に必要だと思える事業」を発見できるまで、妥協することなく、徹底的に議論してもらいたいと思います。

 

第二次提案

 12月2日、第二次提案が行われました。トップバッターの「鳳梨黒暗大法師」の提案は「看護派遣事業」。「2025年問題」の政策的な帰趨を、病床数の不足と、認知症高齢者の増加に対応する「在宅医療の推奨」と捉え、2018年度に大東文化大学が看護学科を新設することを念頭に、学生も取り込んだ事業提案となっています。SM(Selling Message)は「いつもあなたのそばに・・・」。

 高橋社長の講評は、次の通り。国の政策が、訪問看護とリハビリを中心とする在宅医療にシフトしていくことは間違いないところ。着眼点は、高く評価できる。介護保険制度や医療保険制度との関連をふまえて、より現実的な提案へと鍛え直してしてもらいたい。田ノ上氏からは「要介護者のニーズを具体的に調べる必要があるのではないか」というアドヴァイスがありました。

 「Big Up」の提案は「高齢者のための学校をつくる!」。「高齢者が社会に貢献できる場所が少なく、気軽に集まれる場所も少ない」。SMは「青春時代をもう一度」。学校では、高齢者は「先生+生徒」。学ぶ楽しさと教える喜びの両方が体験できるような具体的な時間割も提示されました。

 高橋社長からは「提案自体は斬新ではなく、地域自治体でも生涯教育事業として展開されている試み」。したがって、高齢者が「金を払ってでも、サンメンバーズの学校に行ってみたい」と思えるような“この学校にしかないもの”を創造し「(集めなくても)集まってくる事業」にするための「差別化」についてもっと知恵を絞ってもらいたい。料金の根拠も希薄である。田ノ上氏からは「ヴィジョンやテーマの設定がすばらしい!ただ高齢者の生きがい創出の場面をどうカリキュラムに組み込んでいくのかが課題」との指摘がありました。

 「情熱きびだんご」は「こころとからだの健康を保つ」というSMの下に「生活習慣病の予防」を目的とする事業を提案。高橋社長からは、やはり、きびしい指摘がなされました。健康体操は高齢者を集める手段としては有効であり、日本中どこでも実施されている。最大の課題は「マンネリ化の防止」。マンネリ化を回避し、どのようなビジネスとして展開するのか、どう利益を出すのかが不明確である。

 高齢者の悩みや不安を徹底的に調べ上げたという「Nougat de Montelimar」。「地域密着型高齢者支援事業」に着眼し「あなたの生活に寄り添いたい」をSMとする「ライフサポートビス」を提案しました。具体的なサービスとして「掃除、選択、布団干し、草むしり、悩み相談等」からなる「生活支援プラン」、「お客様が旅行に行っている間に大掃除を行う『心もお部屋もリフレッシュ!』プラン」、要介護者を対象とする「お墓参りプラン」の三案が提示され、同業他社との料金比較への目配りもなされていました。

 しかし「すべて既にある事業。プランの独自性がほとんどない」と高橋社長。「ただ『旅行中の清掃サービス』というアイディアは面白い」とも。最終提案に向けて「地域包括ケアシステム」制度の中の「地域支援」を担当するような事業の可能性について検討してもらいたい。

 第1次提案では「カタログによる食の宅配サービス」を提案した「GUTS」。新たに、埼玉グランドホテル深谷店との提携による「料理のデリバリー事業」が提案されました。「誕生日や結婚記念日、お盆や正月等の家族の集まる日に“非日常感”を味わってもらう」、そして高齢者向けには「生きるために食べるのではなく『食べる喜びを感じてもらう』こと」を目的とする事業。「中華、和食、イタリアン+高齢者メニュー」、価格帯、同業他社との比較、配送手段やカタログ制作にも言及されました。また「食のデリバリー事業」をサンメンバーズの会員向け割引特典に加えることも提案されました。

 「サンメンバーズホテルの料理長にインタビューを行い、実現可能性を検討している点は評価できる。けれども『ウキウキ感』が湧かない」と。やはり「誰のためのサービスなのか、誰を喜ばすためにやるのか、誰の笑顔がみたいからやりたいのか。まだ意識化が足りない」と高橋社長。

最終提案に向けて

 「1次提案に較べると精度が上がってきているように感じます」「いかがでしょうか? 高橋社長」と、細田先生。「やってみたいなと思った提案はあります。しかし『ウキウキ、ワクワク』してこない」と高橋社長。いったい、何が問題なのでしょうか?

 誰も考えつかなかったような奇想天外な事業がもとめられているわけではありません。10年後の日本社会を見据えて、後期高齢者やその家族はどんなことに不安を感じ、苦労するのか。事業提案の原点は、そんな「困った」を発見すること。「困った人の顔を見ないと何も出てこない」「何で困っているかは、お客様のところに行かなければ教えてくれない」。課題出しにおける高橋社長の指摘です。学生たちは、後期高齢者の人の話をどれだけ丁寧にかつ真剣に聴けているでしょうか? 

 事業提案の次の工程は「差別化」。もとより、もとめられるのは「質(クオリティ)」における「差別化」です。価格を下げること(安売り)による差別化は自滅に繋がります。たとえば、今後ますます需要が高まると予想される「家事代行業」。ここに参入し、比較優位を得ようとすれば「我が社にしかない『売り』や『付加価値』」が不可欠です。「あの会社に頼まなければ損だ」と、多くの顧客に感じさせるような「家事代行」とは何か?ということしょう。地域密着型の企業にしか生み出せない「付加価値」はまだまだ未開拓だと思います。

 「差別化」と関連する事業提案の最終工程は「魅力化」でしょうか。高橋社長のいう「ワクワク感」です。広告で集めるのではなく、顧客が(自発的に)集まってくるような「魅力」。どうやって創出することができるのでしょうか? 

 高橋社長は、このヒントについても、初回の授業から、繰り返し学生たちに語りかけているように感じます。すなわち「誰の『困った』を解決したいのか」「誰を喜ばせたいのか」「誰の笑顔がみたいのか」「誰にありがとうと言ってもらいたいのか」。こうした思いをはっきりと自覚せよ!ということ。こうした真摯な態度が新規事業の発想をもたらし、付加価値を創出することにつながっていくのだということではないでしょうか。

 5つのチームには、もう一度、原点に立ち返り、自分たちの事業は「誰を助け、誰を喜ばせるための事業なのか」を繰り返し自問自答してもらいたいと思います。最終提案は、12月23日です。ここからが正念場。チームワークの真価が問われる局面です。

 第二次提案は、埼玉中小企業家同友会事務局の田ノ上哲美氏、埼玉県産業労働部の金田

 剛主幹と石井悠史主査の両氏にもご参観いただき、改善に向けた有益なコメントを頂戴することができました。ありがとうございました。