2020年度学位記授与式が3月22日、東京都千代田区有楽町の東京国際フォーラム・ホールAで挙行された。
式典は午前の部(経済学部、法学部、経営学部、スポーツ・健康科学部)、午後の部(文学部、外国語学部、国際関係学部、環境創造学部)に分かれて行われた。
卒業者・修了者総数は2,451人。学士課程2,415人(文学部477人、経済学部360人、外国語学部348人、法学部331人、国際関係学部184人、経営学部344人、環境創造学部158人、スポーツ・健康科学部213人)、博士課程前期課程・修士課程34人、博士課程後期課程2人。
学長告辞・内藤二郎学長
学部を卒業される皆さん、そして大学院を修了される皆さん、おめでとうございます。また、会場においで頂くことはできませんでしたが、今日に至るまでの長きにわたって陰になり日向になり支えてこられた御父母、ご家族、その他関係の皆さま方にも、心からお祝い申し上げます。
皆さんにとっての最終学年となった2020年度は、本当に大変な一年でした。新型コロナウイルス感染症の爆発的な拡大によって、これまでに例をみない非常事態に直面し、世界は大きく混乱しました。本学もその影響を大きく受けました。卒業、修了を目指しておられた皆さんは、様々な困難や不安を抱えて大変だったのではないかと推察致します。そのなかで、困難、苦労を乗り越えて今日を迎えられたことは、きっと皆さんにとって自信になったことでしょう。また、色々と思い、悩んだ経験から得たものも多いのではないでしょうか。それだけに、卒業、修了できたことの喜びや達成感はより一層大きいことでしょう。
ところで、厳しい年であった2020年をどのようにとらえておられますか。「よりによって自分が大学、あるいは大学院を終える年になぜこんなことになったんだ、運が悪いな」など、ある種の不満や納得がいかない思いを抱いている方もおられるかも分かりません。他方で、つらく苦しいことではあったけれども、これまでごく普通のこと、当たり前だと思っていたことがいかに貴重でありがたいものであるか、ということに気付かされる機会にもなったでしょうし、人間がいかに人とのかかわりの中で生きているのか、いや、さらに言えば「生かされているのか」ということを感じた方も少なくないと思います。めったに経験することのない事態に遭遇した時、つらい思いをした、満足に過ごすことができなかったというマイナス面に注目するのか、そうではなく、厳しい状況を経てまた新たな発見、経験が一つ増えたと考え、改めて自分自身を見直し、それらを人生に生かしていくのか、というのは皆さん次第です。
この点について少し視点を変えてみると、やはり重要なのは、「考え方」そして「心の持ちよう」ではないでしょうか。「考え方」ということについて、実業界で偉大な業績を残しておられる稲森和夫さんの言葉を借りれば、素晴らしい人生をもたらす方程式がある、それは「能力」と「熱意」と「考え方」という3要素の掛け算であるというのです。そして、それらに点数をつければ、「能力」と「熱意」は0点~100点ですが、「考え方」については、マイナスもあり得る、つまり-100点~100点まである、というのです。いくら「能力」があり、「熱意」があっても、「考え方」が間違っていれば、人生に点数をつけると大きなマイナスになってしまう、ということです。何よりも大切なのは、正しい「考え方」を持つ、ということです。人として正しい、真っ当な考え方をもって行動することだけは忘れないでください。同時に、「考え方」というのは、実は心の持ちようと大きく関わっているといってもいいのではないかとも思います。
厳しい局面においても、マイナス面ばかりを見ずに、そこから何かを学び取るんだ、つかみ取るんだ、といった前向きな心、そして、きっとうまくいく、乗り越えられる、といったポジティブな考え方を持つこと、こうした心の持ちようが大切です。社会へ出ると、さらに多くの、そして多様な場面に遭遇します。むしろ厳しい状況の方が多いかも分かりません。そこで平常心を保ち、自分自身を上手に律する、ということが必要となる場面が多々あります。そんな時に重要なのが心の持ちようです。世の中には色々なタイプ、性格の人がいますが、一つ言えることは、性格よりも、むしろ心の持ちようで人生の局面が随分変わるものだ、ということです。そして、心の持ちようは、訓練して身に付けるものだとも言われます。訓練といっても大げさに考える必要はありません。日々の生活の中で少し意識し、ふと気づいたときに改めよう、といったある意味気楽に、しかし地道なことを繰り返していくことです。是非、心の持ちようを整える訓練をなさってください。
さて、今お話しした「考え方」と関連して、私はしばしば共に生きる、「共生」という話をします。このことについてもじっくりと考えていただきたいと思います。特にコロナ禍の今、非常に重要なことだと考えています。一つは人間と自然とのかかわりにおいて、そしてもう一つは人間同士の関係においてです。経済、社会が発展し便利になり、人間が豊かな生活を送れるようになった一方で、激しい気候変動、地震や台風などの大規模な災害が頻繁に起こり、地球の存亡自体が危ぶまれるようになっています。人間が自然との共生に失敗した結果と言えるかもわかりません。今回の新型コロナウイルス感染症の問題についても、専門的なことは分かりませんが、ひょっとすると人間と自然との共生にかかわる問題ではないかと私は感じています。
さて、人間同士はどうでしょうか。21世紀の今なお、世界では紛争や争いごとが絶えず、また貧困や飢餓の問題も解決されず、それどころか益々深刻化しています。人間が、人間の都合で行ってきたことで、皮肉にも我々人間自身が危機に直面しているのです。このままでは、いずれ人間社会が持続不可能になってしまうでしょう。今こそ、「共生社会」の大切さを真剣に考なければならない、そして行動しなければいけないでしょう。特に若い皆さん方への期待は大きいです。しっかりと認識し、実感していただきたいと強く思います。
皆さんは、「精力善用・自他共栄」という言葉をご存じでしょうか。講道館柔道の創始者である嘉納治五郎先生が講道館柔道の指針として掲げられた言葉です。自己を高め、世の中の役に立つ存在になること、そしてそれを世のために活かすことによって自分も他人も共に栄える、という教えであると理解しています。柔道の稽古、鍛錬を通じて、まさに「共生社会」の実現に貢献することを訴えたものでしょう。是非参考にしてみてください。
ご存じのように、大東文化大学の理念には「アジアから世界へ―多文化共生を目指す新しい価値の不断の創造」があります。また、2023年に100周年を迎えるにあたり、「文化で社会をつなぐ大学」というミッション、そして「真ん中に文化がある」というタグラインも策定しました。これらは、「共生社会で違いを認め、尊重し合う」ということだと考えています。国や民族の違い、言葉や文化、宗教などの違いもありますし、また同じ国や地域であっても生まれ育った環境、ジェンダー、年齢の違いなど様々です。大切なことは、それぞれの違いを認め、尊重し合い、共に生きるということです。特に大東文化大学で学んだ皆さん方には、違いを受け入れると同時に、「寛容な心」を大切にしていただきたいと思います。そして、我々の教職員、在校生ともこの思いを共有できればと思います。
卒業後、そして新型コロナウイルス感染症が終息した後には、世界は大きく変わるでしょう。何がどのように変わるのか、それは今はまだ誰にも分かりません。ただよく言われているのが、これまでにも増してICTを活用した社会が大きく世界に広がっていく、ということです。ポストコロナに向かって社会全体が大きく変革していくことになり、それに伴って科学技術がさらに発展し、ICTやAIが急激に社会に広がることは間違いありません。こうした大きな社会の変化に対応すべく、知識や技術を醸成していくことが重要な課題であることは否定しません。ただし、科学や技術の進歩に人間が流されてはいけないということも敢えて指摘しておきたいと思います。
かの有名な歴史小説家である司馬遼太郎先生が『二十一世紀に生きる君たちへ』という子供向けのエッセイの中で、このようにおっしゃっています「人間は--くり返すようだが--自然によって生かされてきた。古代でも中世でも自然こそ神々であるとした。このことは、少しも誤っていないのである。歴史の中の人々は、自然をおそれ、その力をあがめ、自分たちの上にあるものとして身をつつしんできた。この態度は、近代や現代に入って少しゆらいだ。-人間こそ、いちばんえらい存在だ。という、思いあがった考えが頭をもたげた。二十世紀という現代は、ある意味では、自然へのおそれがうすくなった時代といっていい」と。
また「二十一世紀にあっては、科学と技術がもっと発達するだろう。科学・技術が、こう水のように人間をのみこんでしまってはならない。川の水を正しく流すように、君たちのしっかりした自己が、科学と技術を支配し、よい方向に持っていってほしいのである。」とも述べておられます。東日本大震災から10年の節目を迎えた先日、私は、この司馬先生の言葉を思い出しました。我々が主体的に技術を活用するという意識と実践が問われることになります。世の中が便利になる一方で、実はそれらを人間がコントロールすることすらできないという一種危険な状況に陥っているのではないでしょうか。これを科学技術の進歩と手放しで称賛することが果たして良いことなのでしょうか。今こそ基本・原点に返って我々人間の生き方を考えないといけないという思いが私の中で年々強くなっています。
先ほどご紹介した「文化で社会をつなぐ大学」というミッションも、当然その中心は「人」です。人と人、そして人と自然の共生が大前提です。人間が科学や技術に飲み込まれてしまってはいけない、ということにも通じます。皆さんは、間もなく100周年を迎える長い歴史と伝統のある大学、そして「共生」を重んじる大東文化大学の卒業生になります。どうぞそのことに誇りを持ち、同時に大学の良き理解者、応援者になっていただければ大変うれしいです。そして、それぞれが社会で色々な経験をし、力強く生きていってほしいと思います。大いに期待しています。そして折に触れ、友人や教職員と共に過ごした青春時代を懐かしく思い出し、母校に思いを寄せていただければと思います。大東文化大学で過ごした時間、そしてその間の経験が皆さんを鍛え、お一人おひとりの自信につながっていると信じています。そして、そのことが今後の皆さんの人生を支える礎となっていくことを心から願っています。くれぐれも健康には留意してください。健康でいれば、いつか好機は巡ってきます。大いなるご活躍、ご健闘をお祈り致します。本日は誠におめでとうございます。
理事長祝辞・中込秀樹理事長
皆様ご卒業おめでとうございます。保護者、ご父兄の方々にも心からお慶び申し上げ、事務局を代表してお祝いの言葉を申し上げさせていただきます。
こうやって学生諸君が一同に会し、揃って学位授与の栄誉に浴します情景を拝見しますと、誠に感無量と言うべきであります。皆様の学生生活は誠に多事多端であり、皆様よくぞこの困難を乗り越えられたと思います。
コロナ禍は未だ収まらず、ようやく皆様とこうして式典を挙行できたとは言え、保護者の方々は会場に入っていただくことができませんでした。この災厄の今後の推移については、余談を許さないものがあります。皆様は東日本大震災、コロナ禍などの数々の災害を体験されてこられ、それぞれに多大なご労苦があったかと存じます。このような苦難を乗り越えられ、人間として一段と大きくなられ、卒業されることは嬉しい限りです。どうぞこれから学外においても身体・精神の健康の維持に一層配慮されるようお願いいたします。
社会人の先輩として皆様に一言申し上げるとすれば、「ルーティンワークから脱して欲しい」ということです。人間怠けがちな生き物ですから、頭を使わないよう楽をしがちです。決められたことをその通りにやるマニュアル通りの仕事ならば頭は使いませんが、そうではなく何事にも良く考え、自分の頭でしっかり考え取り組んで欲しいと思います。私自身の経験からも「愚直」にこつこつと考えながら仕事をすることが重要だと実感しています。
本学も間もなく100周年を迎えます。様々な機会で接する各界の人々と卒業生であったり身内に在校生、卒業生が多くいることを知らされます。これらの方々はこぞって学園に大変世話になったと感謝の念を表明されます。
皆様、これから学園の卒業生としてその伝統を問われ第一線に立つものとして、力を尽くして行かれることを期待しています。今後の大いなる発展を心からお祈り申し上げて私の祝辞といたします。
表彰
学長賞には、令和2年度 改組 新 第7回 日展 第5科(書)で入選し、「書の大東」を体現した湯本隼也さん(書道)、滑田一輝さん(書道学専攻博士課程前期課程)の2人が表彰された。
卒業生代表挨拶
〈午前の部〉法律学科・橋本 龍一 さん
〈午後の部〉国際文化学科・武田 彩生 さん
肌を震わす冷たい風もいつしか和らぎ、暖かな春が近づいて参りました。
はじめに、この度の新型コロナウイルス感染症によってお亡くなりになられた方々にお悔やみ申し上げるとともに、今なおこの感染症と闘っておられる方々にお見舞い申し上げます。また、医療関係者の方々をはじめとする、日々の社会基盤を支えてくださっている方々に深く感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。
そして今回の感染症流行拡大の中、私たち卒業生のためにこのような盛大な式典を挙行していただき、誠にありがとうございます。刻々と変わりゆく状況を見極めながら至った、式典を挙行するという決断をしていただいた内藤学長をはじめとする諸先生方、大学関係者の方々のご尽力に心より感謝申し上げます。おかげさまで1年ぶりに友人たちと再会を果たすことができました。
振り返ってみると4年という歳月は瞬く間に過ぎ、本日卒業式を迎えることになりました。今回の新型コロナウイルス感染症により当たり前だった日々の生活が一瞬で消え去り、思い描いていた最後の学生生活を過ごすことはできず、憂愁の1年となったように感じます。「人とのつながり」がいかに重要で、自分の心の支えになっていたことを思い知らされた1年となりました。
私にとって「心の支え」は友人たちの存在でした。友人たちと、理解を深めるために集まって勉学に励んだり、登下校を共にしたり、笑い合い、励まし合い、つらい時に助け合ったりと、多くの時間を共有してきました。4年間で積み重ねてきた時間は私にとってはなにより大切で忘れられないものです。
私の学生生活において最も濃い時間となったのは昨年の春休みでした。公務員試験にむけて勉強で追い込まれていた時期に、友人たちと大学やオンライン上でお互いの進路に向け切磋琢磨した時間が数か月間ありました。目指す先は違っても懸命に取り組む姿を見て、自分の刺激にも励みにもなり、長く険しい公務員試験を諦めることなく、最後まで乗り切ることができました。私にとってあの時間は必要不可欠で、友人たちがいなければ、私は公務員試験に受かることもなく、この場で挨拶をすることもできなかったと思います。
この経験は私にとって大きな糧となり、決して忘れることのできない大切な思い出となりました。友人たちには感謝の気持ちでいっぱいです。卒業後もこれまでのようにお互いに助け合い、刺激し合える関係でありつづけたいと思います。また、ゼミでお世話になった廣江先生並びにキャリア支援課の職員の方々には何度も進路相談に乗っていただき、親身かつ的確なアドバイスをいただくことができました。本当にありがとうございました。
大学での4年間は非常に充実しており、かけがえのない財産となりました。これも、常日頃から支えてくださいました家族、友人、先生方、職員の方々、地域住民の方々をはじめとする皆様のお陰です。この場をかりて、心よりお礼申し上げます。今までの自分が様々な人に支えられてきたことを忘れず、今後は自分が多くの人たちの支えとなり、様々な形で社会に貢献できるよう邁進してまいります。
4月からは、私たちがそれぞれの手でつかみ取った道に向かい、新たな一歩を踏み出します。思い通りにいかず、苦悩することもあると思いますが、4年間で積み重ねた思い出や誇り、感謝の気持ちを胸に、自分らしさを忘れずに歩んでいこうと思います。
最後になりますが、大東文化大学のますますのご発展と、先生方や、職員並びに関係者の皆様のご健勝、そして在学生の皆様の一層のご活躍をお祈り申し上げ、卒業生代表とさせていただきます。
オリジナル卒業ソングのムービー上映
閉式後には本学の創立100周年記念事業 オリジナル卒業ソング「オーバーブリッジ」にのせて、卒業SNS企画「写真で集合!DAITO思い出CROSSING+」キャンペーンで集まった皆さんの4年間の思い出写真が詰まったムービーを上映。上映後には卒業生から大きな拍手が送られた。
「オーバーブリッジ」は、音楽ユニット「ヒメクリ」の星野みなみさんが歌、池田圭一さん(本学卒業生)が作詞、ギターを担当した。