大東文化大学100周年の節目に、次の10年、20年へ向けて策定された『DAITO VISION 2033』。これからの大学のあり方について、学長を囲み語り合いました。
[文化で社会をつなぐ大学]
高橋:本学は「漢学振興と東西文化の融合」を建学の精神とし開学しました。これは日本文化をしっかり尊重していくことに基づいた考え方であり、同時に西洋文化を吸収しながら互いの良いところ、補完すべきところを融合させて新しい文化を創造していく姿勢です。本学は100年この姿勢を貫いてきたなかで常に多様性に視点を置いて、その先端を走ってきたと自負しています。

100周年の節目に策定した『DAITO VISION 2033』においてさまざまな視点から将来を展望していますが、ミッションとして「文化で社会をつなぐ大学」を掲げました。今までの本学の伝統を受け継いでこの先の10年、さらには次の100年に向けて発展し続けていくという意思表明でもあります。
そのなかでいくつか考えていかなければならないことがあると思います。一つは少子化という問題です。少子化にどう向き合い、今までの伝統、あるいは文化をしっかりと受け継ぎ、縮小だけを考えるのではなく、積極的に攻めていきながら発展を求めていく、そういう姿勢を貫こうということです。それからもう一つ、グローバル化も大きな課題です。後ほどお話しいただけると思いますが、本学は他大学にましてアジアを中心とした国際文化交流の機会を多く設けてきましたが、さらにアジアから他の地域へという観点を追求していくことで、地域や領域などを超えた多彩な出会いの場をつくり文化の交差点を拡充していきます。
村:グローバル化という観点からいうと、本学での学部構成をみても文学部に日本文学科、中国文学科、英米文学科、書道学科があり、外国語学部に英語学科、中国語学科、日本語学科、そして国際関係学部では国際関係学科、国際文化学科、さらに大学附置研究所として東洋研究所も設置しています。学長がおっしゃった地域、領域を超えた出会いの場づくりにおいて、非常に明確に本学の特徴が出ているのではないかと思います。
高橋:ミッションと密接に関わるブランドの将来像としては「CROSSING+」(「地域・領域・時代を超えた多彩な出会い」を生み出す文化の研究・交流拠点)を掲げています。グローバル化が進むにつれて留学生も増えますから、教職員も含めて、そのなかで色々な文化が交差していくというそういう意味での「CROSSING+」。学部学科、研究科・専攻、研究所それぞれの単一的な研究分野を追求するのではなく、専門領域を超えていくことが時代のニーズでもあります。たとえば本学においても、スポーツ科学科と書道学科がコラボした研究があります。書を揮毫するときの動作分析をして、達人とそうでない人の差がどこにあるかを解明して、書道の指導に活かしていくことなども、まさに「CROSSING+」ではないでしょうか。このように今まで想像もしなかった、専門的な領域を超えて手をつないでいく文化交流を増やしていくことで素晴らしい学問の場が生まれていくと思っています。私自身としてもこれからの展開を楽しみに、期待しています。
村:本学には1980年代にはなかった新しい学科、スポーツ科学科や健康科学科、看護学科ができています。スポーツも文化、健康科学も文化、ソーシャルワーカーとしての看護師は文化の発展を支える担い手といえます。また経済学、経営学、社会学も文化を支えるための学びという側面をもっています。さらに本学はスポーツ分野で多くの実績を残していますが、スポーツで活躍している学生は必ずしもスポーツ科学科に所属しているわけではなく、経営学部や経済学部、文学部、法学部など色々な学部に所属しています。スポーツを通じてさまざまな学問が融合して「CROSSING+」するかたちになっている。これもまた本学の特徴だと思います。
[施策1 学生募集]

堀川:18歳人口が急速に減少しているなかで、学生募集はどの大学にとっても最大の課題だと思います。そうしたなか本学は昨年度大きな入試改革を行い、志願者が約5,700名増加しました。前年期比で約30%の増加で、志願者増加率は全国第5位という成績になっています。どのような制度を導入したかというと、一つは共通テスト利用入試の併願をしやすくしました。以前なら併願ごとに入学検定料も増額しますが、新しい制度では併願数が増えるごとに入学検定料の割引を実施しました。また資格の点数化、たとえば英検を持っている高校生はとても多いのですが、準2級なら英語の点数の70点に換算するといった、資格を一般入試に活かせる制度も取り入れました。奨学金制度も新たに整備し直して、支給額を大きくするなど工夫をした点も大きかったと思っています。次年度に向けても高校生にメリットのある新しい入試制度の検討を始めています。
また学力選抜以外の入試制度で入学するケースが増えるなかで、キーワードになるのは大学と高校、大学と高校生のマッチングだと思っています。本学だと通常の体験授業より密度の濃い、より関わりの深い「課題探究プログラム」を用意して入試に活用しているのがその好例です。オープンキャンパスも高校生とのマッチングの場に活用していきたいと思い、色々工夫をしています。大学の一番の看板は学生だと思っているので、学生のオープンキャンパススタッフを150名程度確保し、さまざまかたちで運営に関わってもらっています。またお笑い芸人がテーマを決めて喋るトーク番組がありますが、それを真似た「ダイトーク」というトークライブを企画したりもしています。オープンキャンパススタッフを経験した学生の中には、卒業後に後輩の様子を見に来てくれる人もいて、現役生と卒業生をつなぐ場にもなっています。
高橋:後で詳しく出てくると思いますが、環境整備も大切ですね。学ぶ環境もあるし施設の環境というのもあります。私たちが大学生だった頃と、今の学生たちはかなり感覚が違いますから、環境整備というのは非常に重要になると思います。正確な情報を収集しニーズをキャッチして対応していくのも大きな施策の一つになると思います。
村:スポーツ分野での卒業生の活躍は大学のイメージアップに貢献し、学生募集につながっていると思います。私は男子バスケ部の部長を務めていましたが、バスケ部からはBリーグに多くの選手を輩出しています。今年のBリーグのファイナルを戦った琉球ゴールデンキングスの岸本隆一、広島ドラゴンフライズの中村拓人ともに卒業生です。特に岸本選手はレジェンドとして注目度の非常に高い選手です。来年B1チームとの契約が決まっている選手が10名いますしB2、B3も含めると相当数の選手がプロとして活躍しています。

河内:書道家の活躍も目立っています。分かりやすい例だと、元号を揮毫された方とNHKの大河ドラマの題字を揮毫された方がいらっしゃいます。「平成」の元号を揮毫されたのが河東純一さんです。「令和」の元号を揮毫されたのが茂住菁邨さんです。大河ドラマの「麒麟がくる」の題字を揮毫されたのが中塚翠涛さんで、彼女は中国文学科を卒業されています。100周年の式典では講演もしていただきました。「おんな城主直虎」の題字を揮毫されたのがMaaya Wakasugiさんで、中国文学科を卒業され現在はフランス在住です。
高橋:各分野における卒業生の活躍は本学の知名度アップにもつながっていると思います。昨年は駅伝でシード権を獲得しましたが、放映番組、掲載記事などを広告宣伝費に換算したところ5億円以上という数字になりました。認知度アップのために大きな効果があることは確かです。

中野:本学のイメージや認知度については、100周年事業の効果測定調査の結果があがってきたところです。学生や教職員、第三者の本学に対するイメージ調査の結果を見ると、本学は学外へ向けての発信力が弱いということが分かりました。今お話のあったスポーツや書道だけでなく、100周年式典に出演していただいた歌手、新浜レオンさん等、卒業生には多くの人的資源があります。確かにスポーツなどは本学の認知度アップにつながっていますが、全体的に見るとまだうまく発信できていません。今後は、特に卒業生とのネットワークがより強固なものとなるように、さらには大学をアピールしていく際にそのネットワークと連携できるよう、いろいろな角度から情報発信の可能性を検討していきたいと思っています。
[DX改革]

村:コロナ禍においては対面授業ができないなかでも学び続ける上で、コロナ前に導入していた「manaba」という授業支援システムが非常に有効となり、学生の学びを支えました。これは学長が学務局長時代に導入されたシステムで、コロナ後も講義資料の配布やレポート提出、回収、添削などに活用されています。学生の成績処理や諸連絡でも富士通の「CampusMate-J」というシステムを使って、学生への講義通知や保証人への成績通知などに用いています。また皆様から賜った100周年記念事業募金を活用させていただき、無線LANを大幅に増強し、2つの校舎でWi-Fi環境を向上させる予定です。また看護学科では学ぶ範囲が多いのでページ数が多い多数の教科書を用いますが、iPadを導入し教科書をデジタル化することで、学生の教材持ち歩き負荷が減るという点で非常に好評です。教員のへ対応もDXに備えて、一部の教室では授業の同時配信や録画できるシステムを導入しており、それによって授業をオンデマンド、オンラインで提供する活用法も広がりつつあります。
中野:急速な社会変革のなかでDX対応は不可欠であり、今年からデータサイエンスの授業はオンデマンドを取り入れて、学生が時間関係なく受講できるようにしています。また「manaba」活用で今年から本格的に導入したものとして、ディプロマポリシー(卒業認定・学位授与の方針)と取得単位を結びつけて、学習成果をグラフで可視化する取り組みが始まっています。これを蓄積していって、学生が自身の学習成果を振り返り、どういう能力を高めているか分かるようにしました。最終的にはキャリアパスを考えるツールとして活かしていくことができればと考えています。
高橋:他大学もそうでしょうが授業のオンデマンド、オンライン化はこれからますます進んでいくでしょうし、本学でも進むべき方向の一つだということは間違いないと思います。
[大学院・研究所改革]

勝又:大学院ではそれぞれの先生が専門分野でオリジナリティある研究に取り組み、励むことは大学の研究力を高める上で非常に大事なことだと思います。それが大学院の教育・研究に活かされることで大学院生の財産になり、また、学部の教育にも反映されることが大学の活性化にも結びつくと思います。一方では人文社会学系の大学院へ進学する学生が少ない現実があり、中教審でもそういった調査がされています。文理融合ということで理系の研究者も文系的な素養を身につけることが科学を発展させていく上で大事だと指摘されているように、人文社会学系の研究は見直されています。社会変化の激しい世の中で、既存知識を利用するだけではなくて、柔軟に対応して、新しいものを生み出す力をもった人材を育てていくことが大学院に期待されています。
本学でも人文社会学系の大学院生の確保は課題ではありますが、学生が進路として選びづらいのは、経済的な問題、留学生にとっての言葉の壁、あるいはキャリアパスの不透明さなどがあるのではないかと考えられます。たとえばキャリアパスの場合、修了後に社会でどう活躍できるのかが見えにくい。こうした課題を一つひとつクリアして環境を整えることが大事で、現執行部になってからはその点を見直し、取り組みを始めています。
河内:研究所については、各学部には文学部に人文科学研究所、外語語学部には語学教育研究所といったように、それぞれの学部に附設研究所があります。これは学部の先生方が学問領域において研究テーマを設けてメンバーを募って研究するという組織で、研究会を開いたり、定期刊行物を発行したりしています。一方、大学直轄の附置研究所として東洋研究所と書道研究所があり、建学の精神に基づいた特徴的な研究活動を展開しています。
堀川:法学部にある法学研究所が、独自の取り組みをしています。法学研究所は教員の研究組織であり、学生を教育する組織としても機能しているのですが、学生に研修講座を開講し、資格試験の対策や普段の授業の補習のような取り組みも行っています。所属している学生は個人のロッカー、机をもって勉強できるのですが、公務員で上級職に就いたり、他大学の法科大学院へ多数進学したりと成果を上げています。
[キャンパス構想]
高橋:一時期、大学が都心から離れてキャンパスを持つという流れがありましたが、近年は利便性を重視し都心に回帰してきています。本学では主に東松山は1、2年生、板橋は3、4年生という学び方をしていますが、学生にとって通いやすさを考えると4年間一貫校舎にするのが理想です。しかしなかなか簡単に線引きできるものではありません。すべての学部学科が納得いくような4年間一貫校舎に向けて模索中です。
堀川:この問題はDAITO VISION 2033でも取り上げられていますが、2つのキャンパスともに校舎の経年化の問題もあり、学生に快適な大学生活を送ってもらうためにどのようなあり方が良いのか、学長室でも継続して検討しています。
村:快適な学生生活のために整備された点もいくつかあります。たとえば板橋キャンパス1号館の地下ホールですが、学生が集えるスペースとして学生の意見も取り入れながら、100周年記念事業募金を使って整備を計画しています。スクールバスにおいても東松山キャンパスではJR線沿線からの通学を考慮し、鴻巣便、久喜便を設けており、高坂便も駅からの循環型にして待たずに利用できるようにしていますので、学生の通学においては以前より利便性が高くなっていると思います。
[学生支援]

青木:毎年、学生調査をしていますが今回驚いたのはコロナ以降、6割以上の学生が部活、サークルに入っていないことです。友人を得るため、自分を成長させるために大事な活動なので学生たちの参加を促進したいと思っています。入学式では部活、サークルを大々的にアピールしました。たとえば青桐賞を受賞した「防災研究同好会(STERA)」や「鉄道研究会」などユニークな活動をしているところも多くあるので注目してもらいたいです。前者は「守るを学ぶ」をコンセプトにアクティブに活動しています。先日も、荒川が氾濫したときの行動について考えるため、模型を作り、小中学校へ行って出前授業をしている様子などがNHKの首都圏ネットワークでも取り上げられ大きなニュースになりました。
キャリア関連だと文科省、厚労省、経産省の三省合意のもとでは実習を5日間実施しないとインターンシップとして認められないことになっています。本学では授業内で学生を企業に派遣してインターンシップを実現する取り組みが行われ、注目を集めています。「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」という実行委員会があり、本学の取り組みが2022年度文部科学大臣賞に輝きました。
[財政基盤]
高橋:当然ながら学納金収入は大きな柱ですが、学生数、受験者数が減っていくとマイナスの波を受けるわけですから、文科省の補助金は柱の一つとしてしっかり獲得していくことが重要であると痛感しています。その際、さまざまな条件はありますがそこは最低限クリアして取り組みたいと思っています。また「こういうDXの授業を実施すると補助金がプラスされます」「新しい理系の学部をつくると補助金を出します」といった文部科学省からの通達や取扱いについて、常にアンテナを張っていることも大切だと思っています。このほか文科省の科学研究費、厚生労働科学研究費などについても多額の補助金が交付されますので、先生方にはその獲得へ向けてアプローチを続けて戴ければ幸いです。外部資金については毎年卒業生の皆さまに寄付をいただいていますが、大学が何を行っているかを可視化して、ご理解ご協力いただくことも大切だと考えています。事業会社についても安定経営を継続し、これら総合的な取り組みで財源を確保していきたいと考えています。