
演技を豊かにするために台詞を自分のものにする
―ここで現在の劇団虚構で小川さんが主演を務めた公演の一部をおかやまさんに視聴していただきたいと思います。
(格好良くて性格も良い完璧な兄が、幼少時に受けた心臓手術の影響で記憶転移に苦しみ、自分が自分ではない感覚に陥るが、妹と向き合うなかでそれを乗り越えていくシーンを視聴)
小川 滑舌も良くなくて反省点はたくさんあるのですが、印象、アドバイスをいただけたら嬉しいのですが。
おかやま 滑舌とかは全然関係ない。初舞台の良いところは表現が素直なところ、朴訥としているというのは良さで、これが少しずつ慣れてくると表現しようとする。それが一番毒で、本当は喋るだけでいいのに、怒りとか切なさとかの表現を入れたがるんだけど、それはいらない。演出家がそうしたいと言うならそうすべきだけど、コアな部分は何もない方がいい。根っこはその言葉を自分でちゃんと出しているかどうかだけ。本当はシンプルでいいんだけれど、俳優は上手いって言って欲しくて色々やってしまう(笑)。
若いときはそれも仕方ないけどキャリアを積むとどんどん装飾を外していけると思う。自分が「嘘をついている」というのが分かるとき、それは自分に合っていないやり方で、多幸感をもって演じられているときは多分、心と体と言葉が一緒になっているんだと思う。
そこを探すのが難しいけれど楽しいんだよね。
それを見つけるために台詞100回言って自分の言葉にならなかったら200回やらなくちゃいけない。納得すれば稽古場でいかようにもできる。言葉と戦うのは稽古前に終わらせておく。台詞を言うための稽古ではなくて、台詞を言える状態から稽古に入れるようにしておくと色々なアイデアが出てきて演技が豊かになっていくと思うよ。
小川 ありがとうございます、勉強になります。
引き出しを多く持つために経験を積み上げる
―良い機会なのでおかやまさんにお聞きしたいことはありますか。
清木 お芝居の話になるんですが、よくプロの役者の方が自分自身と役の分離感があったほうがいいとか、やはり役のなかにも自分の芯は持っていた方がいいとか言いますが、どちらが良いのでしょうか。
おかやま ニューヨークの有名な演劇学校で取り入れているスタニスラフスキー・システムというのは「その人になりきる」という教え方で、多くの有名俳優を輩出しています。ロバート・デニーロもその一人。そういうやりかたも一つだと思いますが、僕のなかでは、たとえば泥棒の役があって、その役を演じるために泥棒しないと分からないではなくて、泥棒したくなる気持ちを想像することが大事だと思っています。泥棒したくなる感情を突き詰める。人を愛する感情、蔑む感情、自分のなかにたくさんの感情があって、そこから泥棒したくなる感情を探して、その人間性をふくらませていくことですね。
借り物の衣装を着たような芝居ってあるでしょう、たとえば人を脅かすときに肩を怒らせて怖い顔を作って大げさに「何だこの野郎」なんて言うような芝居があるけど、そんなことをしなくても、深い怒りの感情を込めた表情で静かに「何?」と言った方が怖さが出る。そういうことだと思います。
清木 そういういくつもの自分を持つためには、色々なことを体験することが大事なんですね。
おかやま そうだね、積み重ねていくこと。政治の話も宗教の話も、宇宙のことも死後のことも、グルメのこともすべて無駄ではない。話したり考えたり体験することで少しずつ積み上がっていく。そういう考え方をしていくと普通の人よりも感受性が豊かになって、役者としての財産になっていくと思います。
映画100本観て、本100冊読んで1ミリ積み上がったと思っています。 おかやま
つまずいても、まず先に進む
小川 自分が初めて冬季公演で役者をやらせてもらったとき、台詞をスマホで録音して聞いてみる、という練習をやっていました。ここはどういう感情だろう、ということを考えてその思い台詞を言ってみるんですが、聞いてみるとそうは聞こえなくて、どうすればいいかとても悩んだのですが。
おかやま それは感情のなぞりなんだと思う。難しい話だけれど悲しいとか、嬉しいとかっていう感情をなぞっているに過ぎないからそうは聞こえなくなる。台本解釈はとても大事で、たとえばここは切ないなと思っていてもそう聞こえないなら、違う感情を入れてみるという方法もあるし、そうするとこれは切ない台詞じゃないことに気づいたりすることもある。もし、そこでつまずいて先に進めなくなっていたら、その石ころを蹴飛ばして気にしないで先に進んだ方がいい。ほかにやるべきことはたくさんあるから、その問題は先送りして優先順位の高いものからやっつけていったほうがいいね。今やるか、後にするか、それは演劇だけではなくて人生の色々なことにおいて言えると思うな。
清木 僕は今後、客演などで外の劇団で色々なことを経験したいと思っているんですが、客演の経験も豊富なおかやまさんに、そういう慣れない現場で早く周囲に馴染むためにはどうすればいいか、コツなどあったから教えて欲しいです。
おかやま 僕の場合、まったく知らない現場というのはほぼないんだけれど、まず演出家の言うことにすべて「はい」と答えて演じることしかない。それができて周囲が認めてくれてコミュニケーションがはじまっていくから。俳優は「はい」っていう仕事だから。「いや、でも」ではない。その演出はどうなんだろう、と疑問に思ってもまずその通り演じてみて、「もう一つ試していいですか、こういうのやってみたいんですけど」と提案したりして、そこで話し合ってコンセンサスを得ていく過程で居心地も良くなっていくと思います。
演劇を一生の友だちに
―長年俳優として活躍を続けるおかやまさんにとって演じることの喜びはどんな点にありますか。
おかやま 演じている瞬間そのものが楽しいですね。演じるって、うがった見方をするといかに嘘をつけるかどうかじゃないですか。その嘘を自分で信じ込んで、本当に思える感じになるカタルシスが楽しいです。僕にとっては、何でカレーライスが好きなの?と聞かれて、美味しいからと答えるのと同じように、演技は楽しいから好きと言えるものなんですよ。
―おかやまさんから後輩へエールを送ってください。また、最後にそれぞれの今後の目標を教えてください
おかやま 「演劇が好き」ということを大事にして欲しいですね。好きじゃなければやめていいけど、やめるのが嫌ならとことん好きになる努力をしたほうがいい。そうすれば演劇でプロになるならないは別として、演劇が一生の友だちになると思います。音楽が好きでプロにならなくてもずっとギター弾いたりしている人がいるでしょ、それと同じ。将来、職業に就くときもその仕事が好きで、持続していけることはとても大事で格好いいことだと思います。
自分の好きなことを職業にする、という夢はすでに叶えられましたから、あとは体が続く限り長く続けていきたいと思っています。
清木 自分も一時プロを目指そうと思ったこともありましたが、やはりちょっと難しいかなと考え直して、今は趣味にしようと思って社会人劇団にも入って、楽しんでいきたいと思っています。どちらもきちんとやり通して、演劇が人生の糧となるように色々経験して成長していきたいと思います。
小川 演出を突き詰めていきたいですが、できることを増やしたいので演劇部では役者や脚本にも取り組みたいです。作品のジャンルもあまり固定せず、色々な表現に挑戦したいと思っています。