Education & Research

少子化問題を考える

日時
2006年12月8日(金) 10時40分~12時10分
内容
出生力低下(少子化)の要因と欧米の歴史的経過の検討
講師
池 周一郎(帝京大学文学部社会学科助教授)
会場
大東文化大学板橋キャンパス 1号館3階301教室(10301教室)

出生力低下の要因と欧米の歴史的経過

地域デザインフォーラム公開講座(第2分科会)は2006年12月8日(金)、池周一郎・帝京大学文学部助教授を講師に招き、「出生力低下の要因と欧米の歴史的経過」をテーマに開かれました。公開講座には、市民や学生、区職員など多数が参加し、東田親司研究員の司会で進行されました。まず、東田研究員から、地域デザインフォーラムや分科会で少子化対策をとりあげた趣旨についての説明があった後、講師の紹介に続いて、池助教授より統計学、社会学の立場から解説・説明していただきました。

池 周一郎(帝京大学文学部社会学科助教授)

池助教授はまず、「出生力低下の本当の要因は専門家でもよくわかっていません。それを統一的に説明する理論が実証されていません」と少子化問題に対する学界の状況を結論的に言及されました。この理由について、次の3点を挙げ、それぞれの側面から説明されました。
統計学的視点から、「“少子化”という言葉に相当する英語はなく、出生指標は日本でよく使われる合計特殊出生率以外にも、期間指標やコウホート指標、純再生産率などあります。合計特殊出生率は、期間をみるには便利なものですが、年齢別の出生率を単に足しているもので、夫婦間の子供の数を指しておらず、いろいろな誤解を招いています」と日本における指標の取り扱い方の問題点を指摘されました。

また、歴史的視点から、「ヨーロッパでは19世紀半ばには現在の問題とは根本的性質は異なるものの、危機感をもって出生力の低下が言われていました。日本では1980年代に指摘されましたが、当時それへの危機に誰も気付きませんでした」と出生力の低下は古くて新しい問題であることを強調されました。
理論的側面から、「出生力低下の理論や仮説は多くありますが、長期・短期の変動を説明しうるものは存在しません」とした上で、いくつかの理論・仮説が紹介されました。「ベビーブームで危機感は一時的に解消されました。しかし、1950年ごろまでは結婚と出産で説明できますが、その後もしばらく続く理由がこれだけでは説明できません」「一時有力だったイースタリンの仮説は当時においては妥当性のあるのもであったが、これだけでは説明できない事象があります」「女性就業化に関する仮説は両論あり、女性の就業化は必ずしも晩婚化を招くものではなく、親から早く離れたほうが結婚が早いという傾向もあります」と。これらのほか、経済変動との関連の短期仮説や高学歴化に関する仮説など紹介されました。
最後に、「さまざまな仮説は、当時の状況では説明できても、その後の社会の変化により証明できないものとなっています。このために、統一的な理論ができていません。ただいえることは、決定的な理論がないということと、新たなベビーブームが起こりうるかもしれないということです。決定的ではないかもしれませんが、事実婚を増やさないといけません」と。

公開講座(第2分科会)の様子

引き続き、質疑応答に移り、戦争との関連、子供にかける費用の問題、就業形態の変化、早婚化を目指すための具体的方策などについて質問が出されました。戦争との関連では、「戦争自体は人口を減らすものです。将来の人口への影響は短期的にはマイナスですが、その後のことを考えると一概にそうとは言えません」。また、子供にかける費用の問題については、「よく言われる仮説で、量から質への変化ということです。ヨーロッパではお金がかからなくても出生力が落ちています。一人に多くのお金をかけるということが常態化しています」。最後に、会場の学生に対して、「後先を考えずに自由主義的に、真剣に恋愛を楽しんでもらいたい」とアドバイスがありました。