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2017年春季英文学会が開催されました。

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寺澤盾先生 ご講演 「英語史で解き明かす英語の不思議」

 2017年度春季英文学会では、講師として東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻教授である寺澤盾教授をお招きし、「英語史で解き明かす英語の不思議」と題するご講演をしていただきました。ご講演の内容は以下の3点です。

 まず1つ目は、「綴り字、発音における不思議」についてでした。例えば、‘debt’ ‘b’ は発音しない音であり、この音は ‘silent letter’(読まれない文字:黙字)と呼ばれています。‘debt’ は中英語期に古フランス語から借用された語で、当時は ‘dette’ の形でした。ところが、ルネッサンスによってラテン語が学び直された際に、この語の源であるラテン語の ‘debita(m)’ に倣って ‘b’ が挿入され、現在の形となりました。しかし、一般の人々にはその考えは広まらず、‘dette’ の発音を続けたために ‘b’ ‘silent letter’ となりました。

 2つ目は、「語彙における不思議」です。同じ意味を示す関連性のない単語があるのはなぜか、多くの単語を例に取り、学生参加型の形式を取りつつ解説をしていただきました。英語には、本来語の他に借用語があります。外部から借用した単語と、昔から存在していた単語が混ざり、数々の類義語が生まれたのです。また、多様な語彙があるために、英語には細かいニュアンスを表現できる強みがあると仰っていました。

 3つ目は、「文法・形態における不思議」についてです。‘could’ の元々の形は ‘coud’ でしたが、同じ助動詞である ‘would’ と同様に ‘l’ が入っていると勘違いした人々がいたために ‘l’ が挿入され、現在の形になったのだそうです。また、‘must’ に過去形が無い理由についても興味深いエピソードを聞くことが出来ました。‘must’ の場合は、元々現在形である ‘mote’ がありました。直接的で無礼なニュアンスを含んでいた為に人間関係を壊しかねないとされ、婉曲表現である過去形の ‘must’ を現在形としても使うようになったことが始まりだそうです。さらに ‘you’ についても解説していただきました。かつて身分の高い者から低い者に対しては ‘thou’(二人称単数・親称)が、逆の場合には ‘you’ や ‘ye’ (二人称複数・敬称)が使われていましたが、中英語期には単数形・複数形共に同形となった為に現在でも使用されている形となりました。

 ご講演終了後には多くの質問がなされ、有意義な時間となりました。その後行われた懇親会でも、寺澤教授は多くの学生達の質問に対して丁寧にお答えくださいました。