2007年度前期 高校生のためのアジア理解講座 実施報告書
総括
前期「高校生のためのアジア理解講座」を振り返って
「高校生のためのアジア理解講座」は、本学部が創設以来進めてきたアジアに関する研究と教育の成果を、高校生を中心とする一般の人たちに還元するために実施したものであり、映像や音楽などを用いた多面的な講義構成により、アジアの歴史、政治、社会、文化等について、参加者の理解を深めることができたと思われる。
反省点として、事前の情宣活動が不十分だったため、参加者が予定を下回ったことがあげられるが、本講座は秋にも2回目の実施を予定しており、今回参加者から出された種々の質問や要望を踏まえてさらに充実した講座を企画するとともに、情宣活動にも力を入れて1人でも多くの高校生に参加してもらいたいと考えている。
本講座から得られたものは、学部の「アジア理解教育の総合的取組」にフィードバックさせるつもりである。具体的には、高校生たちのアジアに対する関心・興味のあり様を点検し、大学入学前の事前教育や入学直後の導入教育等の参考にしたい。また、高校生のための講座で留意した平易にアジアを語る方法を今後の教育に活かしていきたい。
参加者数 計37名(高校生11名、一般10名、学校関係者16名)
1.「アジアとはどんな世界だろう?」
国際文化学科教授 押川典昭
アジアを見る眼・世界を見る眼について考えるために、世界地図の描かれ方と世界認識の手段としての言語について話をした。前者では、日本人は北極が上にくる世界地図に親しんでいて、それが当然のように考えがちであるが、オーストラリア製の世界地図では南半球と南極が上に描かれることを実際の地図を示しながら解説し、一点に縛られない視点の大切さを話した。後者では、虹の色が何色に見えるかは文化によって違うこと、それは自然現象や事物、感覚などをどのように仕分けして把握するかで決まってくることを解説し、われわれがいかに言語に依存して世界を認識しているかを話した。高校生には内容がやや高度であったかと思うが、フロアーからの質問も活発になされた。
2.「イスラム教とは何だろう?」
国際文化学科講師 高野太輔
イスラム教の基本的な教義と戒律について説明した後、聖典コーランの朗唱を録音テープで鑑賞しながら解説を行った。参加者は飽きる様子もなく熱心に受講していたが、高校生は始めて見聞きする内容に圧倒されたようであった。もう少し気軽に質問ができる時間がとれればよかったと思う。
3.「ガンディーのインド・ITのインド」
国際文化学科教授 井上貴子
インド建国の理念「Unity in Diversity」をキーワードとし、ガンディーや近年の頭脳立国を目指すインド教育のビデオを用いてインドの多様性にせまるとともに、現代インドのかかえる矛盾や社会問題にふれ、この理念がグローバル化する現代世界でこそ重要であることを明らかにした。若い人々に色々と感じてもらう場にしたかったのだが、参加者が少なく残念である。
4.「米と象とムエタイの国タイ?」
国際関係学科准教授 遠藤 元
タイの一般的なイメージを覆す事実を写真や図表を用いて説明し、「工業国」タイの現状を明らかにするとともに、日本とタイ、日本とアジアの新たな関係を考える構成とした。
途中、クイズやお菓子の試食なども交えてわかりやすく説明したつもりであるが、やや難しい話も混じっていたかもしれない。参加者は熱心に聴講してくれた。
5.「日本と中国のはざまから日中関係を考える」
国際文化学科教授 鹿 錫俊
中国と日本でそれぞれ教育を受け、双方で仕事と生活の場を持つ「境界人」の立場から、日中のはざまで味わった苦悩とそれによって生まれた思索をふまえつつ、①日中間の「こころ」の葛藤は何に起因するのか、②この「こころ」の葛藤は両国間にとってどのような障害となってきたか、③新しい日中関係を築くために、どのようにしてそれを克服していくべきか、の3点を中心に語った。参加者は熱心に聴講し、質疑応答では交流を深めることができたと思う。